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たとえばこんな間桐の話の蛇足の話(後)

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 ──眩しい、白。
 揺れる。踊る。幸せそうに、笑っている。
 あの男の傍らで。
 その光景に、奥歯がごりり、と音がする程に噛み締められている事に。
 彼は気付きつつも、それを止められなかった。
 周りには二人を祝福する人々がいる。
 わかっている。
 自分に、資格が無い事など。自分も、祝福するべきなのだという事も。
 だがそれでも、その光景の全てを受け入れる事が、彼には。……時臣には。
 出来なかった。




 間桐に乗り込んだあの日。
 時臣は、それを見た。


 ──蟲だ。
 蟲が、蠢いている。
 何だあの形状は。
 何だあのおぞましいモノの群れは。
 何だあの地獄と絶望を具現させた様な光景は。

 暗く、昏い、地下の底。
 蠢いている醜悪なそれに、時臣は言葉を失う。
 蟲蔵を見下ろして、時臣は立ち尽くす。

 あの男は蟲の餌と言った。
 あの男は蟲に陵辱され尽くすと言った。
 間桐の贄となるのだと。
 ならば、桜は。
 私の、娘は。
 あんな、あんなモノに。

 表情の無い顔で。
 蒼白な顔で。
 時臣はそれを見下ろし続ける。
 ただ、次第に震え始める唇と、異様なまでに見開かれる眼が。
 これから起こるだろう事態を、予感させていた。



「……それはそれは面白い見世物だったぞ。何せ、あの優雅を信条とするつまらぬ男の魅せる、見事なまでの破壊と狂乱っぷり……。怒りに染まり、しかし確実に忌まわしい全てを灰に帰す炎の乱舞……。うむ、我も時臣が全てを燃やし尽くせる様、あの腐れた蟲屋敷を砕いてやった甲斐があったというものよ」
 我も子供達との約束に加え、あの蟲蔵の不快さに間桐邸の破壊行動に力が入ったのは事実だが、肝心な部分は取られてな、と笑う。
「時臣が抜かすのだ。自分にやらせてほしい、とな。我を王と呼びながら、懇願の形を取りながらも、既に時臣の中では決定事項だったのだろう。……我は寛大だ。子は宝。魔術師では無く、親としての怒りと激情に免じ、譲ってやったまでの事」
 いやしかし、傑作だったな!!とまた笑う。
 間桐の結界を力任せにぶち破って。
 蟲を燃やし、屋敷を破壊し、あの元凶爺を全力で打ち倒した。
 一般人の目には決して触れない様にと掛けられた、諸々の魔術もガン無視である。
 その所為で火柱上がる間桐邸がご近所の民間人の手によって撮られた挙句、ニュースで散々報道された訳だが。……まぁ、他に被害が出た訳でも無いのだから構わないだろう。
 と、ご機嫌な英雄王に、地を這う様な声が掛かる。
「……………王よ。その辺にして頂けませんか………」
「よいではないか。桜と雁夜が夫婦となった祝宴の席での余興のつもりが、貴様の暴走の所為で機会を逃し、内輪での酒宴で披露する事になってしまったのだ。邪魔するでないわ」
 ふん、と鼻を鳴らして一蹴する。
 しかし、直ぐ様にやり、と嗤い。
「……我が貴様の勇姿を語ってやろうというのだ。光栄の極みであろう?時臣よ」
「夫婦になどっ……!!確かに籍を、入れっ……式までっ挙げ………いやあんなもの無効だ!!大体桜のエスコート役が何故間桐鶴野なんだ!!確かに戸籍上ではあの男が父親だが私だったら雁夜のもとへなど送り届けないがウワアアアアおのれ雁夜ァァァ!!!」
「優雅はどこへいったのだろうな?貴様の信条であろう、時臣ィ?」
 時臣の口から迸ったのは返事などではないただの慟哭だったが、ギルガメッシュは面白そうにその様子を見ていた。
 そして、その様子に愉悦を見出している者がもう一人。
「ゆえつゆえつ」
「君何師匠で愉悦してんの!?そんな暇があるならお子さん愛でに家帰ったらいいんじゃないかなぁ!!」
「ご心配無く、師よ。今は師を愛でる時間と決めております。父と子を愛でるのは帰宅してから全ての時間を費やすので問題はありません」
「ウワアアア何だこの弟子!!」
「……また随分と手軽な愉悦を見出したな、綺礼よ」
「そうだろうか?死の間際の絶望の表情や感情もそそるが、あれはたまにだからいいものだ。何より、そればかりを追い求めていては、長く愉しめないだろう。父上にも周りに迷惑が掛かるやり方は控える様に言われているのでな」
「……吹っ切りおって。しかし、雁夜や桜にまで手に掛けられてもつまらんしな……」
 まぁよかろう、と鷹揚に頷いて。
「時臣のうっかり話と暴走話、貴様は持っておらんのか?我が許すぞ。話せ」
「む、ならば……よし、先日の……」
「何話す気なんだい綺礼!?」
 因みにその場の面子といえば。
「あらあら♪」
 幸せそうな娘の姿を見て、泣き腫らした顔もそのままに。それでもとても幸せそうに、英雄王の秘蔵の酒を振舞われ、ほろ酔い気分でにこにこしている葵と。
「何やってるんだか……」
 最早父に対して呆れが先に来る遠坂家長女の凛。当主の座も譲り受け、名実共に遠坂の代表となっている。
 ギルガメッシュの話に少し父として見直したりもしているのだが、雁夜へ呪いの叫びを上げる様にうわー、とか言っていた。
 そして、もう一人。
「ふむ、綺礼が愉しそうで何より」
「はっ、父上!!」
「やあ、綺礼。迎えに来たのだが……話も弾んでいる様だし、私は先に帰って……」
「いいえ、私も帰りましょう。カレンはどうしましたか?」
「ああ、もう寝てしまってね。それでは申し訳ないが、私達はこれで」
「仕方ないな……。カレンも連れてまた来い。王の命令は絶対ぞ」
「はい、それではまた」
「……父上、アレに律儀に返事する必要は皆無です」
「貴様は実にファザコンだな、綺礼よ……」
 思わず半眼で突っ込むギルガメッシュだが、反応もせずに己を迎えに来た父に連れられ、綺礼はさっさと出て行った。
「つれないわねぇ、綺礼は」
「ふふっ、愉悦の方向が平和的で良い事だわ」
「何でこうなった!!どうしてこうなった!!」
「そろそろ諦めろ、時臣」
 あの運命の日から時が経ち、それぞれにもたらした変化も大きかった様ではあったが。
 結局の所。
「私もそろそろ寝るわねー」
「そう、おやすみなさい、凛。お母さんはもう少しお酒飲んでるわねー」
「……葵、あまりハメを外すでないぞ。お前に何かあると凛や桜がうるさい」
「うふふ、大丈夫ですよ、おうさまー」
「お母様ったら……。ギル、お母様の事お願いね」
「よかろう。我に任せるがよい」
「ウワアアアアどちくしょうがァァァ!!」
 ……荒ぶるお父さんは置いておいて、なんだかんだと平和な遠坂家なのだった。