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「その話、ホントか!?」

キラキラと瞳を輝かせ、金髪の青年に詰め寄っているのは、瞳と同じ鳶色の髪を短く刈った、赤い服を身に纏った少年だ。

「ああ、二刀流ってことなら、リオンが剣を2本使って戦うよ。」

1本は短剣(ダガー)だけどね、と付け加えながらにこやかに答えるのはドープルーンのアドリビトムの使者としてやってきた青年、スタンだ。

アイリリーのアドリビトムのリーダーであるクラトスの元へと伝言を届けに来たスタンは、人懐こい笑顔を浮かべてまだ出会って間もない年下の少年に問い掛ける。

「でも、なんだってそんなことを?」

「…俺、自分以外の二刀流の奴ってみたことないんだ!!だから1回手合わせしてみてぇんだけど!!」

ロイド、と名乗る17歳の少年はスタンよりも僅かに高い上背から目を輝かせながら、勢いよく答える。

「うーん…ちょっと気難しい奴なんだけど…大丈夫かな。」

スタンはちょっと困ったように眉を下げながらも、それなら今から一緒にドープルーンへ来る?と、人好きのする笑顔で誘ってくれた。
勿論、一も二も無く満面の笑顔で頷くロイドだ。

早速うきうきと支度を済ませ、ドープルーンへの帰途に着くスタンに同行することになった。
道中モンスターが幾度か現れたが、2人の実力なら、難なく屠ることが出来た。


昼にアイリリーを出発した2人が程なくドープルーンへと辿り着いたのは、出発から2時間後のことだ。

「…じゃあ、俺はウッドロウさんにクラトスさんからの書類を届けに行くから。」

「ああ!ありがとうなー、スタン!!」

ぶんぶんと勢い良く手を振ってスタンと分かれたロイドは、早速いつもリオンが居るという広場を目指す。

『…そういや、俺、名前しか聞いてないけど、どんな奴なんだ?』

道中、スタンにそう問い掛けてみれば。

『うーん…黒髪で、背がちっこくて……まぁ、広場に行けば目立つから解るよ!』

何故か照れ臭そうに金髪をがしがしと掻きながら、そんな言葉で片付けられてしまった。
まぁ、見つからなければその辺りで適当に聞いてみればいいか、と気楽に思い直してロイドはスタンに教えられた広場への階段を上る。

午後の暖かな陽射しの中、広場に集う街の人々の姿は皆、笑顔に溢れている。
…漸くこの世界に戻った平和に、誰もが安堵して日々の生活を送れるようになっていることに、アドリビトムの一員としてロイドは嬉しくなる。


が。

ロイドが見渡した広場の隅に、明るい広場に似つかわしくない仏頂面を浮かべた少年が1人。
つまらなそうな表情で腕を組み、じっと佇んでいる姿は、黒髪で随分と華奢な体付きで。



そして、とても綺麗な少年だった。









(…なるほど。確かに目立つなぁ…。)



スタンの言葉に心の底から頷きながら、ロイドは真っ直ぐに少年へと歩み寄る。
躊躇いなくずんずんと近づいてくる人間に、リオンは深い紫電の瞳を眇め、睨め付けるが、ロイドに気にした素振りは全くない。

「えっと、リオンだよな?俺、アイリリーのアドリビトムに居るロイドって言うんだ!宜しくな!!」

にっこりと笑ってグローブに包まれた右手を差し出すが、目の前の少年は腕を組んだまま微動だにしない。
挨拶を返すどころか、無言でじろり、と睨み付けてくる。

『…ちょっと気難しい奴なんだけど…』

スタンの言葉を思い出し、心から納得するロイド。
行き場の無くなった手で頬を掻きながら、苦笑いを浮かべる。

「…えーっと。俺、怪しいもんじゃなくって、スタンにあんたのことを聞いてアイリリーから来たんだ!」

「……スタンに?」

漸くリオンが口を聞いてくれたことにほっ、と胸を撫で下ろすロイド。
見た目の印象よりも、少し低い声が問い掛けてきた言葉に、笑顔で答える。

「ああ!リオンって二刀流なんだろ?俺もそうなんだ!で、一度手合わせして欲しいんだけど!!」

「断る。」






一言ですか。





がくり、と項垂れたときに、ロイドは出掛けにジーニアスから持たされた、腰に吊された差し入れがふと目に入った。
こうなったら、駄目元でアドリビトムの依頼らしく交渉してみるか、と思い直す。

半ば自棄のように、腰に吊されたクッキーの袋を外して、リオンの眼前へと突き出す。

「勿論、タダとは言わないぜ!ちゃんとした依頼としてだ!報酬はこれ!」

「…なんだそれは。」

胡乱げに、目の前へと突き出された袋を、つまらなさそうに見遣るリオンだったが。

「俺の親友が焼いてくれたクッキーだよ。すっげー旨いんだぜ!」

袋の紐をしゅる、と解いたロイドが中を開けば、程よく焼き目のついたチョコとプレーンの市松模様のクッキーが姿を現した。
出掛けに焼き上がったそれは、まだほんのりと熱を持ち、ふわりと香ばしい匂いが立ち昇る。

この少年の今までの傾向からして、「くだらん。そんなもので承諾できるか!」などと一喝されるのを覚悟していたロイドだったが。


「…………。」

ロイドの手元のクッキーへと視線を落としたまま、沈黙している。
その表情こそ表には出さないが、今まで一言で明快に答えを返してきた少年が、それだけで躊躇っていることが窺える。


(あれ?…もしかして、甘いもんが好きだったりするとか…?)


じっと、クッキーを手にしたままのロイドと、それに視線を落としたままのリオンが暫く無言で対峙していると。

「あ、いたいたー。おーい、リオーン、ロイドー!」

広場の階段の向こうから現れたスタンが、2人の姿を見つけて声を掛けてきた。

「スタン!」

「…戻ったのか。」

「ああ!ただいま、リオン!…ロイドも、ちゃんとリオンに会えたみたいで良かったよ!」

この場に漂っていた緊張感など全く気にもせず、スタンがにっこりと2人に笑い掛ける。



(…あれ?)



ロイドは目の前の少年の表情が明らかに変化するのがわかった。
つい先刻までは、深い紫電の瞳をきつく眇めて、誰も彼をも寄せ付けないような雰囲気だったのに。


…スタンに向ける、ほんの僅かに口の端を持ち上げて微笑む姿は、まるで別人だ。


(こんな顔も出来るんだ…。)



何故か感動すら覚えて、リオンを見つめるロイドは、スタンに掛けられた声で漸く我に返る。

「で?OKしてもらえたのか?」

「…いや、まだ交渉中。」

ロイドが苦笑いでスタンに答えると、うーん、と彼が癖のある金髪をがしがしと掻いた。

「…なぁ、リオン。俺からも頼むよ!ロイドには此処までの道中、世話になったし。」

な?と、スタンが困ったような笑顔で頼み込めば。





ふぅ、と溜息混じりに、静かに目を伏せた少年が呟いた。

「……仕方ないな。」

「マジで!?」

そんなあっさり!?と思わないでもないロイドだったが、この際受けてくれるのなら細かいことを気にするのはやめよう、と結論を出す。



「…但し、アドリビトムの依頼として、だ。…ちゃんと報酬はもらうぞ。」
















(……あ。やっぱり甘いもんも好きなんだ…。)









「…何がおかしい。」