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MISSION IMPOSSIBLE

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MISSION IMPOSSIBLE:VIRGO



 ある日私は一大決心をした。
 次こそは、思い切り大胆にアイオリアを誘ってみせる!
 題して「乙女座お誘い大作戦」(「お笑い大作戦」ではない←念の為)。


 ことの起こりは、デスマスクの一言だった。

「相変わらず処女みたいにお堅いヤツだな。そんなんでちゃんとアイオリアを喜ばせてやってんのか?」

 アイオリア不在の酒の席で下世話な冗談を言った為、六道送りにしてやった蟹座は、ほうほうの態で戻ってきて私をそう誹謗した。

「男ってのは昼間は淑女、夜は娼婦といった女に弱いんだぜ? たまにはバージンもいいだろうが、四六時中ツンとお高く留まってるようじゃ疲れるだけだって」

 世迷いごとを……と思ったが、聖域一の放蕩者と名高いこの男の言葉は、妙にリアリティがある。

 確かに私は房事に疎い。
 アイオリアの激しさに流されまいと必死になるあまり、相手を喜ばそうという点にまで頭が回らなかったのは事実だ。
 いつも求められるばかりで、私から求めたことも、そうしなければならないと考えたことも、今まで一度もなかったのに気付いた。

「黙れ、デスマスク。シャカ、こいつの言うことなんて気にしなくていい」

 アフロディーテは慰めてくれたが、この時私は決意したのだ。
 必ずや、アイオリアが泣いて喜ぶ媚態を演じてみせよう!
 神に近い男と言われ、死すらも超越した私に不可能などない。
 こうして私は、女神の誕生パーティの護衛の為に日本に赴いたアイオリアが帰ってくる日を、指折り数えて待つことになったのである。


 女神と共にアイオリアが聖域に帰還したのは、19日の夕方になってからだった。

「ただいま、シャカ」

 教皇宮への報告を済ませたアイオリアは、聖衣のまま処女宮を訪れた。

「ご苦労だったな」

 三週間ぶりの逢瀬に逸る気持ちを抑え、私は精一杯愛想良く出迎えた。
 いつもの洗いざらしの木綿ではなく、恐れ多くも先日女神が私の為にあつらえて下さった薄物を特別に纏っている。
 アイオリアの目線が無遠慮に露出した肌の上を這うのを感じ、まず一戦、と思いきや。

「――元気そうだな。だが、ちょっと痩せたか?」
「……え……? あ、ああ」

 ……私の意図が伝わりにくかったのだろうか……?と首をひねった。
 確かにアイオリア自身、衣装云々にかまける男ではないのだが、目の付け所が微妙にズレている。

「薄着で風邪を引くなよ。朝晩はもう冷えるからな」

 ……これも優しさだということは判る。

「ええと、沐浴はまだであろう? 湯を張ってある」
「ありがたい。では、遠慮なく使わせて貰うか」

 アイオリアが勝手知ったる処女宮の浴室に消えた後、頃合いを見計らって、私も薄物に手を掛けた。
 今までに何度も引っ張り込まれた経験はあるが、自分から進んで入るのは初めてだから、これも正真正銘立派なお誘いと言えよう。

 と、その時処女宮の入り口で私に呼びかける小宇宙を感じた。
 誰だ、邪魔をする者は!

「ムウ、今頃何用だ」
「すみませんシャカ、今日一日聖域の外に出ていたもので」
「……それで?」
「今日は貴方のお誕生日でしょう? だからこれを」

 差し出されたのは、私の好きな紅茶の包みだった。

「覚えていてくれたのか」
「勿論ですよ。私はあの馬鹿獅子……失礼、アイオリアとは違いますから。久しぶりに帰ってきたところで、どうせ忘れているんでしょう」
「…………」

 確かに『ただいま』とは言われたが、誕生日への言及はなかった。
 私自身そう言ったことには無頓着なので、それはそれで構わない。
 ただ、覚えていてくれたムウには感謝するが、アイオリアが来ていると判っていながらこの時間にわざわざやってくるのは、嫌がらせではないだろうか。

「では良い誕生日を、シャカ」

 礼もそこそこに宮の中に戻ると、バスローブ姿のアイオリアが立ったままガシガシ髪を拭いていた。

「───ムウか?」
「……紅茶をくれただけだ」
「そうか」

 誕生日だから、とは自分からは何となく言いづらくて、投げやりな口調になるのはやむを得まい。

作品名:MISSION IMPOSSIBLE 作家名:saho