MISSION IMPOSSIBLE
ウゾをあおるアイオリアを眺めながら、私はじりじりしていた。
あの後も思いつく限りの秋波を送ってみたが、アイオリアの様子に変化はない。
いつもは私が待てと言うのにも耳を貸さないのに、強引でない獅子など別人のようで気味が悪いではないか。
こうなったら、意地でもアイオリアを誘ってみせる!
私は遂に捨て身の手段に出ることにした。
「……アイオリア……」
あまりにも古典的だが、彼のような性格には極力ストレートな誘いの方がいいのかも知れない。
私はアイオリアの逞しい肩にしなだれかかった。
バスローブの袷から覗いた、ほんのりと石鹸の匂いがする褐色の胸元に頬を寄せる。
「……早くベッドへ……」
限界一杯まで甘えた口調で訴えた途端、力強い腕が私の体を抱き込んだ。
顔が近づく気配は、目を閉じたままでも判る。
(よし!)
心の中で諸手を上げるまもなく、触れ合ったのは唇ではなく、互いの額だった。
「どうした、具合でも悪いのか?」
思わず目を開けると、息の掛かるほどの距離にアイオリアの真剣な顔があった。
「今日のお前、何か変だと思っていたんだ。調子が悪いのだったら無理をするな」
「…………」
……悪かったな、変で。
だが、いつも強引な癖に妙な所で優しいこの男の不器用さを、私は心底愛しく思っているのだと改めて感じた。
「横になるか? それとも水を持って来ようか?」
バスローブ越しに、彼の高い体温と早い鼓動が伝わってくる。
作戦などと真剣に考えていたのが馬鹿馬鹿しくなって、私は結局白状してしまった。
「具合が悪い訳ではない。一応誘っているつもりだったのだが、判らぬか」
アイオリアは心底驚いたようだったが、やがて合点がいったらしく笑い出した。
「何だ。だからそんな格好をしていたのか。どういう風の吹き回しかと思ったぞ」
「何だとは何だ。私がせっかく……」
「それで───」
不意に、わざと低めた声を耳元に吹き込まれて、軽く震えが走った。
「お前の誕生日くらい静かに過ごそうと思っていたのに、自分から誘ってくるほど淋しかったのか」
「そのようなことは───」
「答えろシャカ。どんな風に淋しかったのか言ってくれ」
遅ればせながら、アイオリアの目が獲物を捕らえた獅子のように閃いた。
誕生日をちゃんと覚えていてくれたことは嬉しかったが、このままでは誘っている意味がない。
あまりにも密着した体勢を変えようとしたものの、体格差もあって、逆にソファに沈められて身動きがとれなくなってしまった。
「……やめたまえ……っ」
「言うまでこのままだ」
結局、またいつものパターンになだれ込みである。
やはりこれが一番しっくりくるような気がするが、認めてしまうのは口惜しい。
「いつの日か思い切り大胆に誘ってやるから、覚悟したまえ……!」
「判ってないな───お前は素が一番色っぽいんだよ」
「乙女座お誘い大作戦」は、こうして続行不可能のまま終了となった。
FIN
MISSION IMPOSSIBLE/実行不可能
2012/9/19 up
作品名:MISSION IMPOSSIBLE 作家名:saho