こらぼでほすと 十一月1
朝の支度をしているニールに、ドスッッとリジェネが抱きついてきた。戻ってきてから、日々、こんな調子なのでニールも慣れたものだ。
「おはよ、リジェネ。顔洗ったか? 」
「まだ。」
「早く洗って来い。」
悟空は、すでに食卓でどんぶりメシをかっ食らっている。弁当の最後の詰めをやっているニールとしては、これを終わらせないとならない。
「あのね、ちょっと聞いて。ティエリアが、僕に頼みごとしてくれたんだ。」
とはいうものの、勝手気ままなイノベイドは、言うことなんぞ聞いてくれない。弁当を詰める手は休めずに、相槌だけうつ。
「おう。」
「それで、明日、ヴェーダに戻ることになったんだ、ママ。」
「はあ? 」
「しばらく、ヴェーダのほうを担当して欲しいんだって。ティエリアが、僕にお願いしたい、って。うふふふふ・・・僕、すごく張り切っちゃうっっ。」
「えらく急ぎなんだな? 」
「うん、なんか忙しいみたい。ほら、ティエリアも世界放浪の旅をするつもりじゃない? だから、その準備が佳境なんだと思う。」
まあ、そういうことだろう。リジェネを呼び戻すというなら、信頼関係は少しは強くなったと判断してもいい。リジェネの声が弾んでいて、ティエリアに頼まれたのが、素直に嬉しいらしい。
「わかった。・・・とりあえず、顔洗ってこい。」
「はーい。」
ペタペタと走り出す足音を聞きながら、明後日からは弁当がひとつ減るんだな、と、考えていた。ここんところ、朝に昼の分も弁当にして用意している。悟空だけでなく、寺の坊主やリジェネの分もだ。そのままニールは二度寝するから、昼の準備ができないからのことだ。のんびりと専業主夫をしていないと、自分でも体調が不安だから、大人しくそうしている。洗濯は、悟空が少し早起きしてやってくれるし、掃除もレイとシンが夕方に顔を出してやってくれる。という、ぐうたら専業主夫モード推進大会なので、身体としては楽だ。
一方、こちら、組織では、マイスターたちが集まって打ち合わせをしていた。ロックオンが、『吉祥富貴』での特別ミッションのために降下するから、その打ち合わせだ。
「なるべく早く降りたほうがいい。どうせ、衣装合わせだとかイベントの打ち合わせだとかで時間がかかる。」
「え? そんなのあるのかよ? 前の時はなかったぜ? 」
「一度目と二度目が同じであるはずがない。キラからの連絡より早めに降りておけ。」
「了解。」
毎年、この特別ミッションをこなしているティエリアは、『吉祥富貴』のやり方は熟知している。毎年、趣向を変えて上得意客様を接待するから、その時に応じて、やることも増える。前々回は、ティエリアとアレルヤで軽いワルツを踊らされた。もちろん、それなりの見栄えになるように練習もさせられたし、前回は、執事だった。つまり、そんなふうに毎回、趣向が変わるのが店の接待だ。ロックオンに、何が科せられるのか不明だが、前回のようなものではない。
「それから、俺とアレルヤはリペアの機体のほうを担当する。刹那、きみは、ダブルオーライザーの調整のほうは頼む。」
「了解だ。」
新しいMSの開発は進んでいるが、完成するまではリペアした機体を使用する。ダブルオー、ケルヴィム、アリオス、セラフィムを再生させて、太陽炉を補填した電池を動力源とするように作り変える。今の所は、太陽炉本体のままで再生することになっている。ダブルオーは、すでにオーライザーとのマッチングさえ調整できれば完成するところまできている。それが完成したら、ティエリアも少し組織を離れる予定だ。
「だが、ティエリア。ヴェーダのほうはいいのか? 」
「そちらにはリジェネを呼び戻した。少し、仕事を分担する。」
ヴェーダ本体は、日々、情報を蓄積させていく。その中から有用なもの、情報として必要なものなどを組織にフィードバックさせる仕事を、リジェネに割振った。深層部へのアクセスはできないようにしてあるので、リジェネが日常業務を担当してくれれば、ティエリアには時間の余裕がある。
「もう心配はないよ? 刹那。リジェネもニールにタラされちゃったから、僕らに反旗を翻したりできないから。」
アレルヤが、そう言うと、刹那も微笑んで頷く。あのおかんは、人たらしだ。リジェネの懐柔ぐらいは朝飯前だろう。
「それが終わったら、エクシア、デュナメス、キュリオス、ヴァーチェのリペアも行なう。こちらは地上用に用意するつもりだ。そちらには太陽炉は積めないから、GN粒子を蓄積された電池を載せる。これは、ドックのほうが担当するが、最終チェックは各人で頼む。」
最初の武力介入で使用した機体は、リペアして地上用に地上施設に保管させる。こうしておけば、緊急時に地上でのミッションも消化できるというティエリアの目論見だ。
「ん? デュナメスは兄さんにさせるのか? ティエリア。」
一機だけ、マイスターがいない機体がある。ニールが搭乗していたデュナメスだけは、当人は調整できないので、ロックオンが口を出す。
「いいや、デュナメスはケルビィムと同型だから、きみが担当してくれ。ニールには一切、組織の仕事をさせるつもりはない。ハロに、デュナメスのデータは入っているから、きみでもできるはずだ。」
「了解だ。」
ティエリアの即答に、ロックオンも頷く。組織への関与はさせたくないのは、ロックオンも同じ気持ちだ。ケルビィムはデュナメスを発展させた機体だから、ロックオンなら扱える。そういうことなら、それでいい。
「それで、ダブルオーライザーは、いつ完成するの? 刹那。」
「すでに、調整も粗方終わっている。いつでも使える状態だ。」
「細かい数値の安定が、まだだろ? 刹那。やるからには完璧にしてもらわなけれは困る。何度も、ニールを宇宙へ連れ出すのは危険だ。」
ダブルオーライザーのトランザムバーストで、ニールの細胞異常は完治できる。だから、完璧に最大出力が使える状態が望ましい。完璧な機体で一度で終わらせなければ、何度もニールを宇宙へ連れ出すのは生死の問題がある。
「もちろん、ニールに関しては、そうだ。だが、突然のミッションがあっても対応はできるという意味だ。誤解するな、ティエリア。」
刹那だって、どこかが不安なダブルオーでトランザムバーストはしたくない。もし、失敗したら、それだけニールの負担が大きくなるからだ。
「それじゃあ、ロックオンの特別ミッションが終わる頃には完成しているね。・・・ようやく、ニールが治せるんだ。よかった。」
ティエリアが、きしゃあーと威嚇するのを遮って、アレルヤが声を出す。マイスター全員が、一度で治療できることを望んでいるのは間違いのない事実だ。ここで無用の喧嘩はしなくていい。
「ということは、俺、兄さんに、そのことを告げておくほうがいいか? 」
「いや、キラと打ち合わせして、日時が確定してからにする。おまえの兄は、先に言うと、いろいろと考えるから教えないほうがいい。近日中に、というぐらいで告げてくれ。」
「了解、ダーリン。」
「では、作業スケジュールに従って、各人、行動してくれ。ロックオン、軌道エレベーターの予約は俺がして、携帯端末へデータを転送しておく。日時を確認しておけ。」
「はいはい。」
「おはよ、リジェネ。顔洗ったか? 」
「まだ。」
「早く洗って来い。」
悟空は、すでに食卓でどんぶりメシをかっ食らっている。弁当の最後の詰めをやっているニールとしては、これを終わらせないとならない。
「あのね、ちょっと聞いて。ティエリアが、僕に頼みごとしてくれたんだ。」
とはいうものの、勝手気ままなイノベイドは、言うことなんぞ聞いてくれない。弁当を詰める手は休めずに、相槌だけうつ。
「おう。」
「それで、明日、ヴェーダに戻ることになったんだ、ママ。」
「はあ? 」
「しばらく、ヴェーダのほうを担当して欲しいんだって。ティエリアが、僕にお願いしたい、って。うふふふふ・・・僕、すごく張り切っちゃうっっ。」
「えらく急ぎなんだな? 」
「うん、なんか忙しいみたい。ほら、ティエリアも世界放浪の旅をするつもりじゃない? だから、その準備が佳境なんだと思う。」
まあ、そういうことだろう。リジェネを呼び戻すというなら、信頼関係は少しは強くなったと判断してもいい。リジェネの声が弾んでいて、ティエリアに頼まれたのが、素直に嬉しいらしい。
「わかった。・・・とりあえず、顔洗ってこい。」
「はーい。」
ペタペタと走り出す足音を聞きながら、明後日からは弁当がひとつ減るんだな、と、考えていた。ここんところ、朝に昼の分も弁当にして用意している。悟空だけでなく、寺の坊主やリジェネの分もだ。そのままニールは二度寝するから、昼の準備ができないからのことだ。のんびりと専業主夫をしていないと、自分でも体調が不安だから、大人しくそうしている。洗濯は、悟空が少し早起きしてやってくれるし、掃除もレイとシンが夕方に顔を出してやってくれる。という、ぐうたら専業主夫モード推進大会なので、身体としては楽だ。
一方、こちら、組織では、マイスターたちが集まって打ち合わせをしていた。ロックオンが、『吉祥富貴』での特別ミッションのために降下するから、その打ち合わせだ。
「なるべく早く降りたほうがいい。どうせ、衣装合わせだとかイベントの打ち合わせだとかで時間がかかる。」
「え? そんなのあるのかよ? 前の時はなかったぜ? 」
「一度目と二度目が同じであるはずがない。キラからの連絡より早めに降りておけ。」
「了解。」
毎年、この特別ミッションをこなしているティエリアは、『吉祥富貴』のやり方は熟知している。毎年、趣向を変えて上得意客様を接待するから、その時に応じて、やることも増える。前々回は、ティエリアとアレルヤで軽いワルツを踊らされた。もちろん、それなりの見栄えになるように練習もさせられたし、前回は、執事だった。つまり、そんなふうに毎回、趣向が変わるのが店の接待だ。ロックオンに、何が科せられるのか不明だが、前回のようなものではない。
「それから、俺とアレルヤはリペアの機体のほうを担当する。刹那、きみは、ダブルオーライザーの調整のほうは頼む。」
「了解だ。」
新しいMSの開発は進んでいるが、完成するまではリペアした機体を使用する。ダブルオー、ケルヴィム、アリオス、セラフィムを再生させて、太陽炉を補填した電池を動力源とするように作り変える。今の所は、太陽炉本体のままで再生することになっている。ダブルオーは、すでにオーライザーとのマッチングさえ調整できれば完成するところまできている。それが完成したら、ティエリアも少し組織を離れる予定だ。
「だが、ティエリア。ヴェーダのほうはいいのか? 」
「そちらにはリジェネを呼び戻した。少し、仕事を分担する。」
ヴェーダ本体は、日々、情報を蓄積させていく。その中から有用なもの、情報として必要なものなどを組織にフィードバックさせる仕事を、リジェネに割振った。深層部へのアクセスはできないようにしてあるので、リジェネが日常業務を担当してくれれば、ティエリアには時間の余裕がある。
「もう心配はないよ? 刹那。リジェネもニールにタラされちゃったから、僕らに反旗を翻したりできないから。」
アレルヤが、そう言うと、刹那も微笑んで頷く。あのおかんは、人たらしだ。リジェネの懐柔ぐらいは朝飯前だろう。
「それが終わったら、エクシア、デュナメス、キュリオス、ヴァーチェのリペアも行なう。こちらは地上用に用意するつもりだ。そちらには太陽炉は積めないから、GN粒子を蓄積された電池を載せる。これは、ドックのほうが担当するが、最終チェックは各人で頼む。」
最初の武力介入で使用した機体は、リペアして地上用に地上施設に保管させる。こうしておけば、緊急時に地上でのミッションも消化できるというティエリアの目論見だ。
「ん? デュナメスは兄さんにさせるのか? ティエリア。」
一機だけ、マイスターがいない機体がある。ニールが搭乗していたデュナメスだけは、当人は調整できないので、ロックオンが口を出す。
「いいや、デュナメスはケルビィムと同型だから、きみが担当してくれ。ニールには一切、組織の仕事をさせるつもりはない。ハロに、デュナメスのデータは入っているから、きみでもできるはずだ。」
「了解だ。」
ティエリアの即答に、ロックオンも頷く。組織への関与はさせたくないのは、ロックオンも同じ気持ちだ。ケルビィムはデュナメスを発展させた機体だから、ロックオンなら扱える。そういうことなら、それでいい。
「それで、ダブルオーライザーは、いつ完成するの? 刹那。」
「すでに、調整も粗方終わっている。いつでも使える状態だ。」
「細かい数値の安定が、まだだろ? 刹那。やるからには完璧にしてもらわなけれは困る。何度も、ニールを宇宙へ連れ出すのは危険だ。」
ダブルオーライザーのトランザムバーストで、ニールの細胞異常は完治できる。だから、完璧に最大出力が使える状態が望ましい。完璧な機体で一度で終わらせなければ、何度もニールを宇宙へ連れ出すのは生死の問題がある。
「もちろん、ニールに関しては、そうだ。だが、突然のミッションがあっても対応はできるという意味だ。誤解するな、ティエリア。」
刹那だって、どこかが不安なダブルオーでトランザムバーストはしたくない。もし、失敗したら、それだけニールの負担が大きくなるからだ。
「それじゃあ、ロックオンの特別ミッションが終わる頃には完成しているね。・・・ようやく、ニールが治せるんだ。よかった。」
ティエリアが、きしゃあーと威嚇するのを遮って、アレルヤが声を出す。マイスター全員が、一度で治療できることを望んでいるのは間違いのない事実だ。ここで無用の喧嘩はしなくていい。
「ということは、俺、兄さんに、そのことを告げておくほうがいいか? 」
「いや、キラと打ち合わせして、日時が確定してからにする。おまえの兄は、先に言うと、いろいろと考えるから教えないほうがいい。近日中に、というぐらいで告げてくれ。」
「了解、ダーリン。」
「では、作業スケジュールに従って、各人、行動してくれ。ロックオン、軌道エレベーターの予約は俺がして、携帯端末へデータを転送しておく。日時を確認しておけ。」
「はいはい。」
作品名:こらぼでほすと 十一月1 作家名:篠義