こらぼでほすと 十一月1
なるべく大人しくしているのだが、加減というのが難しいらしく、たまに、寺の女房は一日寝ているなんてことが起こっている。あまり良いことではないから、亭主もサルも、それには厳しい。
「それだけのつもりなんだぜ? 悟空。」
「俺らのオヤツはいいって言ってんの作ってるじゃんか。これ、明日から禁止な? ママ。みんなにも来ないように言っとく。」
「いや、そこまでしなくてもさ。つい、クセになってて作るだけだから。」
「じゃあ、お菓子作るのは禁止。」
「・・・うん・・・・」
「みんなの差し入れを作ってたら、意味ねぇーって、俺、言ってるじゃん? みんなだって解ってるからさ。」
「・・・うん・・・」
店への出勤は、ほとんどしていないので、店で摘むお菓子なんかを作っている。それだけでも量はあるし、オヤツも製作されていたりする。さすがに、そんなことまでしていたら、ダウンする、と、シンとレイが悟空に注意したらしい。
「ただいま戻りました。・・・・ママ、茶菓子を買って来ました。明日から、これを使ってください。」
レイは、現在、寺に居候中だ。とは言っても、実習があったりで遅くなる時は、こちらに戻っていない。本日は、割と早い時間に戻って来た。両手に大量のお菓子の入ったスーパーの袋を手にしている。
「サンキュー、レイ。あと、ママを寝かせておいてくれるか? 」
「ああ、そのつもりだ。」
アカデミーのほうが忙しいので、シンとレイは店は自主休業している。とりあえず、ニールを一人で放置するのは危険だということで、適当に互い違いに、寺に戻ってきている。
「そろそろ、出よう。三蔵さん、一緒に乗って行けよ。」
「そうだな。サル、終わったか? 」
「おう、これで終わり。ママ、帰ったら、また食うから。」
ガボガボとカレーの残りを飲むように食べて、悟空も出勤の用意をする。バタバタしていても、坊主は、きっちりと酒のツマミとビールだけは摂取している。ちゃんと栄養補給しておかないと、深夜まで、マトモな食事にありつけないから、坊主でも必死だ。
「クラウス、じゃあ、店で衣装合わせをさせてもらう。それと、接客の見学をしてくれ。」
「わかった。」
なんとか、クラウスも、この状況についていかないと、と、慌てて立ち上がる。いつもは、自分が号令を発して動くから、勝手が違って混乱するのは否めない。
「お疲れ様です、クラウスさん。」
店の事務室に案内されて、そちらで経理部長の八戒に挨拶される。八戒とは、前回も顔を合わせているから、こちらも笑顔で挨拶だ。ついで、フロアマネージャーのアスランからも挨拶された。
「今回は、ご足労をおかけしてすいません。とりあえず、衣装合わせのほうから始めさせていただきます。ハイネ、衣装は、こんなものだ。」
事務室には、ずらりとバーに吊るされた衣装が並んでいる。ふむふむ、と、ハイネが無難そうなスーツ一式を取り出し、それら合わせるシャツとネクタイもチョイスする。
「とりあえず、この辺りを着てみてくれ。それで顔映りとか確認させてもらう。」
「おい、ハイネ、靴、靴。こんなとこか? 」
悟浄が、傍に用意されていた靴から、それに合いそうなところを選んで、クラウスに渡す。靴下も必要でしょう、と、さらに、八戒が渡す。着替えは、ホストの控え室があるので、そちらでと案内されて手早く着替えて、事務室に戻った。
「ああ、なるほど、やっぱり大統領補佐官って感じですね。」
「ガタイがいいから、スーツの幅は必要だな。ダブルのほうがいいんじゃないか? 」
「硬すぎるだろ? ・・・ということは、もうちょっと明るい色ってことか。」
「いや、逆にシャツでアクセントつけてもいいんじゃねぇーか? ハイネ。そのほうが、ホストっぽいぞ。」
「なるほど、その意見、いただくか。クラウス、このシャツとネクタイにチェンジしてくれ。」
ただの衣装というなら、体格の良いクラウスはスーツは似合う。ただし、ホストらしくとなると、硬いスーツだと店で浮く。そこいらの調整は、着道楽のハイネと悟浄がやることになっていた。あまりくだけた格好にすると、クラウスの真面目な顔とは合わないから、どこいらが妥当線かが問題だ。マジック用の衣装は、すでに決めてあるから、最初のお迎え用とマジックの後の衣装の二着が必要になる。とっかえひっかえやって、どうにか二着を決めると、それとは違う衣装を渡されて、それに着替える。
「とりあえず、ホストっていうのが、どんなもんか見学しててくれ。悟浄、そろそろ時間だ。」
「おう、じゃあ、本日もヘルプしますか。」
ハイネと悟浄が、びしっとスーツを着替えると、店表へ出て行く。クラウスは後からついて出て、カウンターの前で待機だ。
「グラードさん、そんなに緊張しないで、こちらに座ってください。」
カウンターの向こうから、バーテンが声をかける。トダカと申します、と、挨拶されて、すぐにガス入りのミネラルウォーターが置かれる。
「雰囲気だけ感じてくだされば結構です。」
「ですが、接待をするものでは? 」
「いえ、あなたをリクエストされたお客様は、あなたが素人だと知っていて指名されたので、高度な会話をする必要はありませんから。」
むしろ、あたふたしているのを見て楽しむと思われる。さすがに、それを、そのまんま告げるのは可哀想だから、トダカも言葉を濁した。
「あれは、勝手に弾丸トークして勝手にメシ食って勝手にウーロン茶を牛飲しやがるから、観察してればいい。」
カウンターで、ジントニックなんぞ飲んでいた三蔵も、そう言って苦笑する。毎年の事ながら、三蔵もウーロン茶を注ぐだけだ。後は、キラや鷹虎辺りと、訳のわからない話をしていることか多い。こちらから気の利いた台詞とか囁きなんてする暇もないのが実情だ。
「三蔵さん、それは酷いな。あのお客様は、ただの雑談が好きなんだ。それと、うちの料理を気に入ってくださってるから、食い尽くさないと満足されないんだよ。」
「俺の三倍は食うぞ? トダカさん。」
「はははは・・・悟空くんほどじゃないさ。まあ、楽しいお客様ですから。」
トダカも、かなり酷いことを言っているが、言い方というのがある。クラウスがイメージする普通のホストがするような接客なんか必要ではないということらしい。
作品名:こらぼでほすと 十一月1 作家名:篠義