こらぼでほすと 十一月2
さて、寺ではレイが複雑な顔で台所に立っていた。お菓子作りは阻止の方向なのだが、「もうタネを作ってあるから、あれだけ。」 と、ママに押し切られたからだ。クッキーなんかの焼き菓子のタネは、冷蔵庫で寝かせて焼くほうが美味くなるのは知っていたが、いろんなものに加工できる。バウンドケーキやシフォンケーキは、それほど手間のかかるものではないものの、焼くまでは手間がかかる。あまり働かせるのはマズイから、レイが力仕事を分担する。
「こんなに作って・・・・ママ、俺の心配を増やしてばかりだ。」
コネコネと生地を捏ねて、レイが溜め息を吐くと、ママは苦笑する。お菓子作り禁止と、みんなから言われているが、なんだかんだと顔を出すので、やはり手作りしたくなるらしい。
「ごめんごめん、これで、しばらくは作らないよ。それより、勉強のほうはいいのか? 」
「これが終わったら、少しやります。」
「今晩、カレーライスだけどドリアにしようか? 」
少し肌寒い季節になった。カレーも美味しいが、それにチーズを載せて、こんがりとオーブンで焼いたほうが温かくて美味しい。それを想像して、レイは、ごくっと喉を鳴らした。それが、素直な態度だから、ママは笑いつつ、その準備をする。寺のオーブンは大きいので、お菓子を焼く隙間に、それを配置できる。レイほうがタネを成形して用意すると、それと一緒に放り込まれる。
「ちょっとカレーの匂いがつくだろうけど、まあいいよな。」
「ママのは? 」
「俺は、普通のカレーライス。さすがに、こってりしたものは食べ難い。」
かなり細胞異常が悪化しているので、いつダウンしてもおかしくない状況の人だ。悟空が用意している漢方薬で、どうにか体調は維持できているが、それだってレイには心配の種だ。
「おじやでも作りましょうか? 」
「そこまでじゃないよ、レイ。・・・・しばらくは大人しくしてるから心配しなくてもいい。」
「でも、これ、作ってたんですよね? 」
「これぐらいはさせてくれよ。ここんとこ、おまえさんたちが家事をやってくれるから楽させてもらってるんだ。」
レイ、シン、悟空が寺の家事をしてくれている。掃除と洗濯は、こっちでやるからするな、と、言われているので、ニールも手を出せない。確かに、掃除はちょっと身体がしんどいから有り難く、楽させてもらっている。今度、ダウンしようものなら、確実に歌姫が怒って冷凍されてしまうからだ。
「俺の看病をしてもらう約束です。」
「うん、わかってる。」
「十年先に、絶対に看病してもらわないといけないことになりますから。」
「ん? 」
それって、どっか悪いのか? と、ニールが視線で問う。レイは、その視線に微笑んで、軽く頷いた。
「・・・・・そのうち、教えます。だから、俺の看病ができる状態でいてください。そうでないと、俺は寂しい病床生活をさせられる。」
レイは、違法なクローンの身体だ。元の細胞が初老の男だったから、その寿命分しか生きられない。トダカと議長は、その事実を知っている。たぶん、鷹も知っているだろう。細胞の劣化が始まれば、瞬く間に老人になってしまうのだ。抑制するクスリは飲んでいるが、同じクローンだった男は、二十五を越えた頃には、人前に顔を晒せないほどの状態になっていた。だから、自分の時間というのも予測がつく。もう数年がいいところだろう。いくら身体を鍛えても、老化の速度は変えられない。肉体に、それが顕著に現れたら、その時にはママに告げるつもりをしている。
「もちろん、看病はするさ。十年先か・・・・それまでに、ちゃんと話してくれるんだな? 」
ニールのほうも無理に聞くつもりはない。『吉祥富貴』に所属している人間は普通じゃないのが当たり前だ。何かしらあるのだろうから、話してくれるまで待つ。
「・・・話します。シンにも言わなければならない。」
つまり、シンも知らない、ということだ。口外しないと、暗に視線で了承する。
「わかった。」
「ママ、ママの身体が治ったら、プラントへ遊びに行きませんか? 俺とシンで案内します。俺が生まれ育ったところを案内させてください。」
「プラントか・・・俺、IDとか大丈夫かな。」
「それは問題ありません。ギルに頼めば、ママのIDなんて簡単に偽造してくれます。なんなら刹那たちのも用意してもらいましょう。みんなで旅行は楽しそうだ。」
いろいろと後ろ暗いところのあるテロリストたちなので、IDが問題になる。だが、そこいらは、現評議会委員長の鶴の一声で、どうにでもなる、と、レイは笑う。キラなんか、オーヴの准将でありながら、プラントの佐官クラスの地位も持っているからだ。それも、議長が勝手に拝命した代物だ。ザフトで何かしら仕事をする時は、颯爽と佐官の白服で動いている。
「そうか・・・おまえの親父さん、偉いさんだったな。」
「今の所は、最高権力者ですから、なんでもアリですよ? ママ。なんなら、ザフトの制服も着てみますか? ママなら白服がお似合いです。」
「白? てか、ザフトって・・・レイ、それはいくらなんでもやりすぎだろ? 俺、正式な軍隊のルールとか全然だぞ? 」
「大丈夫です。キラさんも、白服でザフトを歩き回ってますが、誰も気付きません。俺は赤なんで、ちょうどいいんですよ。」
「いや、ザフトはやめろ。さすがに、それはマズイ。もうちょっと穏便なとこを案内してくれ。」
「わかりました。じゃあ、約束ですよ? 」
「ああ、案内してもらう。・・・さあ、そろそろメシにするか。」
こんがりとチーズの焼ける匂いがする。カレードリアが出来上がった。それを取り出して、空いたところに新しい生地を置く。離れると焼き加減がわからないので、そのまま食卓を片付けて、そこで食事にする。オーブンの中を確認しつつ、ふたりしてカレーを口にする。レイのはドリアだから、湯気がすごいことになっている。はふはふと熱いので冷ましつつだ。途中で、タイマーの音がすると、ニールが立ち上がり、オーブンを開く。簡単な焼き菓子は焼き時間も短いから、ほいほいと取り出して、次を焼く。
「サラダ足りるか? もうちょっとトマトでも出そうか? 」
「これで充分です。ママ、次は、俺がやりますから食べてください。」
交代で、タイマーの音で動く。何度か繰り返していると、大物を残して簡単なほうのは焼きあがった。冷ますために、こたつの上に新聞紙を敷いて並べる。そこまで、やって、最後のケーキ類に入る。これは時間がかかるので、最後にした。
「レイ、頼んでもいいか? 」
「ええ、休んでください。」
「こんなに作って・・・・ママ、俺の心配を増やしてばかりだ。」
コネコネと生地を捏ねて、レイが溜め息を吐くと、ママは苦笑する。お菓子作り禁止と、みんなから言われているが、なんだかんだと顔を出すので、やはり手作りしたくなるらしい。
「ごめんごめん、これで、しばらくは作らないよ。それより、勉強のほうはいいのか? 」
「これが終わったら、少しやります。」
「今晩、カレーライスだけどドリアにしようか? 」
少し肌寒い季節になった。カレーも美味しいが、それにチーズを載せて、こんがりとオーブンで焼いたほうが温かくて美味しい。それを想像して、レイは、ごくっと喉を鳴らした。それが、素直な態度だから、ママは笑いつつ、その準備をする。寺のオーブンは大きいので、お菓子を焼く隙間に、それを配置できる。レイほうがタネを成形して用意すると、それと一緒に放り込まれる。
「ちょっとカレーの匂いがつくだろうけど、まあいいよな。」
「ママのは? 」
「俺は、普通のカレーライス。さすがに、こってりしたものは食べ難い。」
かなり細胞異常が悪化しているので、いつダウンしてもおかしくない状況の人だ。悟空が用意している漢方薬で、どうにか体調は維持できているが、それだってレイには心配の種だ。
「おじやでも作りましょうか? 」
「そこまでじゃないよ、レイ。・・・・しばらくは大人しくしてるから心配しなくてもいい。」
「でも、これ、作ってたんですよね? 」
「これぐらいはさせてくれよ。ここんとこ、おまえさんたちが家事をやってくれるから楽させてもらってるんだ。」
レイ、シン、悟空が寺の家事をしてくれている。掃除と洗濯は、こっちでやるからするな、と、言われているので、ニールも手を出せない。確かに、掃除はちょっと身体がしんどいから有り難く、楽させてもらっている。今度、ダウンしようものなら、確実に歌姫が怒って冷凍されてしまうからだ。
「俺の看病をしてもらう約束です。」
「うん、わかってる。」
「十年先に、絶対に看病してもらわないといけないことになりますから。」
「ん? 」
それって、どっか悪いのか? と、ニールが視線で問う。レイは、その視線に微笑んで、軽く頷いた。
「・・・・・そのうち、教えます。だから、俺の看病ができる状態でいてください。そうでないと、俺は寂しい病床生活をさせられる。」
レイは、違法なクローンの身体だ。元の細胞が初老の男だったから、その寿命分しか生きられない。トダカと議長は、その事実を知っている。たぶん、鷹も知っているだろう。細胞の劣化が始まれば、瞬く間に老人になってしまうのだ。抑制するクスリは飲んでいるが、同じクローンだった男は、二十五を越えた頃には、人前に顔を晒せないほどの状態になっていた。だから、自分の時間というのも予測がつく。もう数年がいいところだろう。いくら身体を鍛えても、老化の速度は変えられない。肉体に、それが顕著に現れたら、その時にはママに告げるつもりをしている。
「もちろん、看病はするさ。十年先か・・・・それまでに、ちゃんと話してくれるんだな? 」
ニールのほうも無理に聞くつもりはない。『吉祥富貴』に所属している人間は普通じゃないのが当たり前だ。何かしらあるのだろうから、話してくれるまで待つ。
「・・・話します。シンにも言わなければならない。」
つまり、シンも知らない、ということだ。口外しないと、暗に視線で了承する。
「わかった。」
「ママ、ママの身体が治ったら、プラントへ遊びに行きませんか? 俺とシンで案内します。俺が生まれ育ったところを案内させてください。」
「プラントか・・・俺、IDとか大丈夫かな。」
「それは問題ありません。ギルに頼めば、ママのIDなんて簡単に偽造してくれます。なんなら刹那たちのも用意してもらいましょう。みんなで旅行は楽しそうだ。」
いろいろと後ろ暗いところのあるテロリストたちなので、IDが問題になる。だが、そこいらは、現評議会委員長の鶴の一声で、どうにでもなる、と、レイは笑う。キラなんか、オーヴの准将でありながら、プラントの佐官クラスの地位も持っているからだ。それも、議長が勝手に拝命した代物だ。ザフトで何かしら仕事をする時は、颯爽と佐官の白服で動いている。
「そうか・・・おまえの親父さん、偉いさんだったな。」
「今の所は、最高権力者ですから、なんでもアリですよ? ママ。なんなら、ザフトの制服も着てみますか? ママなら白服がお似合いです。」
「白? てか、ザフトって・・・レイ、それはいくらなんでもやりすぎだろ? 俺、正式な軍隊のルールとか全然だぞ? 」
「大丈夫です。キラさんも、白服でザフトを歩き回ってますが、誰も気付きません。俺は赤なんで、ちょうどいいんですよ。」
「いや、ザフトはやめろ。さすがに、それはマズイ。もうちょっと穏便なとこを案内してくれ。」
「わかりました。じゃあ、約束ですよ? 」
「ああ、案内してもらう。・・・さあ、そろそろメシにするか。」
こんがりとチーズの焼ける匂いがする。カレードリアが出来上がった。それを取り出して、空いたところに新しい生地を置く。離れると焼き加減がわからないので、そのまま食卓を片付けて、そこで食事にする。オーブンの中を確認しつつ、ふたりしてカレーを口にする。レイのはドリアだから、湯気がすごいことになっている。はふはふと熱いので冷ましつつだ。途中で、タイマーの音がすると、ニールが立ち上がり、オーブンを開く。簡単な焼き菓子は焼き時間も短いから、ほいほいと取り出して、次を焼く。
「サラダ足りるか? もうちょっとトマトでも出そうか? 」
「これで充分です。ママ、次は、俺がやりますから食べてください。」
交代で、タイマーの音で動く。何度か繰り返していると、大物を残して簡単なほうのは焼きあがった。冷ますために、こたつの上に新聞紙を敷いて並べる。そこまで、やって、最後のケーキ類に入る。これは時間がかかるので、最後にした。
「レイ、頼んでもいいか? 」
「ええ、休んでください。」
作品名:こらぼでほすと 十一月2 作家名:篠義