こらぼでほすと 十一月2
じゃあ、ちょっと、と、ニールはこたつに横になる。坊主たちが帰るまで仮眠するのが、いつものことになりつつある。さすがに、深夜まで起きていると、翌日は起きられないからだ。出迎えはいらない、と、悟空は言うのだが、それぐらいはさせろ、と、ニールが捻じ込んだ。まあ、出迎えてもらうのは嬉しいから、悟空も強くは言わなかった。ということで、食後、ニールは一時間か二時間は、ごろごろして過ごす。こたつに入って、毛布もかけて万全の態勢だから、レイは、そちらは気にせず、食卓で資料を読みつつ、オーブンの番だ。何もない、ただの日常というものがあって、レイは、こののんびりした時間が大好きだ。アカデミーは猛烈に忙しいが、それでも、こんな時間があると、ほっと息を吐ける。こんがりと焼けて徐々に香ばしい匂いがするのを感じつつ、データを読む。
坊主とサルはバイト組だから、客がなければ早く帰宅する。クラウスも一緒だろうと思っていたら、まだ残っているという。
「え? 」
「接客の勉強で、ホールで見学してるんだ。そろそろ帰ってくると思うけど? ・・・あ、レイ、ドリア食ったな? ママ、俺も俺もっっ。」
「はいはい。三蔵さん、先に風呂に入ってください。」
「おう。」
くんくんと台所のチーズの匂いに気付いた悟空が、同じものを作れと騒ぐので、寺の女房は、そっちに手を出す。レイはニールが起きると風呂に入って脇部屋に下がった。そちらで本格的に勉強するためだ。うまそーと冷ましていた焼き菓子も、ばくばくと消費されていく。かなりの量を作ったが、それでも悟空にかかると三日と保たない。
「悟空、ドリアの分は空けておけよ? 」
「大丈夫、大丈夫。」
オーブンで十分とかからないから、悟空も、風呂へ走る。大人がふたりくらいは余裕のある広さだから、坊主の邪魔にはならない。風呂から上がってくる頃には、ちょうどドリアもてきあがっている。
「俺、明日の朝はカレーライスで、おやつはカレーうどんがいいな。」
「連荘でカレーでいいのか? 」
「一日寝かしたカレーほどうめぇーもんはないぜ、ママ。できたら、弁当もカレーでいいくらいだ。」
「いや、それはやめてくれ。弁当は、通常メニューだ。」
はほはほと熱いドリアを頬張る悟空の相手をしていると、少し遅れて坊主も出てくる。こちらは、軽いお湯割りを用意する。
「朝はカレーでいいが、昼は変えろ。」
悟空の大声が聞こえていたらしく、開口一番、リクエストだ。
「弁当は、普通にします。おやつは? 」
酒のツマミを運びつつ、寺の女房も確認だ。大人には、カレーばかりは、ちと辛い。
「カレーうどんは食うぞ。」
「了解、たくさん作っておいてよかった。」
「おまえも相手しろ。」
「いや、ハイネたちが、まだなんで、お茶にしておきます。」
「待ってなくていいだろ。ハイネなら、勝手にやる。」
「ハイネだけならいいんですが、クラウスさんが戻って来るんですよ。和風の生活様式は知らないだろうから教えてやらないと。」
出身欧州のクラウスだと、特区の生活様式は知らないことばかりだろう。ニールだって、最初はわからなかった。今日の様子を見る限り、最低限のマナーは知っているようだったが、風呂や布団のことは教えたほうが無難だ。
「実弟のセフレだからか? 」
「はあ? そこじゃない。うちの特別ミッションに借り出されてんだから、それぐらいの世話は当たり前だってだけです。・・・・ライルの親友らしいから、そういう意味では話もしてみたいとは思いますがね。」
ニールの知らないライルを知っている。だから、その部分は聞いてみたいとは思っている。空白の十数年、ライルが、どんなふうに暮らしていたのか知りたいのは、肉親としては当然のことだ。
「たらすなよ? これ以上に余計なツッコミはいらないからな。」
「何を言ってんだか、うちの亭主は。俺には、そんな高等技術はありませんよ。それを言うなら、あんたでしょ? クラウスさんは、ノンケじゃないから気をつけてください。」
「俺は、タラシ能力なんてねぇーぞ。だいたい、野郎相手に口説くか? 普通。」
「いや、あんた、綺麗だから。」
「それを言うなら、おまえだ、おまえ。美人だぞ? 」
悟空は、どっちもどっちだってば、と、内心でツッコミだ。どっちも、ノンケなのに、そちら方面の相手の気を惹くのだ。それも無意識だから怖ろしい。
ついでに、どっちも美人という部類には入っている。タイプが違うが、そういう意味では男女よりどりみどりなはずなのに、片や、坊主で、片や、やる気のない人だから、その気がない。そちら方面の方には大変迷惑な生き物だろうとは思う。
「どっちも美人だとは思うぜ。」
「野郎に美人っていうのは、形容詞としてはつけないと思うんだが? 悟空。三蔵さんは、確かに綺麗だとは思うけどさ。」
「綺麗もおかしいだろ? 」
「そうかなあ。金髪に紫紺の瞳で、その容姿って、綺麗でいいでしょ? 」
「ママだって、亜麻色の髪に孔雀色の瞳のゴージャス美人だぜ? 綺麗と美人は同じじゃん。」
寺の家族だと、こういう言い合いは、いつものことだ。悟空にしてみれば、どっちもどっちなのだ。だから、ある意味、これはレクリエーションの一環だから深刻なものではない。山盛りのドリアを食べ尽くすと、悟空は、食器を台所に下げて、「おやすみー。」 と、出て行く。
「お代わりは? 」
「濃い目に作れ。俺も、それで寝る。」
夫夫ふたりになると、別に会話もない。ふたりして、酒のツマミを口にしてダラダラとした時間になる。しばらくすると、玄関のほうで音がする。何やら足音が多いので、寺の女房が廊下へ顔を出す。おや、と、そのまま廊下を進んで行った。声からして虎だ。ぼそぼそとしゃべって、また女房が引き返してきて台所へ走りこむと、紙袋に詰めたものを持って、また出て行く。酔っ払いのうるさい声に、坊主が反応して廊下に出てハイネに蹴りを見舞うという事態になったが、誰も驚かない。
その後、ハイネとクラウスが居間に入ってきた。「ただいま~。」 と、陽気にハイネが声をかけ、こたつに足を入れる。
「クラウス、飲んでないんだろ? ちょっと飲むか? 」
俺は飲むけど? と、ハイネが言うと、じゃあ少し、と、クラウスのほうもこたつに足を入れる。遅れて戻って来た寺の女房は、その様子にお湯割りを適当に作り、酒のアテと共に運んでくる。
「クラウスさん、風呂が、ちょっと様式が違うけどわかるかな? 」
「シャワーだけ浴びられれば大丈夫です、お兄さん。ホットタブがあるんですよね? この酒は? 」
「こっちのスピリッツで焼酎っていうののお湯割り。ビールより温まるから。他は、中華酒ぐらいしかないんだ。」
へぇーとクラウスも味見する。割とクセのない飲みやすいものだ。これなら、いけますよ、と、そのまま口にする。
「浴槽に入って温まったほうがいいんだけどさ。・・・えーっと、身体を先に洗ってから入ったほうが効率的で・・・」
作品名:こらぼでほすと 十一月2 作家名:篠義