こらぼでほすと 十一月2
一応、特区の独特の風呂というものについて、説明をすると、「心配すんな。俺がクラウスと、裸の付き合いで一緒に入るから。」 と、ハイネが茶々を入れる。すかさず、じゃかましいっっ、言い方がエロいわっっ、と、坊主がハリセンで往復アタックだ。クラウスは、一連のやりとりに、唖然とする。
「てててて・・・三蔵さん、酔ってんのか? 激しいな。」
「酔ってんのは、てめぇーだろ、ハイネ。・・・おい、戸締りは? 」
「もう、やってあります。後は風呂の元栓ぐらいですよ。」
「じゃあ、おまえは寝ろ。」
「え? でも、飲むんでしょ? 」
「俺は寝る。おまえも寝ろ。」
後は適当にしろ、と、言い置くと、坊主が女房の腕を掴んで回廊へ昇っていく。酔っ払いの相手をしている必要はない。そろそろ寝かせておかないと、明日、一日寝ている事態が発生する。手前の脇部屋では、レイが勉強していた。クスリを飲ませろ、と、坊主に命じられると、さっさとクスリを用意した。
「レイ、任せたぞ? 」
「了解です、三蔵さん。おやすみなさい。」
レイのほうも慣れたものだ。漢方薬を用意すると、水と共に、ニールに差し出す。それを見て、坊主も自室へ戻って行った。
「そろそろ、寝る時間ですよ、ママ? 」
「いいのかなあ、クラウスさん、放置だが? 」
「ハイネが、なんとかするでしょう。」
「まあ、そうなんだけどさ。」
客の相手なんか、この際、どうでもいい。レイが強制的に漢方薬を飲ませると、ニールも大人しく布団に潜り込む。数粒の丸薬だが、とてもよく効く代物で、あっという間に眠りに落ちてしまうのだ。下手をすると、そのまま丸一日寝ていることもある。「おやすみなさい。」 と、レイが声をかけると、「おやすみ。」 と、ふわりとニールが微笑んで目を閉じる。まだレイは、勉強を続けるから明かりは、そのままだ。
虎がクルマに戻って、キラにお菓子の袋を渡すと、きゃあーと大喜びで袋を開けている。
「キラ、全部、食べちゃダメだよ? それから、刹那のことはシークレットだから店で言わないこと。」
「うん、忘れてた。・・・虎さん、ティエリアから準備完了の連絡が入ったけど、こっちの予定はどうなの? 」
刹那の降下は、シークレット扱いだ。だから、店ではアスランも否定した。キラも、うっかりしていた、と、それには頷いた。明日、ライルが顔を出したら、その辺りは盛大に否定しておく算段はする。
「ラクスのプラントでのコンサートが、来月頭でしたよね? それに合わせますか? 」
「そうだな。オーヴからシャトルで上がってもらって、エターナルで迎える予定だったから、そこに便乗させよう。・・・ということは、小型艇を調達しておかないとマズイな。」
元々、オーナーが、そのつもりで予定を組んでいた。ラクス・クラインは、プラントの歌姫だ。あちらでのコンサートも年に一度か二度はやる。その移動に際して、オーヴからシャトルで宇宙へ上がることになっていた。そこに、ニールも加われば問題はない。貸切のシャトルだから、警備も、そのつもりで配置している。虎は、エターナルの担当だ。
「エターナルのではマズイですか? 」
「識別信号をプラントと連邦に察知されると、トランザムバーストまでバレる。民間船のものを用意する。それと、アスラン、何人かバーストする宙域までの警戒をさせたいんだが・・・ハイネとダコスタ、アイシャを連れて行くぞ。」
「了解です。ハイネは、ラクスの警護についてもらう予定でした。イザークたちにも声をかけておきます。出発は? 」
「特別ミッションが終わったら、準備して出かける。店は休みでもいいだろう。」
「そうですね。ま、そっちは八戒さんと打ち合わせをします。予約があると断れないので。」
キラとアスランは、宇宙へは上がらない。今回は、地上からの応援だけだ。ニールのためのトランザムバーストだけなら、キラは現地に出向く必要はない。トランザムバーストは、かなりの広範囲に影響が出る。それを察知されないための情報操作がキラの担当だ。
「ようやく、これでママの身体も治るんだね。・・・うふふふふ・・・新年は、どこかへ出かける? アスラン。」
ニールの身体が治れば、心配事は減る。ちょっと羽を伸ばしたい、と、キラでも思うらしい。
「そうだな。久しぶりにオーヴで年越ししてもいいな。」
「あ、予約しとかないとっっ。ママって、来年はラクスが予約してた? 」
ニールの年末から年明けの確保は、予約制だ。基本は、トダカ家に里帰りすることになっているのだが、今年は歌姫様が、掻っ攫って行った。先に予約してありました、と、おっしゃったから誰も手を出せなかったのだ。まだ来年は、どうかキラは知らない。
「キラ、たまには寺で夫夫で、ゆっくりさせてやれば、どうだ? 」
「えーーーー、僕も一緒がいい。虎さんは、アイシャさんとパフパフしてれはいいでしょ? 」
「おまえにも、パフパフの相手はいるだろ? 」
「でも、俺もママニールと、のんびりしたいですよ? 虎さん。寺に居ると、ゆっくりさせられないから、カガリのところへでも遠征したほうが楽させて上げられると思うんです。」
「三蔵さんにマグナムで阻止されると思うぞ? アスラン。」
寺にいると、何かしら用事があるから、ゆっくりさせられない。どうせなら、カガリの別荘へでも行って、のんびりと上げ膳据え膳で過ごさせたいと、アスランも考えたのだが、遠征を嫌がる独占欲の激しい三蔵は、阻止するだろう。
「そうでした。でも、少しぐらいは・・・と、思うんですよ。」
「それなら、オーナーの別荘で例年より長めに過ごせばいい。あそこなら、オーナーもゆっくりできる。」
誰かが独占するのは不可能だ。だから、全員が泊れる施設が必要になる。そういう意味なら、ラクスの別荘は理想的な場所だ。
「初詣して、ママを拉致すれば完璧じゃない? アスラン。年末は、トダカさんが独占すればいいよ。」
「そんなところだろうな。」
「いつもと変わらない予定だな。」
キラは、どこかへ出かけたいと思ったが、やはり、それは無理がある。無難なところに話が着地する頃に、虎のマンションに到着した。
「終わってからの予定は、考えておけ。それまでのスケジュール確認は、特別ミッションが終わったらやる。」
「わかりました。ラクスにも連絡しておきます。」
「おやすみなさーい、虎さん。」
バタンとドアを閉めると、クルマは軽やかに走り出す。虎のほうも年末年始の予定を考えて、頬を緩める。長年の懸念事項が解消するとなると、いろいろと出てくるものらしい。
作品名:こらぼでほすと 十一月2 作家名:篠義