こらぼでほすと 十一月3
「おっさんって・・・おまえに言われると傷つくぞ? 」
「そりゃ、俺だって三十路を越えたから、じじいーずの仲間入りですけどねぇ。ということは、うちの亭主も越えてるのか・・・」
ニールと三蔵は、年もほとんど変わらない。ニールが三十路の仲間入りをしたのだから、あちらも同様のはずだ。でも、坊主は見た目には変わらないな、と、思う。
「越えただろうな。・・・確か。」
「まあ、三蔵さんは年齢不詳だから、よくわからんが。どうも、東洋系の人間というのは年齢が判り難い。八戒も、そろそろ三十路のはずだが、あいつ、二十代前半でも通りそうだ。」
「それを言うなら、キラでしょう。あいつ、あれで二十歳越えてるなんて化け物ですよ。」
キラは、すでに二十代半分は過ぎているのだが、能天気だからなのか、とても幼い容姿だ。歌姫様より年上なのに、下手すると年下に見えていたりする。
「あれも、スーパーコーディネーターだから、老けないんだろう。」
「この世で唯一のスーパーコーディーネーターだから、あれが遺伝子操作によるものなのか、東洋系故なのかはわからんな。」
キラは、他のコーディーネーターよりも徹底的に遺伝子操作をされているので、どこいらが強化されているのか、今ひとつ謎だ。虎たちのような普通のコーディネーターとは明らかに違うものだと、ニールも説明は受けている。
「そう考えると、おふたりは年相応の容姿ですよね? 」
「俺、虎さんほど老けてないぞ。」
「こらこら、鷹さん。俺のほうが年上ってだけだろ? 老けてるって言わんでくれ。」
ぐだぐだとくだらない話をしていたら、扉がノックされた。外からトダカが顔を出した。手にしているバスケットは軽食らしい。
「なんだい、ふたりとも。うちの娘さんを口実にサボりかい? 」
「おや、お父さん。」
「トダカさんも? 」
「私は、娘さんにおやつの配達に来ただけだ。それから衣装も、後でレイが運んでくるから、こっちで着替えてくれ、娘さん。更衣室がぎゅうぎゅうになってるんだ。」
ホールの家具の配置を換えたら、一斉に着替えるので、そうなると更衣室は手狭になるからのことらしい。
「俺たちも、こっちで着替えるとするか。虎さんはエスコートだろ? 」
「ああ、その配役だ。あんたは、バックヤードだったな? 鷹さん。」
「一応、スーツらしい。全員が色違いの執事服風だ。トダカさんは? 」
「私は通常営業さ。このまんまだ。」
トダカは、すでにバーテン姿だ。バックヤードの担当は、衣装は、そのままということになっている。ほら、少しツマミなさい、と、トダカがバスケットの中からサンドイッチやらの軽食を取り出す。で、最後にコンビニのおでんまで出てきた。
「これなら消化もいいし喉越しがいいだろ? 」
「大根ですか。これは嬉しいな。」
トダカはニールの好物も知っているから、食べやすそうなものを用意してくれたらしい。コンビニ特有のプラスチックの容器には、大根や厚揚げ、じゃがいもという、あっさりしたおでんのタネが入っている。
「やっぱり寒くなると、これだなあ。」
もちろん、虎も、おでんをつつく。じじいーずたちにとっては、おでんのほうが軽食としては有り難い。
「これで酒が呑めれば、最高なんだけどさ。」
「ダメですよ、鷹さん。これから本番なんだから。酒臭いのはマズイですっっ。」
「俺は、それほど大役はないんだけどなあ。トダカさん? 」
「くふふふ・・・まあ、そう言うとは思ったけどさ。」
トダカは、バスケットの底から日本酒の小瓶を取り出して、しょうがないなーと、当人もコップに注いでいる。酒飲みにすれば、ちょこっと飲むぐらいでは、どうということもないらしい。
「ちょ、ちょっと、トダカさん。」
「まあまあ、娘さん。私たちのようなじじいーずになるとね、ちょっと燃料を入れると動きがスムーズになるんだ。少しだけだから。」
コップの酒をごくごくと呑んで、ふうーとおいしい息を吐いているじじいーずは、楽しそうだ。特別ミッションとは言っても、メインのホストたちだけは忙しいが、ヘルプやバックヤードは、いつもより楽なものだ。だから、気楽におやつをつついていたりする。
キラからの無茶なお願いに、刹那は難色を示したのだが、ティエリアのほうが背中を押した。確かに、刹那が一番効果があるからのことだ。
「さすがに、ゆっくりさせてやれる日程は組めないが、二、三日ぐらいの滞在なら、なんとかなる。・・・俺からも頼む。顔を見せて来てくれ。」
キラだって、ダブルオーの最終チェックの真っ只中に、刹那の地上降下を依頼するのが無茶なことは承知の上だ。だから、わざわざ、キラとアスランが組織まで出張って、その時間を作り出すために手伝いをした。
「お願い、刹那。これは、刹那にしかできないことなんだ。」
切々と、キラがメールで頼み事をしてきた。刹那だって、気にはなっていたが、到底、そんなことができる状態とは言えなくて我慢していた。マイスター組リーダーが、勝手なことはできないと戒めてもいた。
「それほどか? 」
「それほどの事態だ。」
「・・・わかった。日程はギリギリでいい。兎に角、顔を出してくる。」
「了解した。サプライズ扱いだから、ロックオンにも教えるな。おまえは最短時間で地上に降下できるように予定を組む。」
ニールのダウンは知っている。とりあえず、漢方薬で持ち直したという報告は受けているが、それでも刹那の顔が必要なほど、精神的に親猫が不安定だということなのだろう。年少組では、どうにもならない。ここは、本家本元の刹那が気合をいれてこなければならないらしい。いつもなら、エクシアかダブルオーで地上へ降下するところだが、まだ機体が完成していないから、公共機関に頼ることになる。そうなると往復の日数も考えて、滞在は二日がギリギリのラインだ。それでも、顔が見られるなら無理してもいい、と、刹那だって思っている。
作品名:こらぼでほすと 十一月3 作家名:篠義