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WinterBlossom① 藍×春歌

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「お前は今何をしている?」
「シャイニング事務所に所属しているアイドル、そしてマスターコースでハルカの先輩として指導をしている」
「それ以前にお前はどんな存在だ?」
「シャイニーさんが資金を出して開発されたソングロボでしょ?」
「そうだ」
 ボクの答えに満足したのかにやりと博士の口角が上がる。
「お前はソングロボだ。ボクの意思を尊重云々の前に、お前はソングロボであることを認識しなおさなければならない。お前がこうして起動しているのはシャイニーさんのご好意があってからこそなんだ。つまり、ソングロボ、アイドルとして活動するにあたって不利益になる情報はこちらで削除する権利があるということだ。お前は半月前にメモリーを増設している。どう考えても今のタイミングで増設をするのは早すぎだ。普通にソングロボとして活動して、情報を得ていてもこんなにすぐにいっぱいにはならないはずだ」
 お前が大切に保存しているメモリーは俺たちの研究にもソングロボとしての活動にも不要で、容量ばかり食うものなのだよ。無駄なことに大切な資金は使えないからね。
 はっきりとは言われなかったが、博士はきっとこう言いたかったのだろう。ボクはなにも返せなかった。
 確かにボクがただのソングロボであるならば、ハルカとのメモリーを大切に保存しなくてもいいはずだ。彼女と過ごした日々を保存したって、マスターコースが狩猟すればなんの役にも立たなくなるのだから。
「藍、ここでお前がメモリー消去に協力しなくても構わない。お前がぶっ壊れたとき、俺たちはもちろん緊急措置をする。但しその場合は、今まで君が七海君と出会ってから過ごしてきたデータはすべて消去させてもらう」
 さあ、どうする? と博士は問いかけてきた。
 答えはもちろん決まっている。

 もし神様がいて、もしボクの願いを叶えてくれるとしたら、ほんのひとしずくでいい。

 ボクがこんなにもハルカを思う愛しい気持ちが、ひとと同じ本当の感情でありますように。

 そして彼女もボクのことを愛しく思っていますように。

「このままでいい」
 突然機能停止になるのは嫌だ。だけど、それ以上に自分の手ハルカとの記憶を消すのはもっと嫌だった。きっと緊急措置をして再び起動したとき、博士の言うように、ボクはハルカのことを覚えてないのかもしれない。それでも、ボクには彼女と過ごしたフォルダがある。ボク自身がパスワードすらわからなくなって取り出せないかもしれない。けれど、ハルカとの大切な想い出が胸の奥になると思うとそれは幸せなことのような気がした。
「歌謡祭を控えているっていうのに、それが指導者の言うことか? 七海君の人生だってかかってるというのに」
「壊れないように調節するよ」
「勝手にしろ」
 やれやれ困った子だ、とでも言うように博士はぶっきらぼうに言い放った。
「じゃあね、博士」
 ボクは博士の研究所を後にした。

 外に出ると粉雪が降っていた。二月は暦上では春だというけれど、まだまだ冬真っ盛りだ。もっともボクはロボだから、冷たさなんてほとんど感じないけれど。
 ハルカは大丈夫だろうか。
 はらはらと舞い落ちてゆく花びらにも似た雪を見てふと、愛しいひとを心配する。
この雪の降る中、薄着で歩いてるんじゃないだろうか。きっと慌てて飛び出してマフラーや手袋を忘れているような気がする。
 携帯電話を取り出し彼女に電話をかける。すぐにハルカは出た。聞くと今は寮にいるのだという。弾んだ声で新しいアレンジを思いついたと話す彼女は電話越しにも笑顔が見えてきそうな気がして……ボクはこの瞬間を絶対に失いたくないと思った。



 ボクのメモリーはあと一週間で容量オーバーになるという。
 ハルカには今日の出来事は伏せるつもりだ。後一週間もしないうちに壊れると知ったら彼女はきっと泣くだろうから。いや、それまでになんとかギリギリのメモリーでも持つように、容量オーバーしないように管理してみせる。
 そして歌謡祭を成功させて、笑顔のハルカをたくさんメモリーに残しておくんだ。
 歌謡祭で優勝したあと、もしボクが壊れたとしても、ハルカの事務所残留には支障がないだろう。ボクがいなくてもきっと彼女の曲は優勝できるから。歌謡祭にはボーカル部門と、作曲部門がある。ハルカはきっと作曲部門で合格し、シャイニング事務所に正式に所属できるとボクは踏んでいた。
だから、メモリー増設を望まなかったのだ。
 ボクが勝手に壊れるだけだし、ハルカには……ちょっと可哀想かもしれないけど……アイドルである以前にボクは、 シャイニーさんと博士の共同プロジェクト・ソングロボだから。
 そんな言い訳を何度、博士から言い渡されて何度思ったんだろう。
 芽生えた感情を捨てソングロボとして生きるか、芽生えた感情を大事にして壊れる道を選ぶか。
 どちらの選択も残酷すぎる。
 どうしてボクはハルカと同じヒトではないのだろう?
 ボクはその日電源を落とさずに、ずっと、自室でハルカとの思い出の動画を再生していた。

作品名:WinterBlossom① 藍×春歌 作家名:想太