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WinterBlossom① 藍×春歌

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~Ai story 1~



「うーん、困ったことになったな」
 博士はボクのデータをパソコンのモニターで確認しながら呟くように言った。
「何が困ったことになったな、なの?」
「あ、いや、こっちの話だ。ところで藍、パートナーの子とは上手くいっているのかい?」
「はぐらかさないでよ。まあ尋ねたところで答えてくれないのが博士ってのは承知の上だけどさ。ハルカとは順調にいってるよ。歌謡祭で歌う曲も完成して今はステージのための仕上げ段階に入ってるしね」
 そう、来週はシャイニング事務所で開催される歌謡祭があるのだ。それにボクはパートナーのハルカの曲でステージに立つことになっている。
「そうか。順調に進んでいるようでなによりだ」
「プログラムに何か不具合はなかった? 歌謡祭本番で不具合が起きたら困るからね」
「それは……」
 一瞬博士は口ごもった。
「どうしたの?」
「いや何でもない」
 博士の声は言葉とは裏腹に曇っていた。一体、どうしたんだろう。歌謡祭が終わるまで待てない何かでもあるのだろうか。
 今ボクは、博士にメンテナンスをしてもらっている。デフラグ終了後、異常がないか、プログラムを見てもらっているのだった。
 電源を切られているときはさほど気にならないけど、オフ状態だったら自分の考えをすべて把握されているようで、いい気分とはいえなくなる。
 一応、ロボとはいえ、ボクにも博士やスタッフたちには知られたくない秘密は、自分でパスワードをかけてフォルダを管理していいようになっている。ただし、それは数が限られていて、事実上、一つしか作成してはならない。博士に作られてもう数年以上が経つけれど、ボクは今までこの鍵つきフォルダを使おうとは思わなかった。
 だけど、マスターコースの教官になってハルカのパートナーになってからは作成したいと思うようになった。目の奥に内蔵されているカメラやビデオで撮ったハルカと過ごした日々のメモリーは大切に作成したフォルダにパスワードをかけて保管している。
 彼女を好きになったのはいつだろう。気がついたらボクのファイルは彼女の姿でいっぱいだった。
「まあ、あと一週間かかったとして……としてはデータが残っているからギリギリ大丈夫か」
 ぶつぶつと顎に手を当てて博士は呟く。
「何が大丈夫なの。まさかメモリーの増設が必要になるまで、とか言わないでよね」
「そのまさかだ」
博士の表情は暗すぎる研究室のせいでよくわからなかった。まったく、節電と言って自分の研究机とパソコンの電気しかつけていないんだから。暗い中で作業をするから博士の視力は落ちるのだろう。ますます、分厚い眼鏡が必要になるね。
「メモリーの増設がまた、必要なの?」
 半月前、緊急入院をしてメモリー増設をしたばかりだ。博士曰く、ひとの感情を理解できるようになって蓄える情報が多くなったのが原因らしい。どうやら今回も同じようだ。
 歌謡祭まであと一週間しかないというときに、またもやメモリー増設が必要になるなんて! メモリー増設には緊急入院が必要になる。増設して、不具合をチェックしていたら、歌謡祭の日が来てしまうじゃないか!
「あぁ。目に見える部分では容量を食った形跡はないんだが……」
 分厚い眼鏡の奥に見据えられているような気がして、ボクはドキッとする。
「お前専用のフォルダがどうやら重くなっているようだ」
 一体、何をそんなに急速に増えるほど保存してるんだ? 博士の言葉がそう問いかけているように感じた。
「へぇ、そうなんだ」
 ボクはなるべく感情を入れないように淡々と相槌を打った。
「まあ、メモリー増設も考えたが、いらないフォルダを整理するのも大切だろう? お前が整理できないのなら、こっちでする」
 いらないフォルダ? それはボクとハルカの過ごした日々のことを言っているの? 確かに博士にしたらつまらないことかもしれないけど。
 ハルカが何にもないところで転びそうになったとか、ボクがコンペに合格祝いで買ってきたケーキを大喜びで食べて体重が二キロ増えて落ち込んだこととか、徹夜で楽曲を作成したせいで話し合いの最中に倒れたとか、ボクを怒らせるようなことを懲りずに平気で言って課題三倍の罰を受けたとか。
 きっとハルカが見てもくだらないかも。いや、彼女なら顔を真っ赤にしてはにかみながら、「藍くんが覚えてくれるのは嬉しいけど、データに残されるのは恥ずかしいです」とか言ってきそうだ。
「残念だね、博士。パスワードはボク自信が管理している。だから、勝手に消去はできない。それにパスワードは簡単に取り出せないようにしているプログラムしているからね」
 検索をしても絶対にデータに上がらないようにボク専用のフォルダはなっているのだ。
 博士はタバコをふかしながら子供が拗ねるような口調で、
「お前が整理をしたくないというのなら、俺はメモリー増設をしない」
 メモリーを増設しないということは、すなわちボクのフォルダがいっぱいになったら緊急停止をせざるを得ない状況になるということ。処理しきれない情報が多いと、ボクの中の処理速度も当然落ちる。それはパソコンで言う「重くなる」に値する。メモリーが飛んだり、突然エラーになったり、電源が落ちてしまうこともある。
 博士の言葉はかなり重大だった。メモリーが増設されなければ、歌謡祭まで持つかどうか。まだギリギリ空き容量はあるから一週間分の情報を蓄えたとしてもメモリー的には大丈夫だろうけど。ハルカのメモリーを残すのも厳選しないといけないな。
「余分なメモリーは保存してないよ。だから、メモリー増設をしても問題はない」
 そう、ボクにとってハルカと過ごした日々は余計なものじゃない。彼女を保存したメモリーを抽出してはそのとき経験した状態に浸っていたい、そんな気持ちだった。
 自分でも人間らしくなった、と思う。おどおどとして自信のない音楽馬鹿の少女がボクに教えてくれたものは「感情」「心」「愛」だった。
 男か女カの区別で十分だったボク。ひとを愛おしいなんていままで思ったことがなかった。それがハルカと出逢って、彼女を可愛いと素直に思えるようになった。
 心が芽生えた―――博士はそう表現している。
 博士は灰皿にタバコを置くと、
「問題ないなら、見せてもらおうか?」
「お断りするよ」
 誰にもボクとハルカの関係を知られたくない。別にやましいことをしているわけじゃない。ただ、ボクが勝手にハルカを愛おしいと思っているだけ。彼女もボクのことを好きかも知れないけど、それは恋人を作ってはいけないというアイドルであるボクにはご法度な質問事項だった。だからボクは彼女と過ごす時間を大切にメモリーに記録していたのだ。それを作り親とはいえ簡単に見せたくはなって思った。
「見せたくないものでも入ってるのか?」
「大切なメモリーだからね。そう簡単にはひとに見せられない」
 すると博士は顎に手を当てて考えるように、
「お前もひとに近づいたということだな」
「博士が望んだことでしょう?」
「あぁ、もちろんそれが俺の研究のすべてだったさ。だが、十分にデータは取れた。ロボが心を持つということも証明できた―――」
 ふいに彼が言葉を区切った。なんだか嫌な予感がする。
作品名:WinterBlossom① 藍×春歌 作家名:想太