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妖狐×僕SS~蝶の死~

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妖狐×僕SS~蝶の死~・プロローグ




 「その時は、そう思っていた。

 次の春がすぐそこまで来ていると、知らずに

 23年前…

 また、彼女の暖かさに、また包まれたい…」


 ー都内某所ー

 ある中規模の中華料理店にて、少々、可笑しな事が起きていた。

 同じ席から次々と注文が来る事は珍しくない。
 何が可笑しいというと、その席は一人の男しかいなかったという事だ。
 男が注文された料理を次々と食べていく。

 点心、天津飯、回鍋肉、チンジャオロース、油林鶏、炒飯、スープ等、数々の料理を黙々と食べている。
 常人なら食べきれない量であった。

 そこに、銀色の蓋の付いた大きな中華皿を持った店員が来た。

 「お待たせいたしました。当店オリジナル創作料理の"北京ダックの丸焼き"です。
 どうぞ、お召し上がり下さい。
 食べ終えたお皿をお下げいたします。
 お茶もお汲みます。」

 男は店員に言った。

 「ありがとうございます。」

 店員はすぐに御礼の言葉を言い、一礼し、次の仕事に向かった。

 この北京ダックは、その店の秘伝のタレに丸々漬け込み置いた北京ダックを専用の丸焼き用器具で焼いた料理だ。
 元々、パーティー・宴会等でだす2~3人用の料理なのだが、前に大量の料理を食べていた男はソレを一人で食べる。

 男が北京ダックの丸焼きにナイフを入れた。
 北京ダックの切り離した面から香ばしい匂いが出て、肉汁が滴れた。
 男は切り離した肉をフォークで刺し、ソレを口の中に入れる。

 男は綺麗な銀色の髪をしていた。襟に掛かるぐらいの長さの髪であった。
 右目がサファイアのような青い瞳。左目が綺麗な金色の瞳。
 顔からは、20後半~30中盤を思わせるような美中年と分かる。
 肌は色白の美女ように白い。

 しかし、それの美のコントラストに混じっている歪なものがあった。
 それが、左眉から左頬下に掛けて着いていた疵であった。
 その疵は、鋭利な刃物で着けられた様であった。
 身長が185~6cmぐらいで体格も良かった。
 たが、大男的な感じではなく、ハリウッド俳優のヒュー・ジャックマンやジャン=クロード・ヴァン・ダムの様なプロポーションであった。

 服装は、綺麗に片付けされている黒のスーツジャケット・ズボン、白いカッターシャツの姿であったが、ネクタイは着けておらず、第2ボタンまで開けていた。
 おそらく、全部のボタンを閉めると身体を圧迫し、苦しくなるのである。

 体重は93~96kgぐらいあり、その服の下の肉体は見事に鍛え上げられており、引き締まった身体は美しさを放っていたが、また、その身体にも数々の疵が着いていた。
 切り傷、刺し傷、ガラスみたいな物で無理やり着けられたような歪な傷。
 そして、弾痕…男が歩んで来た半生が少なからずとも分かってしまう。

 男は、北京ダックの丸焼きを食べ終えた。

 ゆっくりとお茶を飲み干した後、手を合わせ一礼をし、席を立ち、会計を済ますと店から出る。

 「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしています。」

 店員がそう言うと、男は店員に一礼し、店から完全に出て行った。

 男の名は「御狐神 双幟」

 「双幟」が顔を見上げ、青黒い夜空を眺めた。
 そこの空に輝くはずの星達は、街の強い輝くネオンによりかき消されている様に見えた。
作品名:妖狐×僕SS~蝶の死~ 作家名:アッキー