妖狐×僕SS~蝶の死~
誰も所有していない、空きビル3階の広間に「御狐神 双幟」と「八嶋 仁蔵」が互いに向き合っていた。
そこの場所は広々としており、空きビルの為、何もなく殺風景だ。
しかし、電気はまだ付くようで部屋に明かりが灯っている。
二人は動かない。いや、動けない方が正解だった。
先に動いた方が不利になるのを知っているからだ。
ジリジリと時間が過ぎていく。
構えているだけの二人の額から汗が流れる。
全ての感覚が研ぎ澄まされ、些細な事でも感じ取れるようになっていた。
その時だった。
"カン"という、小さな音がした。
「仁蔵」が「双幟」の肝臓を目掛け、三日月蹴りを放つ。
三日月蹴りは、前蹴りと廻し蹴りの中間の軌道で、上底足もしくは指先で相手を刺す蹴りだ。
しかし、指先の場合は余程鍛え込まない限り使ってしまうと、逆に自分の指が折れてしまう。
「仁蔵」は今、安全靴を履いており、爪先部分は鉄板で覆われている。
だが、「仁蔵」は靴を履かずとも指先で刺し込んでいただろう。
「双幟」のシャツが肝臓のある部分辺りから血が滲み出ていたが、皮と肉から浅く裂けているぐらいだった。
「双幟」は当たる瞬間に半身下がって威力を半減させていたが、蹴った瞬間にタックルに移行して「双幟」を捉えた。
「仁蔵」は「双幟」の身体を横にし、上に抱え、肩に担ぎ、柔道の肩車
の状態になり、「双幟」を頭から落とした…
作品名:妖狐×僕SS~蝶の死~ 作家名:アッキー