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風香の手帖

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「アイスーできたー」
よつばがアイスを持ってやってきた。
小岩井も居間に来てアイスを食べ始める。
「アイスおいしいな?」
「冷たっ」
「お、結構うまいな」
「よつばちゃん、お父さんてアイス好きなの?」
「うん、だいすき。でもプリンはもっとすき」
「そーなんだ」
「まえとーちゃんがよつばのプリンたべちゃったから、かわりのかってきた」
「へー、逆じゃない。小岩井さん、そんなにプリン好きなんですか?」
「否定はしない」
「じゃあ今度食べきれないほどのプリン作ってきましょうか」
「ゆめのよう」

 風香は以前ジャンボに頼まれていたあさぎの話をする。
「ジャンボさん、こないだの話ですけど、あさぎお姉ちゃんに予定を聞いてみたら、残念ですけどしばらく旅行に行くって言ってました」
「そうか……」
ジャンボはがっかりしてしまった。
「よつば、おまえもここに居づらかろう。うち来るか?」
「いかない」
「即答かよ」
ジャンボはさらに落ち込んだ。
「偉いぞよつば。知らないおじさんについてっちゃだめだぞ」
「俺は知ってるお兄さんだろ」
風香は笑っている。
「じゃあ、俺帰るわ」
「ちょっ、夕飯ぐらい食べてったらどうだ」
「いや、明日の仕込みもあるし。それじゃまたな……」
ジャンボは寂しく帰って行った。

「ジャンボもいい奴なんだが、でか過ぎるからな」
「そうですね。最初見たときびっくりしちゃいますもんね」
「……ところで風香ちゃんは、一体何をしているのかな」
「ひざまくらー。よつばちゃんも反対側おいでー」
「よつばもやるー」
「子供が二人に増えたな」
「時々甘えちゃダメ?」
「大丈夫。あと二人ぐらい風香ちゃんに生んでもらって家族がみんな子供!」
「えー!」
風香の顔がとたんに赤くなる。
「ふーか、おかーさん?」
「う、うん。後何年かしたらなるかもね」
「おとーさんはだれ?」
「えっ、それは……」
風香が小岩井を見ると笑っている。
「あっ、小岩井さん、何笑ってるんですか。もー、私宿題があるから帰るっ」
風香は家に帰っていった。
「よつばは風香ちゃん好きか?」
「ふーかのごはんおいしいからすき!」
「おまえは料理がうまけりゃ誰でもいいのか」

 家に帰った風香は宿題と格闘していたが、一向に進まないためいったん休憩し、ベッドに横になる。
すると海でのプロポーズの件が脳裏に浮かび、恥ずかしさでベッドの上を転がりまわる。
自分は何であんなことを言ってしまったのだろうか。
小岩井以外誰も居なかったのが、不幸中の幸いであった。
「でも小岩井さんも変な顔してなかったし大丈夫だよね。……小岩井さんて私と結婚したいとか思ってるのかな」
残念ことに、風香は先ほど小岩井が言っていたことを忘れてしまっていた。

 すっかりその気になった風香は、結婚について考える。
自分と同じ年で結婚した人は、世の中にどれだけいるんだろうか。
そもそも結婚して高校に通ってる人はいるのだろうか。
風香は、あさぎに相談してみることにした。

 あさぎは自室にいた。
「お姉ちゃん、相談があるんだけど……」
「また恋愛関係?」
「うん、結婚ていつすればいいのかな」
「へ?」
風香はあさぎに事情を説明した。
「なるほど。話は大体わかったけど、今の話小岩井さんにしてるの?」
風香は首を振る。
「結婚はあんた一人でするもんじゃなくて、小岩井さんとするもんだから。わかるでしょ」
「うん」
「まあ普通はあんたの年どころか、私の年でも結婚なんて考えないもんねえ。でもこないだ初デートで今日二回目のデート。何でいきなり結婚のことを考えるようになったの?」
「それは……小岩井さんも年上だし、よつばちゃんもお母さんが必要かもしれないし、何より私があの二人と一緒に住みたかったから」

 あさぎが風香に根本的なことを尋ねた。
「それであんたは何がしたいの」
「え?」
「小岩井さんは仕事があるし、よつばちゃんもそろそろ小学生でしょ。家にいるあんたは家事だけやっててそれで満足なの」
風香は答えられなかった。
「つまり、仮にあんたがその年で結婚したとして、友達が大学生になったり就職してOLになるのを見て、風香がどう思うかってこと」
「そこまで考えてなかった……」
「じゃあもう一度聞くけど、風香は小岩井さんと結婚したいのね」
「うん、小岩井さん以外考えられない」
「いつ結婚したいの」
「できるだけ早く。でも今すぐじゃなくてもいい」

「そう。じゃあ私の意見を言うから。小岩井さんからも、あんたが高校を卒業したらって話が出ると思う。ただし奥さんしながら短大か四大に行くこと。そして二・三年でもいいから会社で働くこと。働かないと世間知らずになっちゃうからね」
「うん、お姉ちゃんありがとう。いかに私が考えていなかったかということがよくわかった」
「風香。あんたの気持ちに水差しちゃったけど、小岩井さんとのデートは楽しみなさいよ。後、あんたは一人じゃなくて小岩井さんがいるんだから」
「はい」
風香はとぼとぼと部屋を出ていく。
「あちゃー。燃え盛る恋の炎を消しちゃったかな」

 風香は部屋に戻って、ベッドにうつ伏せに横たわる。
姉の話はショックであり、自分が結婚に憧れていただけであることを痛感した。
そしてあさぎの最後の言葉を思い出し、小岩井に相談してみようと考える 。
風香はやっと大人への階段を上り始めたような気がした。

作品名:風香の手帖 作家名:malta