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こらぼでほすと 十一月4

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 冷製のオードブルだけでは、ちょっと足り苦しいだろうし、寒い季節になりつつあるから、冷凍庫の中を確認して、ニール用にレイが作成していたおじやを取り出す。これをレンジでチンしている間に、冷蔵庫から野菜やら鳥肉を取り出して刻んで鍋で煮る。こちらは、少し強めの中華スープ味にして、チンしたおじやと混ぜると、中華粥の出来上がりだ。せっかくだから、刹那の好物も作ってやりたいところだが、生憎とホワイトソースを切らしていた。他は何を作ろうかな、と、考えていたら、頭にバスタオルを載せた刹那が風呂から上がってきた。
「こぉーらっっ、髪の毛はちゃんと拭け。風邪引いたら、どーすんだよっっ。」
 頭に乗っかっているバスタオルを取上げて、ニールがわしわしと刹那の髪の毛を拭く。刹那のほうもされるがままだ。
「いい匂いがする。」
「中華粥を用意したんだ。他に食べたいものはないか? いつものオムライスはホワイトソースが切れててできないんだけどさ。」
 まだ、オムライスか、と、刹那はおかしくて笑う。六年前なら、確かに好物だったが、今は、それほど食べたいメニューではない。それなのに、親猫は、逢う度に必ず、それを用意するのだ。刹那が好きだという理由で。
「店の残り物で十分だ。」
「でも、おまえさん、晩飯食ってないだろ? 」
「店で軽食は食べた。あんたの隣の部屋で待機していたからな。トダカさんが運んでくれた。」
 そう言われて、ああ、と、ニールも気付いた。トダカが自分にも軽食を運んでくれた。なるほど、刹那も同じように食べていたらしい。
「隣の部屋って、そんなとこに隠れてたのか。」
「俺はサプライズだから、なるべくスタッフとも顔を逢わさないことになっていたんだ。」
「てか、大丈夫なのか? 今、ダブルオーの最終調整やってんだろ? それに、ティエリアたちも旅行の準備してるらしいし。」
「あんたの顔が見たかったんだ。どうせ、あんたのことだから、ダウンした後、落ち込んでいたんだろ? 」
「うーん、落ち込むというよりは、ギリギリすぎて驚いていたが正解だろうな。具合が悪いのは、わかってたけど・・・・まさか、いきなりだとは思ってなかったからさ。おまえに悪いと思った。」
 何も言わずにいなくなったら、また泣くのだろうと思うと、ニールは、とても残念な気分になった。だから、それについては謝る。
「そう思うなら、少し大人しくしていろ。まもなく、あんたを宇宙で迎えるんだからな。」
「うん、そうだな。楽しみにしてるよ。・・・・まもなくなのか? 」
「ああ、まもなくだ。・・・だから。」
「わかってるよ、刹那。ちゃんと大人しく暮らしておく。」
 わしわしと拭いて、首周りも、ざっと拭くと、ニールはバスタオルを刹那に返す。身長が随分と伸びて、刹那の視線は高くなった。赤い瞳が、ダウンなんかするから心配した、と、怒っているので、ごめんごめん、と、謝る。
「俺が泣くのは、あんたのことぐらいだからな。」
「そうおっしゃいましてもね、刹那さん。いや、ライルは? 」
「あいつは笑うことはあっても泣くような事態は引き起こさない。」
「さいですか。」
 なんていうか、実弟に対する日頃の扱いが、透けて見えてニールは複雑だ。あれでも、ちゃんとした大人なのだ。笑うって、何をしてるんだろう、と、微妙な気分になる。ちょっと視線を外したら、髪の毛を引っ張られた。少し下からの刹那の視線と合わせる。
「あんたが地上で暮らしている限りは、俺も安心して働ける。」
「うん。」
「組織に復帰は認めない。これは、マイスター組の総意だ。」
「え? 」
「あんたは俺たちの日常が担当だ。そちらで存分に力を発揮してくれればいい。」
「いや、あのさ、刹那さんや。マイスターは無理でも、トレミーの操舵ぐらいはできると思うんだけど? 俺。」
 細胞異常が完治したら、リハビリして組織に戻るつもりをしていた。右目の視力はないから、マイスターへの復帰は無理だが、船内作業やエージェントの仕事ぐらいはできると考えていた。それなのに、刹那は、それを打ち砕くことを、さらりと告げる。
「結婚したのに単身赴任をするつもりか? 」
「してねぇーよ。この際だから、はっきり言うけど、俺と三蔵さんは恋愛感情なんてもんはないからなっっ。」
「それでも、あんたと三蔵さんは、俺から見ても良い夫夫だと思う。あんたが穏やかな顔をしているのが、その証拠だ。」
 刹那にしても、親猫と坊主が、肉体関係がないのはわかる。わかるが、なんとなく、どちらも楽しそうに暮らしているし、親猫は坊主にだけは、まんまの素を晒しているらしいのも解る。そんな関係は、夫夫とか家族というカテゴリーのものだ。
「そりゃ、気楽だし、三蔵さんに甘えてるけどさ。それとこれとは・・・」
「俺は、あんたが、そういう穏やかな顔をしている時間と場所が好きだ。あんたが復帰したら、俺が好きな時間と場所が喪われる。その損失は重大だ。世界なんか、どうでもよくなる。・・・・だから、認めない。イノベーターである俺の発言権で、あんたの復帰なんて阻止してやる。」
 ものすごく硬いことを言っているのだが、実際は、「おかんは家で俺の帰りを待っててくれなくちゃダメ。」 ということだ。そう言われると、ニールも苦笑するしかない。唯一の甘えられて無防備でいられる場所だと、刹那は言っているからだ。
「・・・おまえさん・・・相変わらず、可愛いなあ。」
「うるさいっっ。可愛いって言うなっっ。」
 よしよしと抱き締めて頭を撫でる親猫に、フギャーと威嚇音を出しているが、黒猫は逃げない。そして、遅れて戻って来たライルは、その光景を静観して、こちらも微笑んでいる。確かに親子猫だ。刹那は、あんなふうにライルには甘えない。ジタバタと照れ隠しに暴れているが、それだって格好だけで振り解くつもりもないのだ。
「あんたらさ、そこでいちゃこらしてると風邪引くぜ? 」
 ひと段落ついたから、ライルが台所へ入り、冷蔵庫からギネスを取り出す。風呂上りだから、みな、パジャマだけの軽装だ。そろそろ冬という時期だから、冷えるのも早い。
「ライル、その後は? 」
「いや、もうギネスだけで十分。なんか、どっと疲れた。」
 やりなれないことだったし、相手が最悪だった。これなら、ケルビィムで武力介入しているほうが、ずーっとマシというくらいに疲れたらしい。
「お疲れさん。ちょっと腹も温めて横になれ。」
「おう、そうする。兄さんも、さっさとこたつに入れ。半纏は? 」
 軽装過ぎるだろう、と、いつも実兄が愛用している半纏を、きょろきょろと探す。こたつの傍に置いてあるから、それを運んできて着せた。
「兄さんも呑みなよ? ダーリンは何がいい? 」
 冷蔵庫を開けて、ニールのためのギネスも取り出す。飲ませたほうが眠りやすいだろうと思ったからだ。
「俺は、お茶でいい。」
「えーー付き合えよ。」
「お湯割りしてやろうか? 刹那。あれなら温かいぞ。」
「ああ、それでいい。」
作品名:こらぼでほすと 十一月4 作家名:篠義