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こらぼでほすと 十一月5

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貰ってきた残りものをアテにして、ライルはぐびぐびと飲んでいる。それを横目にして、ニールは自分の缶ビールをライルの前に置く。三分の一も飲むと、満腹な感じで飲めない。黒猫のほうは、あぐあぐと中華粥を攻略している。やはり温かいものが美味しいのだろう。

・・・・明日・・・明日はなあ・・・・

 どうせなら、明日、鍋でもしてやりたいのだが、たぶん起きられない。店で仕事をしたのは久しぶりで、さすがに疲れた。こういう場合、間違いなく、翌日は丸一日、寝ていることになるのだ。


・・・いや、待てよ。悟空が、あのクスリを管理してるよな? ということは・・・もしかして、スルーできるんじゃ・・・・


 毎晩、悟空が用意する丸薬は、どうも悟空が持っているらしく、ニールには保管場所がわからない。ということは、このまま寝てしまえば、飲まなくて明日は起きられるのではないか、と、思った。
「明日、鍋でもしてやろうか? 刹那。」
「明日? 」
「ああ、ああいう料理って宇宙じゃ食べられないだろ? 野菜も摂れるし、身体も温まるしさ。」
「俺は、なんでもいい。」
「じゃあ、明日、買い物に行こうな? 中身は何がいい? 魚か肉か? ミックスにするか? 」
 あーこの人、事態が把握できてねぇーなーと、ライルは温い目をしている。明日、実兄が起きられないのは、すでに想定内のことだ。それなのに、当人は起きられるつもりらしい。ライルの亭主のほうは、実兄の言葉に曖昧に答えて、「とりあえず、これを食えっっ。」 と、実兄の分のお粥の入った器を無理に持たせている。
「さっきのビールで腹が膨れた。」
「いいから、食え。なんなら、漢方薬でもいいぞ? 冷蔵庫にあったはずだ。」
 そう脅されると、実兄は、もそもそと食べ始める。余程、あのクスリはまずいらしい。
「兄さん、刹那にだと負けるんだな。愉快だ。」
「こいつは厳しいんだよ。こと、俺の健康管理に関しては鬼なんだ。言うことをきかないと、本気で無茶しやがる。」
「無茶? ひどい言い様だ。刹那は、兄さんのためを思ってやってるのにさ。報われないな? 刹那。鬼とかぬかしてんぞ? 」
 もそもそとお粥を口に運びつつ、実兄は文句を言う。刹那は他人には優しいはずだが、おかんの体調を維持するためなら容赦はない。長年、看病を経験して、おかんには無理矢理強制的に実行というのが導き出された結論だ。もちろんティエリアとフェルトも同じように看病している。
「構わない。どう思われてもダウンされるよりマシだ。どうせ、飲ませるつもりだ。」
「い? 」
 悟空からの情報で、夕方からの食間も食後も飲んでいないと報告を受けている。体調の維持のためには、あの液体のほうは飲まなければならないのだが、マズイからスルーしたいらしい。
「悟空から、ちゃんと報告は受けた。液体と丸薬両方を飲ませる。」
「預かったのか? 」
「もちろんだ。あんたに渡しても飲まないだろうから、悟空が管理しているのだろ? それに、丸薬は毎晩服用しないとダメな代物だそうだ。わかっているな? ニール。」
「でもな、刹那。あれ、飲んだら・・・」
「明後日の朝まで起きないんだろ? 」
「そうだ。」
「出発の挨拶はできる。それでいいだろう。別に、これで終わりじゃない。まもなく、あんたは自由に宇宙と地上を行き来できるようになる。」
 何が重要か、それを間違ってはいけない。ここで、丸薬を飲まさなかったら、丸一日、親猫と過ごせるが、その後が怖い。それなら、体調を維持させるために寝かせておくほうがいい。
「鍋なら次回に食べる。今回は、あんたを叱るのが目的だった。」
「・・・あーうん、ごめん。」
「諦めるなっっ。俺に世界を壊されたくなければ、努力しろ。」
「・・・・うん。」
「あんたがいない世界は、俺の未来じゃない。そう言った筈だ。」
「・・・うん・・・」
「俺の未来が閉ざされるかは、あんたの存在如何だ。」
「・・・そんな大袈裟な・・・」
「次の未来は、あんたと寺の桜を見ることだ。それが終わらなければ、次は考え付かない。」
 刹那にとって、漠然とした未来というものは思い描けていない代物だ。現実的な予定があって、ようやく未来というものが見えてくる。その道標が、おかんだ。それがないと、この先、何をするのか漠然としていて判らないのだ。戦わなくて分かり合える世界というのは、刹那自身がイノベーターに変化したことで少し理解できた。だが、その世界を作り出す未来までは思い浮かばない。
「そういうんじゃなくて、もっと先のことを考えて欲しいんだけどなあ。」
「そのうち思いつくだろう。それまでは、あんたが必要だ。」
「・・・うん・・・」
「ちゃんと五体満足で宇宙へ上がって来い。約束だ。」
「・・はい・・・・」
 別に怒鳴っているわけでもないのだが、静かな寺なので声は響く。あまり怒りを露わにすることのない刹那が叱ると、結構怖いんだな、と、ライルは親子猫の遣り取りを観察しつつ微笑んでいる。ライルを除けば、一番付き合いの長い二人だ。何かしら通じるものがあるし、言いたいことも言い合える。他の誰が実兄に説教しても堪えないのだろうが、黒猫の言葉だけは通じるらしい。しゅんと萎れた実兄は、ちょっと頬を緩ませて、一々、刹那の言葉に頷いている。たぶん、ちょっと前までは、こうやって実兄が刹那を叱ったり諭したりしていたのだろう。そう思うと、ちょっと羨ましいと実弟で刹那の嫁は思ったりする。
「あんたらさぁー俺を除け者にして楽しいかぁ? 俺も参加できる会話して欲しいんですけどぉー? 」
 拗ねたように口を挟むと、ふたりしてライルに視線を向ける。どちらも、温かい目で、自分を見る。
「おまえも、ニールを叱ればいい。ちっとも大人しくしていないのだから、そこは叱るべきだ。」
「俺が叱っても、その人、言うことなんかきかないもん。どうせ、『大人になったなあー』とか『ありがとう。』とか言うだけだぜ? ダーリン。」
「大人しくしてるつもりなんだよ、刹那。俺だって何度も肺を潰したくねぇーよっっ。苦しいんだからな。」
「ほおらな? 兄さん、俺の言うことなんてスルーなんだ。この間だって、なんだかんだと大量にお菓子作りしてたしさ。俺の言うことなんて、そんなもんなんだ。」
「なんで拗ねるんだよ? ライル。酔ってるのか? 」
「だいたい、兄さんは、のほほんしすぎなんだって。もうちょっと危機感を持てよ。あんた、死ぬとこだったんだぞ? そういう場合は、反省して静養するのが筋だろ? それなのに、俺が見てる限りは、さっさかと動いてるぜ。」
「でも、食事関係しか今はやってないんだぜ? ライル。それ以上には、さすが動けなくてさ。」
「動かなくていい。むしろ、サボれ。」
「これ以上にサボるってか? 無茶苦茶だなあ。」
「無茶でも苦茶でもいいからさ。刹那だけだと思うなよ? 俺もティエリアもアレハレも、世界なんかどうでもよくなるんだからな? マイスター全員で宇宙から地上を攻撃するぞ。」
「とんでもないな? おまえ。私情満載か? 」
「私情満載で上等だ。・・・・あんたな、俺を十数年、天涯孤独にしたんだから、その分は返せよ。」
作品名:こらぼでほすと 十一月5 作家名:篠義