こらぼでほすと 十一月5
「ああ、そうだったな。クリスマスは一緒に過ごそうな? ライル。」
「だからぁー今年のクリスマスは無理だろうから、来年になんだろ? つまり、あんた、これから一年生きてないとダメなんだよ。わかる? 」
「うん、まもなく治療してもらえるらしいから、なんとかなんだろ。」
「そう思うんなら、マズイ漢方薬も飲め。で、明後日の朝は俺らを送り出せよ。そういうのが俺に返す利息なんだからな。」
「はいはい。」
この掛け合いに刹那は、ちょっと驚いた。双子が互いに気を遣っていたのは気付いていた。あまり双子で会話もしないし、しても世間話のような軽いものだったのだが、今は真面目にライルがツッコミをしている。
「ほら、それ、食えっっ。」
「全部は無理だ。」
「じゃあ、半分。それでクスリ飲んで速やかに寝て、明後日の朝には爽やかに俺らを送り出せ。寝るまで、俺のダーリンを貸してやるからさ。」
「ああ、ありがとう。おまえも疲れてるのに、いいのか? 」
「ここで居眠りしつつ留守番しておく。さすがに、誰もいないのはマズイだろうし・・・お義兄さんたちが帰ったら、ダーリンは取り戻す。」
「その頃には、俺は完全に寝てるよ。好きにしてくれ。」
「そうそう、そういう素直な兄さんが好きだぜ? 」
「だって、おまえらは家族だから遠慮も気遣いもしなくていいんだろ? 」
え? と、刹那は耳を疑った。ニールが、そんなことを言うのは珍しい。いつもなら、刹那とライルを先に寝かせて自分が待っているのだ。それなのに、ライルに任せてしまうらしい。
「ん? 何? ダーリン。兄さんが俺に頼るのは珍しい? 」
ぎょろりんと大きな赤い瞳が動いたので、ライルがくくくくくっと笑っている。まあ、以前の自分たちのやりとりからすれば格段に遠慮はなくなっているだろう。
「遠慮しなくていいんだってさ。ライルが、そう言ってくれるから、俺も、そうしてるんだ。」
「そうそう、他人行儀すぎるんで、この間、そのことでやりあったんだ。俺は、この人に、なんでも言いたいように言うことにした。返事したくなければ返事しなくてもいいって言ったのさ。そうすると、割とスムーズな会話になったよ。」
「そうか。それはよかった。・・・俺は、家族なんだな。それが、とても嬉しい。」
親猫は家族だと言ってくれていたし、嫁も、そう言っていた。ただ、そのふたりが家族らしくなかったから三人が家族だという認識が、刹那にはなかった。まあ、血の繋がった双子なのだから、そこが繋がれば刹那も含めた家族ということになる。
「おまえはディランディさんちの子供だって言っただろ? 」
「ついでにディランディさんちの婿だしな。」
「そうだったな。・・・・ニール、そろそろクスリを飲め。」
「誤魔化されて感動的に大団円、とはいかないか? 」
「それでダウンされたら、俺は降りた意味がない。それに、この時間を確保してくれたキラたちにも合わせる顔がなくなる。」
この時間があるのは、『吉祥富貴』の面々が協力してくれたからこそに持てた。それなのに、刹那が帰った後で、親猫がダウンなんぞしようものなら、その親切が無駄になる。
そう言われると、ニールも苦笑して立ち上がる。自ら、コップに漢方薬を注いで持って来た。ぐいっと煽るように飲んで、べぇーと舌を出す。すかさず、刹那が水を渡す。
「これでいいだろ? 」
「それと、これだ。」
預かった丸薬を三粒渡し、それも飲ませる。世界は広いな、と、刹那は、そのピルケースを眺めて思った。人類の科学では助けられない人間を助けられるクスリだ。そんなものが存在するぐらい世界は広い。
「ライル、食べたものだけシンクへ運んでおいてくれ。」
「はいはい。おやすみ、兄さん。ダーリンも、もういいのか? 」
「ああ、腹は膨れた。」
「じゃあ、おやすみ。おやすみのキスだけさせて? 」
甘えるように嫁が両手を広げているので、そこに行ってキスをする。ちゅっと軽いキスをすると立ち上がる。それから廊下で苦笑していたおかんの右腕をとって回廊へ昇る。
布団は三組、脇部屋に敷かれていた。元々、ハイネとレイも一緒に寝ていたから用意されていたものだ。エアコンをタイマーセットして、親猫は右端の布団に横になる。
「あんたが真ん中だろ? 」
「いや、おまえさんが真ん中だ。そうしないと、ライルが拗ねる。」
そういうものなのか、と、刹那が真ん中の布団に横になろうとしたら、ちょいちょいと親猫が手で招く仕草をした。せっかく、ライルが貸してくれるっていうんだから、と、刹那を自分の布団に入れる。以前のように、ぎゅっと抱き締めして腕枕する。以前なら、すっぽりとニールの身体で包めたのに、今ははみ出している感じだ。
「やっぱり、大きくなってるな? 」
「当たり前だ。」
「最初の頃は、すっぽりと収まったのにさ。」
「いつの話をしてるんだ? ニール。」
「最初、ベッドで寝ないで床に転がってた頃さ。何度、ベッドに抱き上げたかわかんないほどだった。」
「・・・すまない。あの頃は、ベッドのスプリングが気持ち悪かった。」
「それに物音がすると飛び起きるしさ。」
「あんたに怪我をさせたことがあった。」
「大したことはない。ちょっと引っ掻いただけだ。・・・・それが、こんなに大きくなってマイスター組リーダーになったんだな。」
「まだ、身長ではティエリアに負けている。」
「くくくく・・・そこじゃないよ。器も大きくなった。それが、俺には嬉しいことなんだ。」
「そう思うなら、大人しくしていてくれ。」
「うん、わかってるよ。」
「十日後だ。」
「了解。」
「今度こそ、桜を見る。」
「そうだな。それなら、誕生日のお祝いもできそうだ。なんか欲しいものを考えておいてくれ。俺の用意できる範囲でな。エクシアのパーツとかダブルオーの新機能とかは無理だから。」
「それなら、あんたも考えておけ。今度は、探せる時間も取れるはずだ。」
刹那の誕生日の前に、ニールの誕生日がくる。渡せるものを思いつかないし、探す時間も取れない状態だったから、刹那もそう言う。
そういや、ティエリアにも言われたなあ、と、ニールは内心で思い出した。あの時から、欲しいものは変わっていない。
「俺が欲しいものは、十日後に貰える。おまえらを待っててやれる『健康』ってーのが、今一番、欲しいものだ。」
「物質的なモノで言え。そんなものは用意できない。」
「でも、それを贈ってくれるのは、おまえさんだけなんだぜ? 刹那。くくくく・・・これでようやく、のんびり待ってられるよ。」
「十日後までにモノを考えろ。それは、すでに確定しているし、それは俺からだけじゃない。ダブルオーを再生させるのに組織の人間も、キラたちも手伝ったくれた。みんなの力があってこそだ。」
ダブルオーを操縦してイノベーターの力を解放するのは刹那にしか、今のところできない技だが、そのダブルオーは、イアンを始めとする組織の人間たちやキラたちも手伝ってくれて再生できたものだ。それからすれば、ニールの治療は、みんなに力の集約によるものだと、刹那は言う。
「・・・モノか・・・・てか、それならライルにさ。」
作品名:こらぼでほすと 十一月5 作家名:篠義