こらぼでほすと 十一月6
午後から沙・猪家夫夫が顔を出した。八戒が、ニールに気功波を充てるためだ。その間、刹那とロックオンは、少し外出したが、それも短時間だ。戻ったら、ハイネとクラウスも戻っていた。どちらも二日酔いらしく、どんよりとした空気だ。
「生きてるか? クラウス。」
「なんとかな。・・・・そろそろお暇するよ。」
青い顔をしているが、クラウスはライルに挨拶する。これといって荷物はないから、それだけだ。
「・・・・クラウス、空港までは送る。」
どんよりとした空気を纏いつかせているが、それでもハイネも立ち上がる。どんだけ飲んでたんだよ? と、ライルが呆れるほどだが、どっちも気丈なもので動き出せば、スムーズだ。詳しいことは、二人とも吐かないのだが、どうもヒルダと三人で飲んでいたらしい。
「しばらくは逢えそうにもないが、元気で。」
「あんたこそ、暗殺とかされんなよ? 」
「刹那君、またいずれ。」
「ああ、いずれ。」
最後に、寺の坊主に滞在の礼を告げて、ニールにもよろしく、と、廊下へ出る。それを見送ると、刹那は介護セットを用意して脇部屋に移動する。ライルもついていく。
刹那は、毎度のことだから、すっかり介護も慣れたものだ。ロックオンのほうは、この状態は見たことがないから、かなり心配しているが、こればかりは、どうにもならないと刹那に説明されると黙って手伝う。
「こっちに居着いてから、ずっと、こんなことになってたのか? 」
「ここまでになるのは梅雨か台風ぐらいだ。その場合は医療ポッドに叩き込まれていた。今回は、漢方薬で回復させているから、放置されている。」
「よく生きてたな? この人。」
「『吉祥富貴』で静養していなければ、ここまでは保たなかっただろう。・・・キラたちが居てくれてよかった。」
いろいろと離れ業も駆使して、どうにか治療できる時間を稼いでくれた。それに、刹那たちマイスターの救助や援助もしてくれてたことにも感謝している。人間は、一人では、どうにもできないことがある。分かり合って繋がることができれば、一人で、どうにかできないことも、何人かで、どうにかできることになるのだ。
「マリナ・イスマイールのように戦わずに分かり合える方法というのは、有用なことだ。だが、俺には、その方法はできない。やはり戦って、分かり合う方法を模索する。」
イノベーター同士なら分かり合えるだろう。だが、まだ人類にイノベーターは少ない。これからも戦争は減りはしてもなくならない。だから、刹那たちは絶対的な抑止力として天上から人類を監視する。そのための武力介入も辞さない。
「まあ、ナチュラルな俺としては、ダーリンの手伝いは全力でするさ。俺も対話して分かり合うなんてのは無理だ。衝突して叩き伏せるのもやらないと、どうにもならないな。」
人類は進化する。そのうち、イノベーターが大半を占めるようになるのかもしれない。そうならなければ、対話で分かり合うなんていうのは無理だし、ロックオンのようにの脳量子波が使えないナチュラルな人間なんて、言葉だけで判りあうのは難しい。とりあえずは、こつこつと紛争の種を取り除くしかないのだ。
「背中は預けるぞ、ロックオン。」
「もちろんだ。背中どころか身体も預けてよ? ダーリン。」
ようやく刹那も、現ロックオンに背中を預けると言葉にした。これから、先もロックオンは一人で、刹那の背中を守るのが役目だ。
「身体は、いつでも応じているが? 」
「まあ、そうだけどさ。・・・十日後か・・・・これで、兄さんも治るんだな。」
十日後、ニールは宇宙に上がってくる。生身のままでは無理だから、一時的に冷凍保存処理されて、宇宙で蘇生させてからトランザムバーストの光を浴びせる予定だ。さっき外出した時に、キラたちとの打ち合わせをロックオンも聞いた。たぶん、右目は完治しないだろうとは言われているが、細胞異常は完治できる。それさえ完治できれば、地上でも宇宙でも自由に行き来できるようになる。そう思うと、ほっとする。そのうち、時間ができたら、双子で揃って故郷に墓参りに行きたいな、と、ロックオンも考えている。
「治す。それは約束する。」
「これで、天涯孤独からも完全に開放されるぜ。」
「俺は、おまえが女房になった時点で天涯孤独ではなくなった。それ以前から、おかんが存在していたしな。」
クスリを飲ませてしまうと、ロックオンにニールの身体を横にさせる。これで夜までは、そのままだ。携帯端末でメールチェックをすると、ティエリアから経過報告がない、という叱責のメールが届いていた。
「経過報告というほどのことはないだろう。」
とは、思うのだが、ティエリアは五月蝿いから、簡単な報告は送りつける。すると、今度は、ティエリアたちの今後の予定が送られて来た。ニールの治療が終わったら、旅に出るという予定だ。ニールが地上に戻るのと同時に降りるというのだから、しばらくは、『吉祥富貴』に滞在するつもりなのだろう。
「ロックオン、俺は三月には降りたいんだが? 」
「はいよ、それでいいぜ。その代わり、三月三日の時間だけ、俺が独占してもいいか? 贈り物は、それでいい。」
「物質も望め。」
「うーん、ストールとか欲しいかな。いや、それよりデジカメの新しいのがいいかな。低軌道ステーションに店あるよな? 一緒に選んでよ、ダーリン? 」
「わかった。付き合う。」
「あんたは、どうする? 」
「おまえが留守番をしてくれればいい。ニールと桜を見る予定だ。」
「ブツは? 」
「いらない。どうせ、ニールが用意する。」
「いやいやいやいや、ダーリン? 俺はナシで、兄さんのだけ受け取るって差別だろ? 」
「俺は欲しいと思うものがないんだ。ニールは適当に選んでくれる。」
「じゃあ、俺も、そうする。それでいいよな? 」
「好きにしろ。」
「ちなみに兄さんって、毎年どんなものくれるの? 」
「服一式だ。」
「じゃあ、兄さんとこに降りる時は、俺のコーディネートで行け。俺のほうがセンスはいいからな。」
「わかった。」
そんな話をしつつ、二人して畳に転がっていた。夕刻、悟空が顔を出したら、その二人も昼寝していたので、そのまま起きるまで放置されていた。
翌日、刹那が目を覚ますと、隣りの布団におかんの姿はなかった。起きたのか、と、刹那も飛び起きて回廊を降りると、いい匂いが漂ってくる。ついでに寺の坊主の怒鳴り声だ。
「朝から、何をやらかした? 」
「あいつら、どうせ強行軍だろうから、栄養をつけてやろうかな? というとこです。」
「俺のは? 」
「ありますよ。でも、あんたは昼でいいでしょ? 昨日、ラーメンは食べましたか? 」
「面倒だから、そのまんまメシと食った。今日は、中華ソバにしろ。」
「はいはい、わかりました。・・・ああ、おはよう、刹那。」
居間から顔を覗かせている黒猫に、親猫が気付いて挨拶してくる。坊主は台所の食卓の椅子に座り、会話していた様子だ。その食卓には、いろんな料理が並んでいる。
「ニール? 朝から、これを全部食べるつもりか? 」
「違う違う。これ、弁当のおかず。悟空のを作るから、ついでに、おまえさんたちのも用意しただけだ。ツマミ食いしてもいいぞ? 」
「生きてるか? クラウス。」
「なんとかな。・・・・そろそろお暇するよ。」
青い顔をしているが、クラウスはライルに挨拶する。これといって荷物はないから、それだけだ。
「・・・・クラウス、空港までは送る。」
どんよりとした空気を纏いつかせているが、それでもハイネも立ち上がる。どんだけ飲んでたんだよ? と、ライルが呆れるほどだが、どっちも気丈なもので動き出せば、スムーズだ。詳しいことは、二人とも吐かないのだが、どうもヒルダと三人で飲んでいたらしい。
「しばらくは逢えそうにもないが、元気で。」
「あんたこそ、暗殺とかされんなよ? 」
「刹那君、またいずれ。」
「ああ、いずれ。」
最後に、寺の坊主に滞在の礼を告げて、ニールにもよろしく、と、廊下へ出る。それを見送ると、刹那は介護セットを用意して脇部屋に移動する。ライルもついていく。
刹那は、毎度のことだから、すっかり介護も慣れたものだ。ロックオンのほうは、この状態は見たことがないから、かなり心配しているが、こればかりは、どうにもならないと刹那に説明されると黙って手伝う。
「こっちに居着いてから、ずっと、こんなことになってたのか? 」
「ここまでになるのは梅雨か台風ぐらいだ。その場合は医療ポッドに叩き込まれていた。今回は、漢方薬で回復させているから、放置されている。」
「よく生きてたな? この人。」
「『吉祥富貴』で静養していなければ、ここまでは保たなかっただろう。・・・キラたちが居てくれてよかった。」
いろいろと離れ業も駆使して、どうにか治療できる時間を稼いでくれた。それに、刹那たちマイスターの救助や援助もしてくれてたことにも感謝している。人間は、一人では、どうにもできないことがある。分かり合って繋がることができれば、一人で、どうにかできないことも、何人かで、どうにかできることになるのだ。
「マリナ・イスマイールのように戦わずに分かり合える方法というのは、有用なことだ。だが、俺には、その方法はできない。やはり戦って、分かり合う方法を模索する。」
イノベーター同士なら分かり合えるだろう。だが、まだ人類にイノベーターは少ない。これからも戦争は減りはしてもなくならない。だから、刹那たちは絶対的な抑止力として天上から人類を監視する。そのための武力介入も辞さない。
「まあ、ナチュラルな俺としては、ダーリンの手伝いは全力でするさ。俺も対話して分かり合うなんてのは無理だ。衝突して叩き伏せるのもやらないと、どうにもならないな。」
人類は進化する。そのうち、イノベーターが大半を占めるようになるのかもしれない。そうならなければ、対話で分かり合うなんていうのは無理だし、ロックオンのようにの脳量子波が使えないナチュラルな人間なんて、言葉だけで判りあうのは難しい。とりあえずは、こつこつと紛争の種を取り除くしかないのだ。
「背中は預けるぞ、ロックオン。」
「もちろんだ。背中どころか身体も預けてよ? ダーリン。」
ようやく刹那も、現ロックオンに背中を預けると言葉にした。これから、先もロックオンは一人で、刹那の背中を守るのが役目だ。
「身体は、いつでも応じているが? 」
「まあ、そうだけどさ。・・・十日後か・・・・これで、兄さんも治るんだな。」
十日後、ニールは宇宙に上がってくる。生身のままでは無理だから、一時的に冷凍保存処理されて、宇宙で蘇生させてからトランザムバーストの光を浴びせる予定だ。さっき外出した時に、キラたちとの打ち合わせをロックオンも聞いた。たぶん、右目は完治しないだろうとは言われているが、細胞異常は完治できる。それさえ完治できれば、地上でも宇宙でも自由に行き来できるようになる。そう思うと、ほっとする。そのうち、時間ができたら、双子で揃って故郷に墓参りに行きたいな、と、ロックオンも考えている。
「治す。それは約束する。」
「これで、天涯孤独からも完全に開放されるぜ。」
「俺は、おまえが女房になった時点で天涯孤独ではなくなった。それ以前から、おかんが存在していたしな。」
クスリを飲ませてしまうと、ロックオンにニールの身体を横にさせる。これで夜までは、そのままだ。携帯端末でメールチェックをすると、ティエリアから経過報告がない、という叱責のメールが届いていた。
「経過報告というほどのことはないだろう。」
とは、思うのだが、ティエリアは五月蝿いから、簡単な報告は送りつける。すると、今度は、ティエリアたちの今後の予定が送られて来た。ニールの治療が終わったら、旅に出るという予定だ。ニールが地上に戻るのと同時に降りるというのだから、しばらくは、『吉祥富貴』に滞在するつもりなのだろう。
「ロックオン、俺は三月には降りたいんだが? 」
「はいよ、それでいいぜ。その代わり、三月三日の時間だけ、俺が独占してもいいか? 贈り物は、それでいい。」
「物質も望め。」
「うーん、ストールとか欲しいかな。いや、それよりデジカメの新しいのがいいかな。低軌道ステーションに店あるよな? 一緒に選んでよ、ダーリン? 」
「わかった。付き合う。」
「あんたは、どうする? 」
「おまえが留守番をしてくれればいい。ニールと桜を見る予定だ。」
「ブツは? 」
「いらない。どうせ、ニールが用意する。」
「いやいやいやいや、ダーリン? 俺はナシで、兄さんのだけ受け取るって差別だろ? 」
「俺は欲しいと思うものがないんだ。ニールは適当に選んでくれる。」
「じゃあ、俺も、そうする。それでいいよな? 」
「好きにしろ。」
「ちなみに兄さんって、毎年どんなものくれるの? 」
「服一式だ。」
「じゃあ、兄さんとこに降りる時は、俺のコーディネートで行け。俺のほうがセンスはいいからな。」
「わかった。」
そんな話をしつつ、二人して畳に転がっていた。夕刻、悟空が顔を出したら、その二人も昼寝していたので、そのまま起きるまで放置されていた。
翌日、刹那が目を覚ますと、隣りの布団におかんの姿はなかった。起きたのか、と、刹那も飛び起きて回廊を降りると、いい匂いが漂ってくる。ついでに寺の坊主の怒鳴り声だ。
「朝から、何をやらかした? 」
「あいつら、どうせ強行軍だろうから、栄養をつけてやろうかな? というとこです。」
「俺のは? 」
「ありますよ。でも、あんたは昼でいいでしょ? 昨日、ラーメンは食べましたか? 」
「面倒だから、そのまんまメシと食った。今日は、中華ソバにしろ。」
「はいはい、わかりました。・・・ああ、おはよう、刹那。」
居間から顔を覗かせている黒猫に、親猫が気付いて挨拶してくる。坊主は台所の食卓の椅子に座り、会話していた様子だ。その食卓には、いろんな料理が並んでいる。
「ニール? 朝から、これを全部食べるつもりか? 」
「違う違う。これ、弁当のおかず。悟空のを作るから、ついでに、おまえさんたちのも用意しただけだ。ツマミ食いしてもいいぞ? 」
作品名:こらぼでほすと 十一月6 作家名:篠義