【サンプル】奇跡の起きないびっくり箱
「さあさあ皆さんいらっしゃい! 早苗お姉さんのビックリドッキリマジックショー、はっじまっるよー!」
などと人里で頑張って声を張り上げても、集まってくるのは子供が数人程度。大人は怪訝そうな顔をして去って行くばかり。
ここ最近、信者の増加が頭打ちになってきたので営業にも工夫が必要かと思って、一晩寝ずに考えた案なのに……これじゃやるだけ無駄かなあ。
……いやいや、何を弱気になっているの早苗! 千里の道も一歩から。少しだけど観客だっているんだし、やってみなきゃわからないじゃない! 口コミで広がって大人気になる可能性だってゼロじゃないわ!
よーし、ここはとっておきの奇跡をお披露目しようじゃありませんか!
「それじゃあいきますよー、よく見ててくださいねー……」
私は両手を前に出し、右手の甲を観客に向け、その上から左手をかぶせた。
観客はいったい何が起こるのかと目を見開いている。
ふふふ、さあ、驚きなさい! これが奇跡です!
「はいっ! 親指が外れちゃいましたー!」
観客は無言で立ち去った。
「バ、バカな……ッ!」
あまりの事態に、私はその場にくずおれた。
外の世界じゃこれで大ウケだったのに……これが幻想郷。やはりここでは常識が通じない。
神奈子様、諏訪子様、世間の風は冷たいです。奇跡を起こせる私でもこればっかりはどうにもなりません。
――パチパチパチパチ。
しかし、そんな私の頭上から拍手の音が降ってきました。
嗚呼、やっぱりわかる人には私の素晴らしさがわかるのですね! 幻想郷も捨てたもんじゃない!
「すごいよ師匠! 今のどうやったの!?」
頭を上げると、まず目に入ってきたのは茄子のような傘。そしてその下でキラキラと瞳を輝かせる女の子が一人。
「なんだ、小傘さんですか」
どうやら拍手をしていたのは小傘さんのようです。
「なんだなんて、ひどいよ師匠!」
「そう言われてもねえ……」
人里で信者を増やすべく頑張っていたのに、捕まえたのがしょぼい妖怪一人じゃ、そりゃガッカリもしますよ。
「ところで、なんでさっきから私のこと師匠って呼んでるの?」
私の言葉を受けて、小傘さんは唐突にその場に手と膝を付いた。
「師匠、私に手品を教えてください!」
地面におでこをぶつけるほどの勢いで頭を下げる小傘さん。それは見事な土下座だった。
「無理です」
だがしかし、私はきっぱりと断る。
「そんなこと言わず、教えてよー!」
「無理なものは無理なんですってば」
「どうしてよー?」
「だってこれ、私の能力があるからこそ出来る技だし」
「ただの手品じゃないの?」
「ええ、奇跡を起こして本当に親指を分離してるんですよ」
私は左手を開いて小傘さんに見せる。
「うわあ! 本当に親指が外れてる!」
「しかも動かせますよ」
左手の上にある右親指をぐにぐにと動かす。ぐにぐに。
「気持ちわるっ!」
いや、気持ち悪いて。これから手品をご教授願おうって相手に言うセリフですか。
でも実際、親指が手の中で動いている様子はまるで芋虫がうごめいているみたいで確かに気持ち悪いかも。
やってる方は楽しいんですけどねえ。ぐにぐに。
ま、それはともかく。
「そういうわけで、おとなしく諦めてください」
親指を元通りにくっつけつつ、再度の宣告。
手品にはタネも仕掛けもあるものだけど、これはそういうレベルのものじゃない。私にしか出来ないことなのです。
「うう……」
小傘さんはガックリと肩を落としてしまいました。
ちょっと可哀想だけど、仕方ないよね。
「それじゃ、私はそろそろ帰りますね。さようなら」
落ち込んでいる小傘さんを独りここに置いて先に帰るのは我ながら薄情だと思わなくもないですが、こちらから断った手前、下手に慰めるのも良くないでしょうし、何より観客が他にいない。これ以上ここにいても時間の無駄です。帰って晩ご飯の支度しなくちゃ。
さて、今日は何を作ろうかなあ。
などと人里で頑張って声を張り上げても、集まってくるのは子供が数人程度。大人は怪訝そうな顔をして去って行くばかり。
ここ最近、信者の増加が頭打ちになってきたので営業にも工夫が必要かと思って、一晩寝ずに考えた案なのに……これじゃやるだけ無駄かなあ。
……いやいや、何を弱気になっているの早苗! 千里の道も一歩から。少しだけど観客だっているんだし、やってみなきゃわからないじゃない! 口コミで広がって大人気になる可能性だってゼロじゃないわ!
よーし、ここはとっておきの奇跡をお披露目しようじゃありませんか!
「それじゃあいきますよー、よく見ててくださいねー……」
私は両手を前に出し、右手の甲を観客に向け、その上から左手をかぶせた。
観客はいったい何が起こるのかと目を見開いている。
ふふふ、さあ、驚きなさい! これが奇跡です!
「はいっ! 親指が外れちゃいましたー!」
観客は無言で立ち去った。
「バ、バカな……ッ!」
あまりの事態に、私はその場にくずおれた。
外の世界じゃこれで大ウケだったのに……これが幻想郷。やはりここでは常識が通じない。
神奈子様、諏訪子様、世間の風は冷たいです。奇跡を起こせる私でもこればっかりはどうにもなりません。
――パチパチパチパチ。
しかし、そんな私の頭上から拍手の音が降ってきました。
嗚呼、やっぱりわかる人には私の素晴らしさがわかるのですね! 幻想郷も捨てたもんじゃない!
「すごいよ師匠! 今のどうやったの!?」
頭を上げると、まず目に入ってきたのは茄子のような傘。そしてその下でキラキラと瞳を輝かせる女の子が一人。
「なんだ、小傘さんですか」
どうやら拍手をしていたのは小傘さんのようです。
「なんだなんて、ひどいよ師匠!」
「そう言われてもねえ……」
人里で信者を増やすべく頑張っていたのに、捕まえたのがしょぼい妖怪一人じゃ、そりゃガッカリもしますよ。
「ところで、なんでさっきから私のこと師匠って呼んでるの?」
私の言葉を受けて、小傘さんは唐突にその場に手と膝を付いた。
「師匠、私に手品を教えてください!」
地面におでこをぶつけるほどの勢いで頭を下げる小傘さん。それは見事な土下座だった。
「無理です」
だがしかし、私はきっぱりと断る。
「そんなこと言わず、教えてよー!」
「無理なものは無理なんですってば」
「どうしてよー?」
「だってこれ、私の能力があるからこそ出来る技だし」
「ただの手品じゃないの?」
「ええ、奇跡を起こして本当に親指を分離してるんですよ」
私は左手を開いて小傘さんに見せる。
「うわあ! 本当に親指が外れてる!」
「しかも動かせますよ」
左手の上にある右親指をぐにぐにと動かす。ぐにぐに。
「気持ちわるっ!」
いや、気持ち悪いて。これから手品をご教授願おうって相手に言うセリフですか。
でも実際、親指が手の中で動いている様子はまるで芋虫がうごめいているみたいで確かに気持ち悪いかも。
やってる方は楽しいんですけどねえ。ぐにぐに。
ま、それはともかく。
「そういうわけで、おとなしく諦めてください」
親指を元通りにくっつけつつ、再度の宣告。
手品にはタネも仕掛けもあるものだけど、これはそういうレベルのものじゃない。私にしか出来ないことなのです。
「うう……」
小傘さんはガックリと肩を落としてしまいました。
ちょっと可哀想だけど、仕方ないよね。
「それじゃ、私はそろそろ帰りますね。さようなら」
落ち込んでいる小傘さんを独りここに置いて先に帰るのは我ながら薄情だと思わなくもないですが、こちらから断った手前、下手に慰めるのも良くないでしょうし、何より観客が他にいない。これ以上ここにいても時間の無駄です。帰って晩ご飯の支度しなくちゃ。
さて、今日は何を作ろうかなあ。
作品名:【サンプル】奇跡の起きないびっくり箱 作家名:ヘコヘコ