はいいろのゆび
Episode1
本日は晴天なり。
愛犬のポチ君との午前中の散歩がいつにも増して気持ちいい天候だ。
今日では、どの家も広さに違いはあれど一人一人に庭がある。
どんなに小さい子でも、与えられた庭を自分なりにアレンジし、それぞれ思い思いの庭を
つくり出すのだ。
そのため道は、様々な色彩を放ち菊の目を楽しませる。
「そろそろお昼の時間ですから帰りましょうか。」
「キュワン!」
そう言って菊はポチ君を連れて、来た道を戻り家に向かった。
彼は1人暮らしである。過保護な兄から今年の春に半ば家出のように独立し、
ガーデニング用品を売っている。あまり賑やかでない通りにこじんまりと
たたずんでいるため、客は少ないが、手先が器用な菊のつくる道具はリピーターが多く
日常生活に困らない程度には繁盛している。
玄関に入り、ポチ君の足を拭いてから中に入り昼食の準備を始める。
「キュワン、キュワン!」
突然、ポチ君が吠えるのを聞き、お客さんでしょうか?と菊は店頭へ向かう。
家と店を仕切っている引き戸を開けると、そこには窓から差し込んでくる太陽の光
を反射する王冠のような髪をした青年が熱心に道具を見ていた。
「何か、お探しのものはありますか?」
菊が恐る恐る声をかけると、その男性はそばに置いてあったジョウロに脚をぶつけ、
「い、いや、その、新しい鋏が欲しくて…だな…。」
慌てたように立ち上がる。
青年が菊の方へ顔を向けると、そのエメラルドの瞳がよく見えた。
彼は黒いパンツとジャケットに、皮手袋をしており少し太い眉をよせて
居心地悪そうに頭をかいた。
「左様でございますか。どのような鋏をお探しで?」
「ば、薔薇を剪定するためのものを…」
「それでしたら、こちらはいかがで…」
菊が、いかがでしょうかと言い切る前にガシャーンと何かが倒された音がした。
驚いて音の方に目を向けると、そこには深緑の服をまとった男たちが3〜4人
店の入り口に立っていた。
「ちっ」
エメラルドの瞳をした男が舌打ちをすると、菊の腕を掴んで店内へと走る。
「ちょ、何するんですか!困ります!」
「庭はどこだ。」
「はい?」
「お前ん家の庭はどこにあるんだと聞いてるんだ!」
「そこの引き戸を開けて、廊下をまっすぐ行った所にありますが…」
「よし、そこへ案内しろ!」
菊は訳も分からないまま、青年に手を引かれ廊下を疾走する。