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はいいろのゆび

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「なんだ…ここは」
「え?」
「植物が全くない…」

縁側に広がるのは小石ばかり。所々に足場になるような平たい石が
置いてあるが、植物が一つも見当たらない。
ドタドタと自分たちの後を追ってくる足音が近づいてくる。

「クソッ、時間がねえ。おい、お前ん家の庭借りるぞ。」

青年は菊の返事も聞かずに、じゃりじゃりと庭に下りる。
そして、庭の真ん中にしゃがみ込み小石を除けると、皮手袋を取り
そこに片手をそっとのせた。
すると、そこからわずかに光が灯り周りから次々と植物のツタや茎が伸び始めた。
瞬く間にそれらは地面を覆い尽くし、花を咲かせる。
それと同時に先ほどの男達が縁側までやってくる。

「大人しく我らについて来てもらおうか。アーサー・カークランド!」
「フンッ、てめえら誰に口をきいていやがる。お断りだ!」

そうして、彼が近くの薔薇の方に手をかざし何かささやくと、
地面が輝きまぶしさに菊は目を瞑った。再び目を開けるとそこには
なんと金色にきらめくたてがみをもった馬がいたのだ。
とても美しいが、この馬には普通の馬と違い頭に1本の角がある。

「行け、ユニコーン!」

彼が声を上げたと同時に、その馬は男達に向かって走り出した。
あっという間に蹴散らした後、彼がまた何か唱えると男達は
馬と共に姿を消した。

「おい、お前」

その様子を呆然と見ていた菊は、突然青年に話しかけられ肩を震わせた。

「今から俺と来い。」
「はい?」

未だに思考が追い付かない菊は青年が何を言っているのか理解できず
反応を返せない。痺れを切らせた青年が菊の腕を引き店の入り口まで行き、
何処かへ電話する。数分後、すぐに車が来て乗るように促される。
乗ってからようやく我に返った菊は後部座席に一緒に座った青年に問いかける。

「あの、私はどこに連れて行かれるのでしょうか?」
「行けば分かる。」

それ以上は聞くなという彼の無言の圧力を感じ取り、菊はそれ以上聞くのを
諦める。窓から外の景色は見えないようになっており、やることが無くなった
菊は、そういえばお昼をまだ食べていなかったと、訪れた空腹に気づく。
一度気になりだすと身体はどんどん空腹を訴えるもので、帰ったら
何を食べようか、それとも帰る途中で何か食べてから帰ろうか、
と思考を巡らす。そういえば、電車に乗って3駅行ったところに新しく出来た
美味しいと評判のお店がありましたねぇ。そこまで、思考が及んだとき
車が停車するのを感じた。

「降りろ。」

青年の後に続いて降りると、そこにはギリシャ神殿を思わせるような壮大な
建物がそびえたっている。

「早くしろよ。」

せかせれて、菊は急いで青年に着いていく。
建物内は、どこも芸術的で本当にここは自分の家から車で来れる距離に
あるのかと疑いたくなるほどだった。

「入れ。」

きょろきょろと周りを見回しながら歩いてたどり着いたのは、一つの
木でできたドアの前だった。青年が部屋の中に入るのに、3,4歩遅れて
菊も部屋に入る。

「俺の名前はアーサー・カークランドだ。
今日からお前にはここで働いてもらう。」



作品名:はいいろのゆび 作家名:Sajyun