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明かされない秘密を解くということ

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 最近、ふとした瞬間に視線を感じる。
 例えば小春とイチャイチャしている時だとか、テニスをしている時だとか、水飲み場で喉を潤している瞬間とか…例を挙げればキリがない。そして全てにおいてその視線の先にいる人物は同じなのである。
 同じテニス部に所属する後輩の財前光、だ。
 彼は俺にとって少し苦手な人物に値する。苦手というと語弊があるかもしれない。金ちゃんや他の可愛い後輩と比べると、進んで喋ろうと思わない相手と言った方がいいだろうか。
だって口を開けば自分に対して「気持ち悪い」だの「鬱陶しい」だのという悪態ばかり呟く人物を、どうして好きになれようか。俺は別にそういう類の性癖の持ち主ではない。それに相方である小春が彼の事を好いているのも気に入らない。むしろ彼の何処から「可愛い」を見いだせるのか、小春を尊敬(普段の意味とは少し違うが)してしまう。
 つまり俺は彼の事を、「嫌い」でも「苦手」でもなく、「気に入らない」のだ。
 そんな俺の態度と比例するかのように、彼だって俺の事を嫌っていると思っていた。キモいウザい消えてくださいという悪口三大語をフル活用して俺に挑んでくる彼である。視線に入れたくないと思っていたとしても過言ではない。
 しかしあの視線はなんだ。熱のこもった視線。自分の一つ一つの動き全て見逃さないと言わんばかりの真剣な眼差し。あれじゃあまるで…

「恋してます、とか言うとるようなもんやろ…」
「?…ユウくん何か言った?」
「ううん、何でもないで。小春ぅー!」

 そう言って俺の顔を怪訝そうな表情で見ていた小春を抱きしめた。すると一間置くことなく、自分に浴びせられていた視線が逸らされるのを感じる。ふとこっそりその方向に視線を向けてみれば、財前が悲しそうな顔でテニスラケットをぼぅっと見つめていた。
ああ、やはり、俺の観察眼は間違っていなかったみたいだ。つまりこれは自意識過剰ではない。しかしながら好きな子程いじめたくなるなど、小学生じゃないんだからとは思う。気持ちは分からないでもないが、不器用すぎるだろう。
 しかしそうなると問題はこれからである。
 別にこちらから何もアクションを起こさなければ、彼の淡い恋心は芽吹く事無く、俺の卒業を持って消えていくに違いない。財前の方から来るという選択肢は、今の様子を見る限りまず無いと思った方がいいだろう。普通の恋愛ならばいざ知らず、同性愛というイレギュラーな悩みを、彼が相方である謙也やクラスメイトに相談しているとは思えなかった。心の内にそっと秘めて、いつか消えていくことを望んでいるに違いない。俺に気付かれる程に、溢れ返っている事さえ気付かないふりをして…、だ。
 でも、そんなの。

「勿体ないなあ…」
「…ユウ君、何か悪い顔になっとるわよ」
「そか?まあ、小春はいつでも可愛え顔やで」
「何そのとって付けたような常套句。まあユウ君が何考えとるんかは知らんけど、程々にせな蔵りんが怒るわよ」
「分かっとるって。まあ悪いようにはせんから」

 ハァと深い溜息を吐く小春の傍を後にして、俺は財前の元に静かに小走りで歩みよっていく。俺から視線を逸らしたままの彼は未だ気付かない。
 さあどうしてやろうか…そう考えるだけで何だかワクワクする。彼の淡い感情に気付いてしまったからには、彼の色んな表情を見てみたい。そんな自分でも不思議だと思える感情に俺は捉われていた。

「ひーかーる、くん」
「…!一氏…先輩…」

 彼は大きく体を震わせ、俺の方に振り返る。相当驚いたのか、手にあったラケットが地面にカランカランと乾いた音を立てて落下してしまった。

「どないしたん?顔、真っ赤やで?」

 熱でもあるんとちゃう?という言葉と共に彼の額に手を伸ばそうとする。
だが、それは触れる手前で振り払われてしまった。

「イタッ…」
「あ、すんま…せん」
「ま、別にええで」

 俺から少し身を引いた財前の顔をマジマジと見つめる。耳まで紅に染まった顔色、少し泣いていたのかキラキラと太陽の光を反射するほどに潤った瞳。そして視線を足元に向ければ、少し震えている指先が視界に飛び込んできた。

「…何の、用なんですか?」

 それは俺に対して悪態を吐く時のようなハッキリとした口調ではなく、何処となく不安げでユラユラと揺らめくような口調だ。傍にいなければ聞き取れない程の音量で、やっと言葉を吐き出した財前に、俺の心臓がドクドクと早鐘を打ち始める。
 嘘だろう?嘘と言ってくれ。俺はちょっと、こいつをからかってやろうと思っていただけなのに。

「ひか、る」
「というか何で俺の事…名前で呼ぶんすか…。昨日まで普通に名字やったろ」
「…別にええやろ」
「よくな、いっすわ。誰の許可を得て…」
「光」

 相変わらず生意気なままの彼の言葉を遮るようにして、名前を呼んだ。その瞬間彼は顔を上げて、初めて俺と視線をまっすぐ噛み合わせる。そして再び何か抗議するように口を開いた彼の口を手で塞いで、「光」と名前を紡いだ。…一度だけではない。彼が何か呟こうと俺の手を剥がそうとする度に、何度も「光」と彼の名前を呼び続ける。
 初めはどこか怒ったような表情だった彼も、次第に眉が下がっていく。まるで叱られ続けた猫のように驚き、そして尻尾が下がるようにして俺の塞いだ手を掴む、彼の力もだんだん弱気なものへと変わっていく。
しばらく経って数えるのも億劫になって来た頃、彼の瞳からポロリと何かの雫が零れ落ちた。

「…も…やだ…」
「光?」
「…もうやめて下さい…」

 蚊の鳴くような声で吐き出された彼の言葉に、吸い寄せられるかのように彼の顔に近付く。そんな俺の接近に身を引きそうになった彼の肩を押さえて、一気に息がかかる距離にまで詰め寄り、彼の頬に流れる雫をペロリと舐め上げた。
 財前の肩が最大級にブルリと震え、唇から「ヒッ」という声が漏れる。

「なあ光、どうして欲しい?」
「ど、うして…って…」
「このまま離れて欲しいなら直ぐに離れたる。で、お前にも一生近付かん。どうせ一年と少しすれば卒業やしな」
「…!」
「でもお前が望むんなら、このままキスして、ギュッてしたってもええよ。…さ、どないするん?」

 財前の長い睫毛がパチパチと重なり、跳ねた雫が俺の顔に当たる。彼はこれ以上赤くなるとは思えなかった顔色をさらに赤く染め上げ、合わさった視線を逸らすように、彼は足元へと目線をずらした。

「先輩、ずるい…」
「そか?お前に選択肢与えとるだけ、俺ってええ奴やん」
「そんなの選択肢やないです…」
「まあええやろ。で、どないするん?」

 財前の瞳がグルグルと揺れる。しかしそれは選択肢を悩んでいるというよりも、すでに心の中にある答えをどう打ち明けるか考えあぐねてると言った方がいいのだろう。
 そしてフワリと春特有の風が俺達の足元を掠めて言った瞬間、その風に隠すようにして彼が口を開いた。

「このままで…はあかんの?」
「このまま?」
「このまま、近くにおってください…っちゅー意味っすわ」

 財前が震える指先で、俺のジャージの裾を掴んだのを感じる。
 何なのだ、何なのだ、この後輩は!