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いつき りゅう
いつき りゅう
novelistID. 4366
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水ぬるむ

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「ん…、んく……っ、ふぁ…ユーリ、いっぱいだしたのね…」

腰を降ろしたユーリの足の間に埋めていた顔を持ち上げたレイヴンの口端には、白いモノが僅かにこびりついているだけ。
ほぼ裸に近い状態で自分の足元に這い突くばるそのレイヴンの姿は、見下ろすユーリからは酷く扇情的に思えた。

「ん…ちゃんと全部飲んだのな」
「えへへー…えらいでしょ?…褒めて?」
「エラい、偉い。よく出来ました」
「うふふ…もっと撫でてぇ…」

口舌での奉仕の出来を誇り、ユーリからの賛辞をねだる。
している事は不純極まりないにも関わらず、求めている事があまりにも子供染みていたものだから、思わず苦笑を零したユーリはまるで幼子を褒めるように頭を撫でていた。
大人しく撫でられつつも、もっととねだるレイヴンに応え頬や耳の後ろを撫でさすってやると、ユーリの手の中で陶酔したような表情を浮かべる。
今にも猫のように喉を鳴らし出しそうだ。

「よしよし」
「うふ…、ん…っ…ねえユーリ、気持ち良かった?」
「ああ」
「よかった…んふふ、おっさんもね、気持ち良かったのよ…」
「しゃぶってただけで弄られてもないのにか? とんだ好きモノだな。
…どこの誰にそんなエロく仕込まれたんだ、このおっさんは」

撫でていた手がいつの間にか下に降りていき、レイヴンの胸元で赤く色付いていた突起をその爪の先が不意に掻いた。
途端にビクッと肩が跳ね、吐息をまとった短い声が口から漏れ出る。

「ん…っ、だぁって…、おっさんそれなりに人生経験重ねてるもの…ゆーり、やらしいおっさんきらい…?」

舌っ足らずに言葉を紡ぎ、とろんと蕩けた瞳を上目遣いで向けて問う。
口の端に残った精液をこれみよがしに舌で舐め取る事も忘れない。
その口から覗いた舌の赤さが匂い立つ様な淫らさに拍車をかけて、眼前の男の情欲を更に煽るという事を知っての事かどうか。

「いーや、かなり好みだ」
「よかったぁ…」

ユーリの返答が否定ではなかった事にほっとしたのか、熱に潤んだ瞳と同じくらいに表情も緩ませる。その素直な反応が、いっそいじましいくらいだった。

「こんな可愛いおっさんを今までどっかの誰かが独占してたなんてな…妬けるな、マジで」
「んっ…ゆーりぃ…」

ユーリの手の動きに合わせてレイヴンがその身体をゆらりとくねらせるので、辛うじて羽織っていた上着までもが肩から滑り落ちてしまう。
隠す物もなくなった裸体を朱に染める熱と漏れ出る吐息は、更に一層熱さを増している様に思えた。
年甲斐もなく快楽に耽溺するためらいのなさは、嫌が応にもこの男をそうなるように仕込んだ人物の見知らぬ影をちらつかせて、揺らぐ炎がユーリの胸の内を僅かに焦がす。

「もっと早く生まれてりゃ良かったぜ」
「んゃ…ん、…だぁ〜め。
ユーリはおっさんより若くなきゃ、やぁ…」

感じている事を隠しもせずに、はしたない啼き声を上げ続けるレイヴンを責める手は止めずにユーリは小さく呟いた。
僅かに苦々しさすら混じっていたその呟きを、与えられる快感を感受する事に没頭していたはずのレイヴンが拾い上げて返した事に、顔には出さなかったがユーリは密かに驚いていた。

「なんだ?若いのが好みだってのか?」

弄られて敏感になっていた突起を軽く抓り、言葉尻を咎めた様に見せて返すと、レイヴンはそのユーリの責めに堪えられずくぐもった啼き声を上げ、突き抜けた快感に脱力した身体をユーリの腕の中に投げ出した。自然と受け止めたユーリの身体とは向かい合わせに抱き合うような形になる。大雑把に一つにまとめた髪からも幾束かほつれて落ちた髪が紅潮した顔に掛かっていて、そんな乱れ髪と胸を大きく上下させる荒い呼吸がまた艶かしい。
しなだれかかって来た身体の背中へと手を回し、自分よりは幾分か小柄な身体をそっと抱き締めたユーリをレイヴンは下から覗き見る。

「んぅ…、それもあるけど…ユーリがおっさんとおんなじくらいの歳だったら、あの戦争行ってたっしょ…?」
「人魔戦争か?」
「そぉ…おっさんねー、あの戦争で色んなもん無くしたの…。
仲間も希望も尊敬も、みーんな無くなっちゃって、おっさんカラッポの抜け殻になったのね」

感情を乱す気配もなく、何でもない事のように話しているが、その内容はレイヴンにとっては未だ深く残る傷のはずだ。

「おっさん…」

かける言葉に迷ったユーリが一瞬言い淀んだのも気付かない振りをして、レイヴンは後を続けた。

「カラッポのおっさんがぁ、ながーい時間経って、ユーリに会ってよーやくカラッポじゃ無くなったのに、ユーリがおっさんと同じくらいに生まれてたら絶対あの戦争に徴収されてたでしょ?
そしたら、おっさんどんだけ待ってもカラッポのまんまじゃない?
今更やーよ、そんなの…」

顔を胸に埋めているせいでレイヴンの表情が分からない。
それでも後に連れて掠れて行く語尾がユーリの胸を締め付けた。

「無くす事前提なのかよ」
「あの戦争で奪われなかったモンなんかないのよ」

フォローのつもりで口にした言葉も、すかさず返された強く断定する言葉にあえなく意味を無くして掻き消える。
どこか悟ったような諦めを含んだレイヴンの言葉に、積み重ねた時の違いを突き付けられた様に感じた。


不意に、レイヴンの伏せていた顔が上げられる。
ユーリを見上げるレイヴンが向けた視線には溢れんばかりの情欲が込められ、触れただけで浮かされる様な熱を放っている。
思わず、目が引き寄せられた。

「ユーリは、あの戦争からは離れたとこにいてそのまんま今みたいないい男に育って、バカみたいにいつまでも戦争引きずって傷心のおっさんに出会ってね、いっぺんカラッポになってリセットされたおっさんの全部を、優し〜くユーリで一杯にしてくれればいーの」

媚びを売るような目で見つめながら、抱き締めてくれているユーリの身体をレイヴンは抱き返す。

「ユーリのお陰でおっさんようやく生きてる実感持ててるんだからさ。
…ユーリ取り上げられたら、おっさん生きていけないわ」

しなだれかかる身体を更に絡めて頬にキスをして、ユーリの耳たぶを甘噛みしながら囁いたレイヴンの言葉の甘さに、ユーリの背中には痺れるほどの快感が一気に駆け抜けた。

「…すっげー熱烈な告白だな」
「…重い?ユーリ重いの、や?」

事も無げに軽い口調で口にしてはいたが、ユーリの反応を窺うように覗き込んできたその目には不安の色が僅かに覗いていた。

「…はっ。おっさん、俺を誰だと思ってんだよ。
一時は世界中の人間の生命までも背負い込んだんだぜ。
おっさん一人背負うくらいで潰れる程、この背中はヤワじゃねーよ」
「…んふ。ユーリ、かぁっこいいー。
おっさんね、青年のそういうとこ、好き」

茶化す口調とは裏腹に、ユーリの胸に頭を預けたレイヴンは、感きわまったかのように背中に回した手に力を込めてユーリを抱き直した。
少しキツいくらいの拘束が、この男の自分に対する執着の強さを肌で感じられ、いっそ心地良いとさえ思えた。
作品名:水ぬるむ 作家名:いつき りゅう