吹花
「これから先の遊ぶ予定とかさ、全部俺が先約って事で予約しといちゃ駄目か?」
「ハチ……?」
「なぁ、兵助?」
大口開けて笑い飛ばす、いつもみたいな豪快な笑顔じゃなくて。
今俺に向けられているのは、笑ってるはずなのに笑えてない、そんな竹谷らしからぬ不器用な笑顔。
掴んだ手にも徐々に力が込められていく。
段々とこの沈黙に焦れ、俺の答えを促しているように。
「……考え、とく」
俺には、その一言を搾り出すのが精一杯だった。
答えと同時に手が放され、弾ける様な笑顔に変わる。
何故だかたまらなくいたたまれなくなって、解放された俺は素早く踵を返していた。
「約束だぞ!兵助ーーっ」
ぶんぶんと腕を大きく振って大声で俺を見送る様は、すっかりいつも通りの竹谷。
屋根から飛び降り地面に降り立った俺が振り返ると、角度的にその場からは屋根の上の竹谷の姿は見えなくなって。
何故だか俺は、深い息を一つだけ吐き出していた。
なんで…、なんでこんなに、
掴まれた腕が痛いんだろう。
ザワザワと音を立てて葉を揺らす風が、
あの桜の白波の様に
俺の胸の中までも波立たせて吹き抜けた。