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あたたかい場所

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「少し休みませんか?こうも歩き通しでは、流石に疲れますからねェ……」

さも歩き疲れたと言わんばかりの声だ。
茂る草を掻き分けながらも溜息を付いた鬼鮫に、イタチは足下に落としていた視線をちろりと投げた。獣道のような所を延々と歩いているとはいえ、屈強な男には、似合わない台詞に思える。
実際、目の前を歩く男は、疲れた素振りなど微塵も見せないままだ。先の声音が不釣り合いに思えるほどに。それは、彼の意地というよりは、実のところ疲れていないに違いない。

「…お前、別に疲れていないだろう?」

イタチが、溜め息を吐きながら返せば、鬼鮫はイタチを振り返り、肩を竦めてみせた。悪戯を見咎められた子どものような仕草。逞しい体躯には似合わない動作を、イタチは鼻で笑う。

「イイじゃありませんか…急を要する用もありませんし。あの辺りとか丁度良さそうですよ」

イタチの反応に、さして気分を害した風でもなく、子どもに手を焼く親のような笑顔で呟く。
鬼鮫が指さす獣道の先には、休憩に丁度良さそうな開けた場所に一本の木があった。
どうあっても、鬼鮫は休憩する意思を変えるつもりはないらしい。

「無駄な気遣いをするな。正直、鬱陶しい」

投げつける冷たい視線を崩さないままに、イタチは一息に言ってのけた。
じっと見据えた男は、それでも微苦笑を浮かべて、まぁまぁと宥めにかかる。

鬼鮫は、実のところイタチよりも頑固で、決めたことは中々曲げない。
変に角を立てるのが好きではないイタチは、大抵いつも折れてしまう。
別に折れてしまうことがどうとかいうことではなかったし、互いの意志を尊重して折れることは数年にも及ぶパートナーとしての生活の中でも多々あった。
だが、これに関してだけいうとイタチは、そうそう簡単に折れることができない。
鬼鮫がこんな風に気を遣う理由をイタチは知っている。だから、余計にそれが勘に障るのだ。

イタチの身体は病に蝕まれていた。
気づかれないように隠していたつもりであったが、鬼鮫は存外に聡かった。
問い詰められて、しぶしぶ吐けば、まるで自らが死に面したような絶望した面持ちで鬼鮫はイタチを見ていた。
ただでさえ知られたくもなかった事実を暴かれたイタチは、苛立っていた。

「鬱陶しい」

苛立ちに任せて、一言で切り捨てれば、鬼鮫はイタチに食い下がってきた。そのようなことは今までなかったために、正直イタチは驚いた。
残虐で、戦闘の中にある刹那に身を焦がすだけの怪人の見せたその顔はイタチに驚愕をもたらした。

もっと、自分を大切にして下さい。
もっと、身体を休めてください。

その頃から、鬼鮫は事ある毎にイタチを気遣う。
それは、ただイタチの心を余計にささくれ立たせるだけであった。
だが、鬼鮫は諦めることなく、イタチにそれを説く。
それに苛立つ理由はイタチの中では明白だった。

まだ生きていてもいいのだと。もっと生きていたいのだと。苦しい。かなしい。助けて欲しい。
この手にならば、縋ってもいいのではないか。

温かな日々に置き去りにしたはずの、冷たい夜に殺したはずの、心が酷く疼く。
そのように思えてしまう自身への腹立さが、イタチを酷く苛立たせるのだ。要するに、イタチのそれはただの八つ当たりでもあった。だが、鬼鮫は気にすることもなく変わらずにイタチを気遣う。
実に悪循環だった。

「………もういい。休めばいいんだろう」

その言葉を聞いて、鬼鮫は休憩をするための場所へ、ようやく折れたイタチを誘う。
木の幹に寄り掛かり、どうでもよさそうに息を吐いたイタチにそっと差し出されたのは、水の入った竹筒だ。細やかなその優しさはイタチの心にちくりと棘を刺す。
自身も、イタチに差し出したものと同じ竹筒で水を飲みながら、鬼鮫はただ無言でイタチに向かい合うように腰掛けた。
鳥の羽音や、動物の声が時折思い出したかのように響くだけで、二人の間には沈黙が横たわっていた。


作品名:あたたかい場所 作家名:ゆうき