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トリック・レトリック

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 今度は僕の時間がとまった。臨也さんはさっきと何ら変わらない穏やかな笑顔で、さっきとは随分と違う言葉を放つ。

「俺も、君が大嫌いだ。…お互いに大嫌いだなんて、ステキだね」

 一瞬だけでも自分の世界が真っ暗になって、そんな自分自身をまた情けなく思った。だから僕はこの人に振り回されっぱなしだっていうんだ。
 だって僕は本気でいったのに、今まさにエイプリルフールを満喫してるのは、臨也さんの方なんだから。
 なんて、たちの悪い、

「臨也さんってほんっとに最低ですよね」
「褒め言葉を、どうも」

 僕は諦めたように溜息を吐いて、左手でグラスと掴むと水を飲み干した。それをテーブルに戻すタイミングで、クツクツとおかしそうに笑いながら臨也さんが僕のその手をそっと取る。そして、

 壁にかかった時計の分針がまた揺れて、12時を指した。僕らのエイプリルフールは終わり、僕の左薬指には銀色のリングが嵌められていた。
 なんとも腑に落ちない表情でそれを見下ろすと、やけに満足気な顔をして、臨也さんが新しい一日の最初の言葉を告げた。

「大好きだよ、帝人君」



 ああ、もう、本当になんてずるい人!!!





作品名:トリック・レトリック 作家名:和泉