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だれが駒鳥ころしたの?

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 不思議なことに、自分の表情であるのに自分がどんな表情をしているのかを自分だけが見ることができないのだ。
 桂はさらに言う。
「お前はかなしくなかったわけじゃない。殺されてもいない」
「……ッッ、そんな、はず、ねェ!」
 苛立たしげに銀時は言う。
 射抜こうとするかのような強い眼差しを桂に向ける。
「テメーなんかに俺のことがわかるはずねーんだ!」
 そう吐き捨てた。
 しかし、次の瞬間にはハッとした表情になり、口元を手で押さえる。
 その様子を桂は静かに見ていた。
 銀時は視線を砂浜へと落とす。少しして、歯を強く噛みしめる音がした。
 それでも、桂は見ているだけでなにも言わない。
 やがて。
「クソッ」
 銀時は桂から顔を背けたまま悪態を吐くと、無造作に腰を降ろした。そして、膝小僧を抱える。
 そんなふうに座っている姿は子供でしかない。
 身体は桂よりも大きいのだが。
 桂は銀時の正面に行く。到着すると、腰を降ろした。銀時の目線の高さに揃えるようにする。
 そして。
 右腕を持ちあげ、銀時のほうへ伸ばす。
 銀時が驚いたように桂を見た。
 けれど、それには構わず、桂は身を乗りだして銀時にさらに近づき、肩をつかんで引き寄せた。その手は自然に背中へ移動させる。
 ぎゅうと抱き締めてやる。
 こうしていると結構あたたかいなと思った。
 冷たい風の吹き荒れる浜辺で男同士でなにをしているのかともチラリと思ったが、すぐにどうでもよくなる。
 自分たちはまだ子供なのだから。
 しばらくの間そうしていたが、ふいに銀時が動いて桂を押し戻そうとする。だから、桂は身を退いた。
 すると。
 今度は銀時が腕を伸ばし、身を乗りだしてきた。その銀時の指先が桂の頬に触れる。
 え、と桂が戸惑っているうちに銀時は距離を詰めた。
 顎をしっかりとつかまれる。
 顔が近づく。
 そして。
 唇にふわりと柔らかいものが押しあてられる。
 その感触は初めてで、驚き、心臓が大きく波打った。
 しかし、次の瞬間にはそれは去っていった。
 桂は力が抜けて、ぐらりと身体が後方へと傾き、そのまま砂浜に尻を着ける。
 まだ唇の上にはあの感触が残っていた。
 これはいったいどういうことなんだ。
 桂はわけがわからず、銀時を見る。
「……銀時、お前、顔が赤いぞ」
「顔が赤いのはテメーのほうだろ」
 すかさず銀時が言い返してくる。
 どうやら顔が赤いのはお互い様らしい。
 それにしても、頬が熱い。
 つまり、あれは。
 桂はようやく自分の身に起こったことを理解した。
 しかし、どうして銀時が男の自分にそれをしたのか理解不能だ。
 だが、いきなり奪われる形となってしまったにもかかわらず、銀時に対する怒りは湧いてこない。不思議なことに。
 つまり、これはあれだ。
 子供同士の戯れ。
 深い意味はない。
 桂はそう結論づけた。
 けれど、結論づけたのだが、心臓は相変わらずどくどくと激しく鳴っていた。
  




作品名:だれが駒鳥ころしたの? 作家名:hujio