僕らのサマーウォーズ
「ちょっとあたしたちじゃわかんないね。光子郎君!ちょっといい?」
だが当の本人はキングカズマに諸々を説明中ゆえ、手が離せない状況だった。
「こういうときに頭脳役が一人しかいないというのは不便だな。」
「本当ね。」
「ねえ、丈先輩はわかんないの?」
「ええ?僕かい?ええと、僕はあまりインターネットとかはしないから・・・。ええと、確かアバターっていうのは、ネットゲームとかのオンラインで使われる自分の分身、みたいなもの、だったかな・・・。」
「はい。そのアバターです。ここは『OZ』。ネットワーク内に構築された仮想世界なんです。」
そして健二はOZについて説明する。途中何度もかみ砕いて説明したり、説明を聞くことを放棄したのが何人か出たこと以外は、向こうとほとんど変わりない状態だった。
説明を終え、子どもたちは(一部を除いて)話を理解することができた。
「なるほどな。だからこんなにたくさんのもので溢れかえっているわけだ。」
「でも、どれも動いていないよ。」
「ラブマシーンとあの、ディアボロモンでしたっけ?にOZのシステムの一部を破壊されてしまいましたから。でも時間がたてば復旧されると思います。みなさん、このOZを救ってくれて、本当にありがとうございます。改めてお礼を言わせてください。」
「いやぁそんな。お礼なんて言われても・・・」
「丈さん。僕たちの世界だって大変なことになってたんだから、照れてないでちゃんと言わなきゃだめだよ。」
「えっ?ああ・・・。」
「やーい。丈ってば、タケルに怒られてるぅ。」
「うるさい。からかうなよ。」
「丈先輩すねちゃだめよ。」
「僕は別に拗ねてない!」
とそのまま追いかけっこを始めてしまう一同を前に、一番聞きたかった『その生き物は一体何なのか』という質問を聞き逃してしまい、しばし取り残されることになった健二たちであった。(後で光子郎から話を聞いたカズマが説明した)
しかし、結局のところ相手が何者なのかは二の次になり、気がつくと全員が入り混じってOZ内で遊びまわっていた。(因みに真悟達ちびっこ組にいたく気に入られたツノモンは、終始追い掛け回され悲鳴を上げ続けいた。)
と、藪から棒に光子郎のパソコンにメールが届く。確認してみるとゲンゾウからだった。
『子供たちよ、よくやった。それで、仲良くやっているところ非常に気まずいんじゃが・・・』
「・・・・はい、もうそんな時間なんですね。わかりました。」
どことなく寂しさを漂わせながらパソコンを閉じた光子郎はみんなに向かって伝言を伝える。
「みなさん、話があります!」
誰も光子郎の話を聞いていない。
「僕たちがネットワークの中にいられる時間がもう残り少ないので、もうそろそろ帰らないといけません!」
誰も光子郎の(以下略)
「すみません!聞いていますか!!」
誰も(以下略)
「あの!大切な話なのでちゃんと聞いて・・・」
d(以下略)
とここで流石の光子郎もプッツンきてしまった。今まで誰も聞いたことのない怒号で叫ぶ。
「ちゃんと話を聞いてください!!!!!」
あまりの大声に全員が固まる。誰が一番驚いたって、一番そばにいたモチモンである。
「光子郎はん・・・そんな大声出しよったら声嗄れまっせ・・・・・・・。」
「あ、ありがとう。モチモン。」
そして一つ咳ばらいをした後、今度こそ伝言を話す。
「みなさん、僕たちがこのネットワーク内にいられる時間が残り少なくなってしまいました。」
「え〜〜〜〜〜〜〜〜?」
「これ以上ネットワークの中にいると、僕たちのデータがネットワーク内で分解されてしまう恐れがあるそうです。そうなってしまうと大変なことになってしまいますから。」
その言葉を聞いて子どもたちはしぶしぶ帰路につこうとする。
「みなさん、本当にありがとうございました。」
「それは僕たちも同じです。君たちが来てくれなかったら、今頃どうなっていたかわからないですから。」
「キングカズマ。」
「太一。」
「またな!」
「ああ。」
二人はもう一度握手した。
「やまとぉ〜。助けて〜〜〜〜〜〜!」
向こうからツノモンが逃げてくる。非情なことに、話の間中だれもツノモンが追っかけまわされていることに気づいていなかったのだ。
「ツノモン・・・お前何やってんだ?」
「何やってたんだじゃないよ!おいてかないでよ!」
「こらあんたたち!やめなさい!」
「はぁ〜〜〜〜〜い。」
「ふふっ。ツノモン人気者ね。」
「笑うなよ!」
その中途半端な怒りっぷりに、しばしの静寂の後、一同爆笑の渦に巻き込まれた。その笑い声は、作動していないOZを起動させるかの如く響き渡る。
誰も知らない、僕らの夏の闘いが終わった。
作品名:僕らのサマーウォーズ 作家名:平内 丈