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東方~宝涙仙~ 其の弐拾四(24)

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東方〜宝涙仙〜



「じゃあフラン返せよ!返せ!じゃないと撃つ。"返せないなら"撃たない!」



ミニ八卦炉を向けた少女は大きくにやけた。
「霧雨魔理沙だぁぁぁ!!」
ビシーンッという効果音がお似合いだろうと言える程に決めた。それに対しシズマは特に反応が大きくもなく、魔理沙は少しむっとした。
「霧雨魔理沙―聞いたことはありますけどもまさかこんな姿とは」
「じゃあどんなのを想像してたんだよ。でっかい怪物とでも思ったか?」
敵と対面してもなおこの調子の魔理沙であるからシズマが意外に思うのも無理もないだろう。
「とにかくフランは返してもらうぜ」
魔理沙はフランドールの右手を引っ張り自分に寄せようとした。しかしシズマのほうもフランドールの左肩を掴んでそう簡単に返そうとはしない。
「返すことはできませんね」
「オマエ達の計画は一体何なんだ。なんで紅魔館を爆発させてフランを連れ去ろうとするんだ」
「あら、ここの爆発は私達の仕業ではありませんよ」
魔理沙は返す言葉がなかった。犯人確保と思って格好つけてしまった恥ずかしさが一番に湧き出た。
「犯人…じゃないのか?」
顔を少し赤くしながら汗ばむ魔理沙。その汗は決して緊張だとかそういった汗ではなかった。
「ええ。爆発に関しては違いま…」
その言葉の揚げ足を取るようにシズマの言葉を無理やり切って発言権を魔理沙が手にした。
「それでもフランを攫(さら)った事実は事実だからな!ここで成敗してもらうぜ!」
魔理沙は必死に自分で自分をフォローしきった。そして再びミニ八卦炉をシズマに向けてしゃべりだした。
「オマエがどうしてもフランは返せないって言うんなら力づくで取り返すぜ」
「そのダンボール六角形がなにできるか知らないですけど、私は戦う気はありませんよ」
あくまでも大人なシズマ。
「じゃあフラン返せよ!返せ!じゃないと撃つ。"返せないなら"撃たない!」
「何を撃つか明確にしてほしいですね。じゃあ返せません」
「なら撃つ!」
「言ってる事メチャクチャじゃないですか」
二人のやりとりの最中フランドールがボソッと呟いた。
「魔理沙今『"返せないなら"撃たない』って……」
フランドールは魔理沙の間抜けな台詞をしっかり聞いていたようだ。フランドールの小さな声での解説は魔理沙の耳には届かなかったようだ。
「フラン!着いて来い!」
魔理沙がその場をいきなり走り去ろうとしたせいでフランドールは瞬時には対応できなかった。
「ちょっと待って魔理沙!」
出遅れたフランドールが魔理沙を追う。
「逃がしませんよ。スペルカード!影操『操りシャドー』!」
「フラン先に逃げろ!ここはアタシ一人で充分だ!」
「でも…!」
「いいから!アタシがあんな奴相手に負けるわけないだろ?」
魔理沙の微笑みは何故か随分と信頼性がある。フランドールはこくりとうなずき階段を降りて行った。
「逃がしません!」
フランドールの目の前に黒い柵のようなものが張られた。
「ふふっ、それは実態のある影でできた柵ですよ。不思議な事に触れないのにそこから先へはいけません」
「オマエ馬鹿だなぁ。フランは物に触れなくたってその物を壊せるんだぜ!」
「!?」
魔理沙が説明している間にフランドールは影の策の眼(ツボ)を手の上に復元させ握りつぶした。影の策は溶けるように消えていく。
「そんな!」
まさかの展開にシズマは驚きと戸惑いを隠せなかった。フランドールが影の策を突破して階段を降りて左へ曲がり、姿が見えなくなった。
「おいおいアタシには何もしてくれないのか?」
シズマは悔しそうに魔理沙のほうを向いた。
「あなたさえ来なければ……。影よ!黒の魔法使いを斬る兵士となれ!」
掛け声に合わせて天井にぶらさがったシャンデリアの影が兵士の形となり実体化された。
「所詮影なんて低レベルなスペルカードだけで充分だぜ。星符『メテオニックシャワー』!」
ミニ八卦炉かさほど大きくはない鮮やかな星が少量ではあるが室内では充分なほど放たれた。
「オマエのダサい名前のスペルカードなんかとは比べものにならない実力とカッコよさを見せてやる!」
「影の兵よ、降り注ぐ星を受け止める護兵となれ」
指示通り槍を持った影の兵は盾を持つ護兵と変化し、メテオニックシャワーを防いだ。多少防ぎきれなかった星もあるが、シズマには掠ることもなく壁を破壊した。
「影を人形のように扱えるんだな」
「慣れない戦い方の相手ですか?」
余裕の表情を見せつけ魔理沙を軽く挑発する。しかし魔理沙は挑発には乗らなかった。
「人形使いくらいなら知り合いにいるからな、全然慣れっこだぜ」
魔理沙はスカートの下に履いているドロワーズ(半ズボンとパンツが合体したようなもの)のポケットから次のスペルカードを取り出した。
「あなたがスペルカードをまた使うなら…」
魔理沙に合わせシズマもスペルカードを取り出す。
「どんなスペルが来るのか楽しみですね」
笑顔で言った。
「呑気な奴だな。そんなオマエには必殺技を見せてやる!恋符『マスタースパーク』ッ!!」
「必殺技とは嬉しい限りですね。偽影『マジカルコピー影形(えいぎょう)』!」
ミニ八卦炉にパワーが溜まりマスタースパークが発射される寸前、シズマの前に黒い人影が発生した。
「さあマスターなんとかとやら、撃って下さい」
「言われなくても撃ってやるつもりだ!」
パワーを開放し壁なんてどうにでもなれと言わんばかりにマスタースパークを発射した。
「こんな光線当たったらとんでもないですね」
マスタースパークはシズマの前にあった黒い人型の影に直撃したが、人型の影はビクともしない。ただのガードとなっただけだろうと思うが、シズマのスペルカードの能力はここからが本番だった。
「撃ち返しなさい。…影の魔理沙さん」
シズマがそう言うと人型の影が魔理沙の形に変化していき、影で作られた魔理沙が魔理沙と同じポーズをとりだす。
「まさかオマエ!」
魔理沙は気付いた、その構えが何を現しているのか。
影の魔理沙は魔理沙そっくりの笑みを浮かべ、マスタースパークよりも強力なマスタースパーク(モドキ)を放った。
「かかりましたね。私の能力はまさに"影を操る"という事。自分の影を…いや自分の影以外もを物体に化かしコピーすることができるんです!」
間一髪でコピーのマスタースパークを避けきったものの、館の壁は自分の撃つマスタースパークの時よりもはるかに崩落していた。
「ふふっ、びっくりしました?コピーといえど威力・スピード…すべてにおいて本物の上をゆくんですよ」
「これは……」
後に"ヤバいぜ"と続けるつもりだったのだろうが、魔理沙は言葉が詰まった。館の中にそこらじゅうに影がある。影がある限り魔理沙は絶対的に不利な状況と言えるだろう。
「もう撃ってこないんですか?ならこちらから…」
シズマは再びカードを取り出した。
「影域『シャドー・モセス』!」
「次はどんなのがでるのかドキドキヒヤヒヤだぜ」
しかし弾の類が飛んで来ることはなく、魔理沙はどう動いていいかわからずその場で立ち尽くす。魔理沙が何も起こらないと油断を切らした瞬間、魔理沙の足元の影が急に大きく広がった。
「なんだ!?」