白昼堂々
六年生として新学期が始まる日、校庭に集められた生徒たちの中に同じ色の装束を着た長身を見つけて、小平太は愕然とした。同室の自分にさよならの一言も告げず、出ていったはずの中在家長次がそこには立っていた。もう足を庇っている様子もなく、背筋がぴんと伸びたいつもの長次だった。信じられずに凝視していると、すぐにこちらの視線に気付いたのか目が合う。小平太は驚きでそこから動けなくなっているというのに、長次はそんな小平太の様子を見て、滅多にしない意地の悪そうな顔で口元を少しだけ上げた。
「…騙されたか」
「っ…!!」
声は聞こえなかったものの、唇の動きで何を言われたかを知った小平太はその言い種にかっとなり、目にも留まらぬ早さで長次の元まで近付くと、右頬を渾身の力で殴った。長次もそれで倒れるような失態は侵さなかったが、鈍い音がしたので、結果的に周りの注目を集める事になる。
「おい、なんだ、喧嘩か?」
「新学期早々、怪我人を出す真似だけはすんなよ」
血気盛んな煽り声があちらこちらで上がったが、小平太の耳にはどれも入らない。
「馬鹿野郎!」
肩を怒らせて小平太が叫ぶと、衆人環視の中でのその言葉に長次は少しだけ眉をしかめたが、素直に謝罪の言葉を口にする。
「すまなかった」
頭を下げる彼に周りが息を飲む中、小平太は両手を上げると勢いをつけて長次に正面から飛びついた。背中に回した手に力を込めれば、頭を二、三回叩かれた。それが何だか悔しくて腹いせとばかりに殴らなかった左頬に噛みついてやれば、周囲から新学期早々、気持ちの悪いものを見せるなと怒声が飛んだ。
そうやって喧噪に巻き込まれながら暮らす日々がまた来るのだ。春が来たのだ。