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夢轍/[I] 始まりの黒、鉄の街、ジレーザ2

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 ロベリアは立ち上がり、壁に近付き黒色のコートを手に取り羽織った。フェンデル軍の紋章が胸元に記されたそれは、まぎれもない、フェンデル軍所属であることを示すものだ。フェンデル軍第一煇術開発部――大紅蓮石の調査、そして原素抽出技術の開発を主としたフェンデル第一級研究機関。身体能力に優れず、前線に出ることは適わないと冷酷に告げられた士官学校時代。けれども憂国の思いを強く抱く少女の心は折れなかった。ならばと必死に書を漁り、時に秘匿された書物を漁ることで得た知識を武器に、今ではアンマルチア族技師と対等に話をすることだって出来る。彼らの力なくしてはこの国の発展はなく、そんな彼らを引き入れた父と上官の二つの顔を思い出して、ロベリアは壁に向かったまま眉をしかめた。いけ好かない、顔。あの中将が本当は帝国のため、臣民のために何かをする気がないことくらい、誰の目にも明らかだった。そんな男を優遇する父も父だ。幾らアンマルチア族との伝を持っているからといって、無能者を重要なポストに置く意味がロベリアには理解できなかった。
 コートを羽織ろうとしたまま動きを止めたことをマリーナが伺う前に、ロベリアは襟を合わせてくるりと壁に背を向ける。
「それじゃ、行ってくるわね」
「あ、は、はい…行ってらっしゃいませ、ロベリア様」
 また、何時もの一日が始まる。何の進展も無い日々。何の進歩も見出せない日々。それでも、幼い日に見た忘れられない光景が、ロベリアの心の奥底には、熾火のように燃えているのだ。
 未だ大煇石の所在を知るには至らぬが、それとていつか必ず掴み取る。この国の心臓を、必ず目の当たりにする、そして心臓に問いかけるのだ。この国のあり方を。正しいのか正しくないのか、恩恵を受けるに相応しいのかそうでないのかを。