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夢轍 [3]夢と幻と過去と今、開かれたもの2

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 運ばれてきたものを品のよい仕草で唇に含み、ロベリアは視線を上げカーツを真正面から見据えた。じっと見つめられている、こちらを見ている瞳の奥には、強圧的な色が垣間見えるような気になり、カーツは眉を寄せた。この女の不自然さだ。それは、不愉快という類の感覚ではないが、それでもどちらかといえば取り込んではならぬ類のようなものに思える。それは、理屈ではなく感覚だ。だが、感覚というものは時に的確すぎるほどの警鐘を鳴らす。こと、カーツは全く唐突に訪れる感覚の告げるものは信じる性質だった。経験から、そうなったと言ってもよい。
「示すことはいつでもできる。重要なのは、そういうことではない」
 変革を促すのだ。変化させるのだ。この、停滞した流れの中に淀み沈んでゆく、ゆらゆらと外側から締め付けられる感覚から逃れられない定めにある、祖国を。まずはその感覚と危機感を知らねば、意味はない。名などどうでもよいのだ。反政府活動などと大それたことを謳った所で、まだ自分達はまともな組織作りすら出来てはいない。反政府議論ですら規制されている中、地下に潜り数々の議論をそれでも繰り返してきている以上、知っているのならば自ずと集まろう。何より、将来的には武装蜂起も視野に在るという過激派も内包していれば、まだ名を持ち声高に自分達を誇示出来る段階では正直なかった。
「ロベリア。お前は例えば名があったから俺たちの行動に賛同したわけではあるまい?」
「……それは、そうね。夢見る男が言いそうな、甘い考え方ではあるけれど」
 ふ、と彼女は小さく笑った。そしてやはり少しだけ酒を唇に含んでから、微笑んだ。ちらと向けられた視線の中に諦観が見えたのは、それほどにこの女には気概があるということの証か。悪くない印象だった。はっきり言えば、ここ数日カーツが記憶に留めた中では、上等の部類だ。
「リーダーに会いたいの。マリク・シザース。彼に、話があるわ」
「その名を判って出している、と俺は受け止めても良いか」
「必要だからよ。対価を要求しないことで信用してもらいたいのだけれど」
 勝負時だと判っている、という眼差しの強さだった。嘘は恐らく言っていないのだろう。彼女が組織に入りどの程度関わっているか、仔細な情報は生憎とカーツの中にはなかったが、長くはない。富裕層で協力する人間もいないわけではないのだが、そういう中でも彼女はどこか異質に思える。その違和感の正体を突き詰めようとしてしまう、ということに気付きカーツは思考を途切れさせた。互いに深入りをしない。それは、この組織の中で暗黙の了解のようなものになっているのだ。
「駄目だな」まだ、駄目だ。言葉を続ける前に、いよいよきつさを増した女の声がかぶさる。「駄目だという理由を聞かせてもらえるのかしら」
「別に俺が入るまでもない。勝手にあいつが接触してくるだろうさ」
 何せいい女だ。そう続けようとして、ふとその言葉の意味することを考え、カーツは口をつぐむ。不自然な言葉の途切れにロベリアが不審げに瞬きをするが、カーツは言葉を一度飲み込んだ。
 別に他意はない。マリクならば口癖のように言うだろう。それを、俺が珍しく感じたというだけだ。それだけのことだ。
 まず己に、言い訳をした。それから、カーツはもう一度言葉を租借して飲み込んだ。
「何せ、いい女だ。あいつはそういう女には目がない」
 ロベリアの表情があからさまに曇る。そういうように言われるのが心外だとでもいうような表情だが、唇を小さく戦慄かせるだけで彼女の意思表示は終了した。一呼吸の間を置けば、彼女はまたそれまでの微笑を取り戻す。
 たしかに、良い女だ。恐らく、そうなのだろう。気概はある。ここに姿を見せるだけの、相応の肝もあるし覚悟も上等だ。
 だが一方、素性のよくわからない、仲間になって間もない女を彼に会わせるわけにはいかない。特に、この女は不自然だ。
 そういう理由をいくら並べ立ててもどこかで言い訳じみていた。一度そのように感じてしまうと、なかなか思考を戻すことができず、誤魔化すようにジョッキに申し訳程度残っていた麦酒を飲み干す。苦さも、温くなってしまった喉越しも、何時もとは違う味のように感じた。