二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

何もかも越えて

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
よく晴れた五月の空が広がっていた。剣心は大きく息を吸い、井戸の水で体を清め、赤べこのたえが貸してくれた紋服と袴を身につけ、髪を後ろ手にきつくしばった。もう一度大きく息を吸い、そしてはいた。祝言の場となる道場に入る。その時ちょうど花嫁衣裳の薫が恵に手を引かれてしずしずと入っていた。普段のお転婆な姿とはうってかわって、白無垢に包まれ、紅をさした、輝くばかりの薫であった。剣心は思わず息をのんだ。と、弥彦が声をかける。
「わー、薫!馬子にも衣装ってほんとだな!」
「な~んですって~!!」
とたんにいつもの薫にもどって、弥彦をにらみつけて、大きく一歩踏み出した。
「まあまあ、薫ちゃん。今日はおしとやかにしとかな。花嫁さんなんやから」
たえがなだめる。
「そうよ~、剣さんがびっくりして逃げ出しちゃうわよ」
恵がにやりと笑う。あわてて薫は裾をそろえて、剣心を見る。剣心は薫の姿をじっと見つめていた。
「剣心・・・」
「薫殿・・・きれいでござる・・・」
剣心の率直な言葉に頬を赤くした薫はますます美しかった。剣心はごくりとつばを飲み込んだ。
「はいはい、剣さん、まず祝言をあげないとね、そのあと、二人っきりにぞんぶんしてあげますからね~」
恵が茶化しながら、薫を剣心の横の席に導いていった。

剣心と薫。この二人がやっと夫婦になる。この日を心待ちにしていたのは当人だけではない。この場に集まった誰もが二人が結ばれ、幸せになることを望んでいたのだ。剣心と薫が花婿と花嫁として並びあう姿を、全員が心から祝福していた。三々九度を交わす二人の姿をみて、たえと燕は涙を流していた。剣心は薫のほうをそっと見た。薫も剣心を見る。そしてふわっと微笑んだ。剣心はその笑顔に笑みを返しながら、この場に集ってくれたすべての人たちに感謝していた。


宴が終わって、皆が家路につき、二人っきりになったとき、剣心は薫の手を取った。
「薫殿、少しいいでござるか?」
「剣心?」
剣心は薫の手をひいて、道場の床の間の前に連れていった。そして正座する。薫も剣心の意図がわからないまま剣心の横に正座した。大きく息を吐き出して、剣心は両手を床について言った。
「お父上、今日、薫殿を妻にもらいうけるでござる。拙者のような頼りない者ではさぞ不満だと思うでござるが、拙者の一生をかけて薫殿を妻として慈しむことを誓うでござる。拙者の生涯をとして薫殿を守っていくことを誓うでござる。どうか、薫殿を妻にもらうことを許してくだされ」
そう言って剣心は深ぶかと床の間へ向かって頭を下げた。
「剣心・・・」
剣心は今度は薫のほうを見て言った。
「薫殿を妻にするときには、お父上の許しをまず得なくてはならぬと前から思っていた。ここに、この道場に、お父上の魂は生きていると思うのでござる。」
「うん・・・剣心。ありがとう。父さま、喜んでいるよ、必ず・・・」
薫の頬に一筋の涙が流れた。
「薫殿・・・」
その涙を剣心が指でやさしくぬぐう。
「殿はもういらないでしょ。私は剣心の妻よ」
「そうでござるな。薫・・・よい祝言でござったな。皆、心から祝ってくれていた」
「うん。左之助がいなかったのが残念だけど。どこにいるかわからないんだから連絡のつけようがないものね。」
「ああ、でも左之も、きっと祝ってくれているさ、大陸のどこかで」
「うん、そうだね」
剣心は薫の手を取った。
「薫。幾久しゅう」
「剣心。幾久しゅう」

その後、寝間着に着替えた二人は、今宵から二人の寝室になる部屋で向かい合っていた。薫は畳に指をついて、頭を下げた。たえに教わったとおりの言葉を口にする。
「剣心。末永く、よろしくお願いいたします」
「薫。こちらこそ。末永く、よろしく頼むでござるよ」
剣心も頭を下げた。頭をあげた二人の目が合う。剣心が薫の手を取った。薫は思わずびくりとする。
「薫・・・あの・・・」
剣心は何か言おうと思ったが、言葉が出てこなかった。薫は赤くなったままうつむいている。剣心は、薫へ一歩近づいた。薫がその顔をあげた。うるんだ瞳。赤く濡れた唇。上気した頬。白い胸元。今宵、そのすべては剣心のものであった。
「薫!」
剣心は薫を両腕で思いっきり抱きしめた。
「薫!薫!薫!」
君を妻にできる日がくるなんて。君に触れることができる日がくるなんて。君を自分のものにすることができる日がくるなんて。俺は今宵、命がとだえても構わない。君を抱いたまま、命がつきても構わない!

近くにいても、決して越えられなかった二人の距離。超えてはならぬと戒めていた距離。しかし今宵は。今宵は何もかも越えて。俺と君との間に距離なんて一寸もない。
剣心は激情のままに薫を抱いていた。自分を抑えることなぞ、無理だった。初めての行為に薫は息を切らせて、ただ剣心の愛撫に身を任せている。合間合間で大丈夫かと剣心は薫に問いかけたが、激しい抱擁を止めるつもりはなかった。薫も、受け身ではあるが剣心の指に唇に反応して、ただ剣心を受け入れていた。ただ初めての波が襲ってきた時、薫はちょっと待ってくれと剣心に言った。

「どうして?薫。痛い?」
「ちがうの。剣心、私、なんかおかしくなりそうで・・・」
「おかしくなってくれ、薫。俺を止めないで、俺はもう止められない・・・自分の気持ちを止められない・・・」
「剣心・・・あっ・・・」
薫は襲いかかってくる頭と体がしびれるような快感に、その身をこわばらせた。
「薫、薫・・・あうっ・・・」
剣心も薫とほとんど同時に上り詰めて、その瞬間薫の体にぎゅっとしがみついた。二人の体が強くこわばり、震え、そしてやがて弛んだ。

「はあはあ・・・かお・・る・・・大丈夫?」
「うん・・・けん・・しん・・・。私・・・変じゃなかった?よく・・・わからなくて・・」
「薫・・・」
剣心は薫をもう一度抱き寄せた。
「薫は完璧だったよ。すべてが・・・すばらしかったでござる・・・」
「よかった、剣心が喜んでくれて・・・」
「おろ?喜んでいたのは俺だけでござるか?」
「いやだなあ、剣心ったら。私は・・・見ていてわかったでしょう?」
剣心はくすっと笑った。
「ああ、わかったでござる」
剣心は薫の口を吸った。
「こんな幸せが・・・あるんでござるなあ・・・。薫。これほど満たされた思いは、初めてでござる・・・」
「剣心・・・。もっと、幸せにならなきゃ。いろいろなことを乗り越えてきたんだもん。剣心は幸せになっていいんだよ。それに・・・剣心と同じような過去を背負って生きている人たちのためにも・・・。過去の罪だけを見て、だからもう二度と幸せになれないって思っている人たちがまだ世の中たくさんいると思う。そういう人たちのためにも、過去の罪を償いながらでも生きていける、生きる価値がある人生を完遂できるって。そう、剣心は示さないと。いろいろなことを忘れるわけじゃない。忘れることはきっとずっとできない。でも、それでも前へ進むことはできる。償いながらでも生きていくことはできる。そう、剣心がお手本を示さなきゃ。」
「薫・・・」
「二人で示していこう。二人で探し求めていこう。まだ・・・闇の中にいて抜け出さない人たちのためにも・・・」
薫が闇の中の人々の中に縁を数えていることが剣心にはわかった。
作品名:何もかも越えて 作家名:なつの