Sweet Night
「ここが咲の部屋かあ」
滝沢は咲のアパートの部屋の入口できょろきょろと中を見回している。やっと退院できた滝沢を彼のリクエスト通り、自分の部屋へ連れてきた咲だったが、滝沢がまだ松葉杖をついている状態なので、心配そうに眉をひそめていた。
「滝沢くん、とにかく中に入って、座って?退院したっていっても、まだ松葉杖なしでは歩けないんだし。先生もよく気をつけるようにっていっていたでしょ?」
「はいはい。大丈夫だよ、咲。もうほとんど治っているんだから」
そういう滝沢を咲は支えながら、キッチンの小さなテーブルの横の椅子に座らせた。滝沢はテーブルの上の写真立てに、二人が豊洲への定期船の上で撮った写真が飾られているのを見つけた。
「この写真・・・」
「あ、それね。携帯の写真を大きく引き伸ばして、焼いてもらったの。この写真見てると、元気でるから」
「咲・・・」
「滝沢くんの行方がわからなかった間、この写真見て、きっともう一度滝沢くんと会える、必ず戻ってくるって約束したって・・・そう自分に言い聞かせてたんだ」
「咲。ごめんよ。ずいぶん心配かけたんだね」
「ううん、今となってはもう昔話!こうして滝沢くんは帰ってきてくれたし。私の目の前にいてくれるもん。あ、お茶、いれるね?ちょっと待っててね。コーヒーのほうがいい?」
「咲」
「なに?」
「お茶より、こっちきて」
「え・・・」
「こっち」
そう滝沢が指差しているのは彼の膝の上で。咲は頬を赤らめながら、首をふった。
「だめだよ、滝沢くん。まだ怪我治ってないんだから。私が膝の上なんか乗ったら・・・」
「膝は怪我してないから、大丈夫。咲、こっちきて、俺のそばにきて」
「あの・・・」
滝沢は満面の笑みで手招きしている。
「・・・本当に大丈夫?」
「大丈夫!」
咲はおずおずと滝沢の膝の上に座った。それを待っていたかのように滝沢は両腕を咲の肩に巻きつけて顔を寄せる。
「咲・・・ありがとう。今まで、ずっと俺のこと待っててくれて。いつも見舞いに来てくれて。ありがとう」
「滝沢くん・・・そんなこと・・・滝沢くんだって、ずっとがんばってきてくれた。私やエデンのみんなや・・・ううん、もっとたくさんの人たちのために・・・。私のほうこそ、ありがとう、だよ」
「でもやっぱり、咲のおかげだから。咲がいてくれたから。咲が信じてくれたから、俺、がんばれた」
「滝沢くん・・・」
滝沢は咲の瞳をじっとみつめた。
「咲。この部屋、咲の香りでいっぱいだ。俺、すごく安心するよ、この香りの中にいると」
「滝沢くんったら・・」
滝沢はそのまま顔を近づけて咲と唇を重ねた。しばらく二人は沈黙のまま口づけを重ねていた。
「咲・・・」
唇を離した滝沢が、咲の耳に口を寄せる。
「咲・・・俺をベッドに連れていって・・」
「え・・・でも・・・」
「俺、もう、限界・・・咲、約束してくれたよね、俺が退院したらって・・・。今日が約束の日だよ・・」
「あの・・・でも、滝沢くん、まだ足が完全に治ってないから・・・」
「だから、咲にベッドに連れていってって頼んでるの」
「でも・・・」
滝沢は咲の体を抱きしめていった。
「咲、咲を思いっきり、抱きしめたい。思いっきり愛したいんだ。俺の気持ち・・・咲に伝えたいんだ、思いっきり」
「滝沢くん・・・」
「・・・いや?」
「う、ううん・・・」
咲は真っ赤になりながらも、首を横に振った。
(私だって・・・滝沢くんが好きって・・・自分の気持ち、伝えたい・・・)
咲は滝沢の膝から降りて、滝沢の腕を取った。そして無言のまま、彼を寝室のベッドの上に連れていった。
滝沢はベッドの上に腰かけると、両腕を咲に延ばした。
「咲・・」
咲はその腕の中に飛び込んだ。
ぎこちない動作で二人はお互いの服を脱がせていく。咲の裸身があらわになったとき、滝沢はしばらく見つめた後、そっと咲を抱きしめた。
「咲、きれい・・・」
そのまま咲の首筋にくちづける。
「あ・・・」
「咲・・・」
滝沢は唇を胸のほうへおろしていく。咲は心地よい熱に浮かされるように、息が荒くなっていく。
滝沢は咲をベッドに横たえて、愛撫を続けた。
「あ・・・あの、滝沢くん・・・」
「なあに?咲・・」
「あの、足、大丈夫?」
「大丈夫。センセも歩くなっていっただけでしょ?咲を抱いちゃいけないとはいわなかった」
「な、そ、そんなこと、お医者さんがいう訳ないじゃない!?」
「ははは・・咲・・・咲とこうしてるのが一番の治療法だよ」
「滝沢くんったら・・・」
はははと笑いながら、滝沢は咲の体へキスの雨を降らしていく。そしてやがて、そっと、咲の両足を開かせた。
「咲・・・いい?」
「う、うん・・・あ、あ、あの・・・・滝沢くん・・・」
「なに?」
「私、あの。経験なくて。あの・・・こういうの、初めてで・・・」
「咲・・・俺だって、経験ないよ」
「え?」
「滝沢朗としてそんな経験、まったく覚えないよ」
「ええ?そ、そうなの。だって、滝沢くん、女の扱い、慣れているような・・・」
「俺が?ジョーダンでしょ?たぶん、彼女らしい彼女だっていなかったと思うよ。俺だって、すごくキンチョーしてるよ」
「滝沢くん・・・」
「俺・・・咲のことしか覚えてなかった。心の中にあったのは、ずっと咲のことだけだった。ただ咲を愛したい。咲が愛おしい。それだけ・・・」
滝沢は咲の右手をとって自分の胸にあてた。
「ほら、すっげーどきどきしてるでしょ?俺の心臓、バクハツしそう」
「ホントだ・・・」
滝沢は自分の右手を咲の胸の上に置いた。
「咲の心臓も、そうとうすごいことになってるね。どっきどっき言ってる」
「そりゃ、そうよ。だって好きな人にこうして抱かれて・・・その・・・結ばれようとしているんだもの」
「咲・・・かわいいこと、いうんだね。「結ばれる」か。そうだね、俺、咲と結ばれたい。咲と俺を一つに結びたい・・」
「滝沢くん・・・」
「咲・・・」
滝沢が咲の中にそっと入ってきた時、初めての痛みに咲はぐっと体をこわばらせてしまったが、滝沢の苦しそうな、張りつめた表情を見ているうちに、体のこわばりが緩んできた。大丈夫?痛くない?と何度も咲に聞きながら、滝沢は懸命に咲の体の奥に入ろうとしている。その表情は快感を味わっているというよりも、もっと必死な、真摯なものに見えて、咲は自分も滝沢をすべて迎え入れたいと、彼の背中を両腕で抱きしめた。
「さ・・きっ・・・咲の中、熱い・・・」
「う、うん・・・」
「咲・・・咲・・・」
「うん、うん・・・」
「俺・・おかしくなりそうだよ・・・」
「うん、うん・・・・・」
稚拙で、たどたどしい、二人の初めての抱擁だった。訳もわからぬ熱に押し流されるように、二人はお互いを求めていた。二人が初めての波にさらわれた時、お互いの名を呼びながら、お互いをきつく抱きしめていることしか、二人にはできなかった。
「咲・・・」
「う・・ん・・・」
「俺・・・無我夢中だったよ・・・咲、大丈夫だった?」
「うん・・・」
「咲。さっきから、うんしか言ってないよ・・・」
「うん・・・」
「ほら、また」
「うん・・・だって・・・」
「俺、咲をあんまり感じさせられなかった?」
滝沢は咲のアパートの部屋の入口できょろきょろと中を見回している。やっと退院できた滝沢を彼のリクエスト通り、自分の部屋へ連れてきた咲だったが、滝沢がまだ松葉杖をついている状態なので、心配そうに眉をひそめていた。
「滝沢くん、とにかく中に入って、座って?退院したっていっても、まだ松葉杖なしでは歩けないんだし。先生もよく気をつけるようにっていっていたでしょ?」
「はいはい。大丈夫だよ、咲。もうほとんど治っているんだから」
そういう滝沢を咲は支えながら、キッチンの小さなテーブルの横の椅子に座らせた。滝沢はテーブルの上の写真立てに、二人が豊洲への定期船の上で撮った写真が飾られているのを見つけた。
「この写真・・・」
「あ、それね。携帯の写真を大きく引き伸ばして、焼いてもらったの。この写真見てると、元気でるから」
「咲・・・」
「滝沢くんの行方がわからなかった間、この写真見て、きっともう一度滝沢くんと会える、必ず戻ってくるって約束したって・・・そう自分に言い聞かせてたんだ」
「咲。ごめんよ。ずいぶん心配かけたんだね」
「ううん、今となってはもう昔話!こうして滝沢くんは帰ってきてくれたし。私の目の前にいてくれるもん。あ、お茶、いれるね?ちょっと待っててね。コーヒーのほうがいい?」
「咲」
「なに?」
「お茶より、こっちきて」
「え・・・」
「こっち」
そう滝沢が指差しているのは彼の膝の上で。咲は頬を赤らめながら、首をふった。
「だめだよ、滝沢くん。まだ怪我治ってないんだから。私が膝の上なんか乗ったら・・・」
「膝は怪我してないから、大丈夫。咲、こっちきて、俺のそばにきて」
「あの・・・」
滝沢は満面の笑みで手招きしている。
「・・・本当に大丈夫?」
「大丈夫!」
咲はおずおずと滝沢の膝の上に座った。それを待っていたかのように滝沢は両腕を咲の肩に巻きつけて顔を寄せる。
「咲・・・ありがとう。今まで、ずっと俺のこと待っててくれて。いつも見舞いに来てくれて。ありがとう」
「滝沢くん・・・そんなこと・・・滝沢くんだって、ずっとがんばってきてくれた。私やエデンのみんなや・・・ううん、もっとたくさんの人たちのために・・・。私のほうこそ、ありがとう、だよ」
「でもやっぱり、咲のおかげだから。咲がいてくれたから。咲が信じてくれたから、俺、がんばれた」
「滝沢くん・・・」
滝沢は咲の瞳をじっとみつめた。
「咲。この部屋、咲の香りでいっぱいだ。俺、すごく安心するよ、この香りの中にいると」
「滝沢くんったら・・」
滝沢はそのまま顔を近づけて咲と唇を重ねた。しばらく二人は沈黙のまま口づけを重ねていた。
「咲・・・」
唇を離した滝沢が、咲の耳に口を寄せる。
「咲・・・俺をベッドに連れていって・・」
「え・・・でも・・・」
「俺、もう、限界・・・咲、約束してくれたよね、俺が退院したらって・・・。今日が約束の日だよ・・」
「あの・・・でも、滝沢くん、まだ足が完全に治ってないから・・・」
「だから、咲にベッドに連れていってって頼んでるの」
「でも・・・」
滝沢は咲の体を抱きしめていった。
「咲、咲を思いっきり、抱きしめたい。思いっきり愛したいんだ。俺の気持ち・・・咲に伝えたいんだ、思いっきり」
「滝沢くん・・・」
「・・・いや?」
「う、ううん・・・」
咲は真っ赤になりながらも、首を横に振った。
(私だって・・・滝沢くんが好きって・・・自分の気持ち、伝えたい・・・)
咲は滝沢の膝から降りて、滝沢の腕を取った。そして無言のまま、彼を寝室のベッドの上に連れていった。
滝沢はベッドの上に腰かけると、両腕を咲に延ばした。
「咲・・」
咲はその腕の中に飛び込んだ。
ぎこちない動作で二人はお互いの服を脱がせていく。咲の裸身があらわになったとき、滝沢はしばらく見つめた後、そっと咲を抱きしめた。
「咲、きれい・・・」
そのまま咲の首筋にくちづける。
「あ・・・」
「咲・・・」
滝沢は唇を胸のほうへおろしていく。咲は心地よい熱に浮かされるように、息が荒くなっていく。
滝沢は咲をベッドに横たえて、愛撫を続けた。
「あ・・・あの、滝沢くん・・・」
「なあに?咲・・」
「あの、足、大丈夫?」
「大丈夫。センセも歩くなっていっただけでしょ?咲を抱いちゃいけないとはいわなかった」
「な、そ、そんなこと、お医者さんがいう訳ないじゃない!?」
「ははは・・咲・・・咲とこうしてるのが一番の治療法だよ」
「滝沢くんったら・・・」
はははと笑いながら、滝沢は咲の体へキスの雨を降らしていく。そしてやがて、そっと、咲の両足を開かせた。
「咲・・・いい?」
「う、うん・・・あ、あ、あの・・・・滝沢くん・・・」
「なに?」
「私、あの。経験なくて。あの・・・こういうの、初めてで・・・」
「咲・・・俺だって、経験ないよ」
「え?」
「滝沢朗としてそんな経験、まったく覚えないよ」
「ええ?そ、そうなの。だって、滝沢くん、女の扱い、慣れているような・・・」
「俺が?ジョーダンでしょ?たぶん、彼女らしい彼女だっていなかったと思うよ。俺だって、すごくキンチョーしてるよ」
「滝沢くん・・・」
「俺・・・咲のことしか覚えてなかった。心の中にあったのは、ずっと咲のことだけだった。ただ咲を愛したい。咲が愛おしい。それだけ・・・」
滝沢は咲の右手をとって自分の胸にあてた。
「ほら、すっげーどきどきしてるでしょ?俺の心臓、バクハツしそう」
「ホントだ・・・」
滝沢は自分の右手を咲の胸の上に置いた。
「咲の心臓も、そうとうすごいことになってるね。どっきどっき言ってる」
「そりゃ、そうよ。だって好きな人にこうして抱かれて・・・その・・・結ばれようとしているんだもの」
「咲・・・かわいいこと、いうんだね。「結ばれる」か。そうだね、俺、咲と結ばれたい。咲と俺を一つに結びたい・・」
「滝沢くん・・・」
「咲・・・」
滝沢が咲の中にそっと入ってきた時、初めての痛みに咲はぐっと体をこわばらせてしまったが、滝沢の苦しそうな、張りつめた表情を見ているうちに、体のこわばりが緩んできた。大丈夫?痛くない?と何度も咲に聞きながら、滝沢は懸命に咲の体の奥に入ろうとしている。その表情は快感を味わっているというよりも、もっと必死な、真摯なものに見えて、咲は自分も滝沢をすべて迎え入れたいと、彼の背中を両腕で抱きしめた。
「さ・・きっ・・・咲の中、熱い・・・」
「う、うん・・・」
「咲・・・咲・・・」
「うん、うん・・・」
「俺・・おかしくなりそうだよ・・・」
「うん、うん・・・・・」
稚拙で、たどたどしい、二人の初めての抱擁だった。訳もわからぬ熱に押し流されるように、二人はお互いを求めていた。二人が初めての波にさらわれた時、お互いの名を呼びながら、お互いをきつく抱きしめていることしか、二人にはできなかった。
「咲・・・」
「う・・ん・・・」
「俺・・・無我夢中だったよ・・・咲、大丈夫だった?」
「うん・・・」
「咲。さっきから、うんしか言ってないよ・・・」
「うん・・・」
「ほら、また」
「うん・・・だって・・・」
「俺、咲をあんまり感じさせられなかった?」
作品名:Sweet Night 作家名:なつの