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空が落ちる日

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 謙也の言うことはいつだってまっすぐで、その髪色のように眩しくて、財前はそれが羨ましかった。わかっている、彼の言っていることは正しい、自分だって同じ気持ちだ、けれど。
 それはいつまで、正しいままであってくれるだろうか。
「光、好きや」
 いつまでも変わらへんよ。
 そう言う彼の声色は優しくて、その音色に縋りたくなってしまう。みっともなく感情をあらわにして、抱き留める腕を離したくなくなってしまう。彼の誠実さと優しさにすべてを委ねられない自分が嫌いで、悲しくて、それ以上にそんな自分を大切にしてくれる謙也が可哀想だった。
(変わらないものなんてあらへんねん、謙也さん。俺が白石先輩から部長を受け継いだように、あんたが中学を卒業して高校生になるように、いろんなもんは全部変わっていくんや)
「……謙也、さん」
 今自分の心の中を少しでも吐露しようとしたら、きっと謙也をひどく悲しませる言葉しか出ない。自分を慰めるように強く抱きしめる腕を、これ以上苦しませたくなくて、ただ一言だけ、彼の名前を呼んだ。それが今自分が彼に贈ることのできる唯一の言葉だった。
(謙也さん、好きや)
 その言葉が言えたらよかった。そうしたらきっと彼も笑ってくれた。けれど今の状態でそれを口に出してしまえば、きっと今保っている最後の砦のような物が壊れてしまって、自分の感情が滅茶苦茶に流れ出してしまいそうな気がして、怖ろしかった。もっと素直に置いていかないでと縋れたら、ずっと変わらないという彼の言葉を信じられたら、学ラン越しに全身を包むこの体温を永遠だと思えたら。それができない自分が哀れで、けれどやはり、間違っているとは思えなかった。
 何も言わず自分を抱きしめ続ける謙也の肩口から、財前は空を見上げる。変わらず鈍色の雲が垂れ込める空から、一滴、雨粒が落ちて、財前の頬に落ちた。そのまま重力に従って落下するそれは、まるで涙のようだった。
(やっぱり明日は、晴れてくれな困るわ)
 だって雨が降ってしまえば、涙を隠す理由ができてしまう。
作品名:空が落ちる日 作家名:えんと