灰色
会いたいの送信者
その日俺たちは、季節はずれの海へ向かった。
夏に一度来たことのある、あの海
苦い思い出があるなら、幸せな思い出だってあるこの場所
別にどーとか言うつもりはない。もう昔の話だ。
電車の中で、俺はただボーっと外を眺めてあの頃を思い出してみた。
まだ、夏生が緑間の彼女だった頃
いや違うな、あの海で合宿した時は既に別れていたんだっけ
だからまだ緑間を好きな夏生の心の隙間に漬け込んで、今俺の隣には彼女がいる。
随分と、悪徳なやつだな俺
奪う、とか犠牲、とか
今になって考えてみたらそりゃ、俺が失ったり犠牲にしたりしたものはただ一つ、緑間なんだ
仲が悪くなったりしたわけじゃない
むしろ上辺でだけ見るのなら、昔よりはずっと仲良く見えてると思う
それだけの話だ、それだけの、これ以上ない話。
視線を向かい側の夏生に向けると、折り畳み式の携帯を眺めてボンヤリとしていた。
「夏生?」
微動だにしない
聞こえてないのか?
俺はそっと夏生の横に座り、彼女の肩に頭を乗せ目線の先にある携帯のディスプレイを見た
「・・・は?」
『 あいたい 』
From:慎太郎と書かれたメール
夏生を見ればボロボロと瞳から大粒の涙が溢れ出る