黒と白の狭間でみつけたもの (14)
「どーして わるいヤツをみのがしちゃったの!?」
アイリスが声をとがらせて、アーティに迫った。
「……んうん。そりゃあ、追いかけたい気持ちはあるよ」
アーティさんも、納得のいかない表情はしていた。
「だったら!!」
「だって、奪われたポケモンにもしものことがあれば、僕たちはどうすればいいのさ?」
ベルの他にも、プラズマ団にはたくさんのポケモン達が盗まれていた。
大切な、誰かのパートナー達。
アーティの言葉に、アイリスは黙り込んでしまった。
プラズマ団のアジトとして使われているビル。
プラズマ団がいなくなったそのビルを、4人で手分けして、残されたポケモンの捜索に当たった。
出てきたり、見つかったポケモン達は10匹にも満たなかったけれど、彼らはアーティさんの手に渡り、持ち主を捜して返されることになった。
この後のビルの調査は、事件関与への証拠を捜すため、警察も含めての調査になるという。
見つかったポケモン達の数は、奪われたポケモンの数と一致しない。
何匹かは見つからないままだ。
手掛かりは、見つかるだろうか。
いなくなっているポケモン達のこと、そのトレーナーを思うと辛くなった。
捜索が終わり、ビルから出てきたというのに、気分の上がらない私たちに、ベルが言った。
「みんなありがとう!ムンちゃんとこうやって、また会えたのもみんなのおかげです!」
飾らない、ベルの温かい笑顔に、なんだかとっても癒された。
側にいるムンナも笑っている。
そうだよ。大切な友達のポケモンは取りかえせんだもの、もっと喜ばなくちゃね。
「ほんと、よかったね。ベル」
にっこりと微笑んだベルを見て、心が落ち着いた。
空気がなごむ。ありがとう、ベル。
「さてと、色々手伝ってもらって、助かったけれど、ボクはそろそろジムに戻らないとね。で、みんなはこれからどうするのさ?」
アーティさんが言った。
ビルの中の捜索にも結構時間がかかって、気がつけば空は夕暮れだ。
街には街灯がつき始めていた。
「……あたしは、ヒウンシティをいろいろ見て回りたいけど……」
ベルはそう言い出して、だんだんと語尾が小さくなった。
さっきのこともある、一人が不安なのかも知れない。
トウコが声をかけようとしたとき、アイリスが、ベルの手を握った。
「だいじょーぶ!! あたしがベルおねーちゃんのボディガード続けるから!!」
「アイリスちゃん……」
ほっとした表情を見せるベル。
ベルの手を握りしめているアイリスを見て、アーティはクスリと笑った。
「んー、いいねぇ。アイリスはとびっきりのポケモントレーナーだけど、この街は苦手みたいだし。それにほら、人もポケモンも助け合い! 助け合い!!」
笑いながら言うアーティに、アイリスは少しふくれている。
そういえば、ここにくるまでもライブキャスターで迷ったようだったし、もしかして、方向音痴なのかもしれない。
むっとしているアイリスをみて、トウコもクスリと笑ってしまった。
「あーもう!おねーちゃんまでからかわないでよ!」
「ごめん、ごめん!」
「あ、そうだ。おねーちゃん、ポケモン捜し手伝ってくれてありがと! これあげる!」
アイリスは、トウコに『ヤチェのみ』を手渡した。
「いいの?」
「うん、いっぱいあるから一つあげる!じゃあ、ベルおねーちゃんと行くところがあるから!」
アイリスはそう言って、ベルの腕を引っぱった!
どうやらベルを、ナビゲーターとして使うつもりらしい。
「あ、ちょっとお!」
強引に引っぱられ、ベルは仕方なくついていく。
「じゃあね、トウコ!また今度!」
「じゃーねー!!」
手を振る2人に、トウコも見えなくなるまで手を振った。
アイリスちゃんとは、もっと話をしてみたかったんだけれど、なんだか慌ただしい別れになってしまった。
駆けていくアイリスに連れられて、ベルの姿も見えなくなる。
そのうち、会えるといいな。
「じゃあトウコさん、ボクはジムで待ってるよ」
「あ、はい! また伺います!」
アーティさんもヒウンジムに帰っていた。
誰もいなくなったビルの前に、一人取り残される。
暗くなってきた空。
まだ明るいけれど、どこかへ行きたい気分にはならなかった。
「行こっか!タッくん」
側にいるタッくんの手を握りしめて、トウコは歩き出した。
海辺のメイン通りを歩いて、辿り着いたのはポケモンセンターだ。
センター内のホテルに、宿を取り、タッくんたちを休憩させる。
その間、夕食をとり、ポケモンセンターのラウンジで、雑誌を読んだりしていたが、どうも気分が晴れなかった。
体力の戻ったタッくん達と、今日の部屋へと行く。
真っ白なシーツの敷かれた、ベッドに横になってみても、何も感じなかった。
どこか空虚で、満たされない。
頭はなぜか働かなくて、何も考えられなかった。
ふと、背中に暖かさを感じた。
気づけば、タッくんと、ヒヤリン、テリムまで、トウコの側で体を寄せていた。
『大丈夫?トウコ』
『無理しないでよ、トウコ』
その声を聞いたとたん、ほろほろと涙がこぼれだした。
心配する3匹の心が伝わってきて、緊張が解けたようだった。
押さえ込んでいた、悲しみや、くやしさが溢れ出して、涙が止まらなかった。
「ごめん、ゴメンね…」
側にあった枕に顔を埋めた。
受け入れたくなかった。
Nが、プラズマ団だなんて…。
泣き出したトウコの側を、タッくんも、ヒヤリンも、テリムもずっと離れなかった。
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (14) 作家名:アズール湊