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【銀魂】短文まとめ【土ミツ】

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【二年と九ヶ月】2008.12.27

コンコン、と短くドアを叩くと、中から「どうぞ」という声が聞こえた。
ゆっくりとスライド式の真っ白なドアを開けると、中にはベッドが一つだけ置いてあり、そこには全体的に色素の薄い女が腰かけていた。
「十四郎さん?」
ベッドに腰かけた女は、一瞬驚いたような表情を浮かべた後、ニッコリと微笑んだ。
「見舞いに来た。」
終業式の一週間程前から体調を崩して入院したミツバを見舞いに行こうと言い出したのは近藤だった。
だが、見舞いの当日に近藤からは「すまん、トシ、どうやら風邪を引いたようだ」という、いつもより元気の良さそうな声の電話が掛かってきて、総悟は「許さない」と一言だけのメールが届いたきり連絡が取れない。
「その…本当は近藤さんと総悟も来る予定だったんだが…。」
モゴモゴと言葉を濁す土方を、ベッドの横に立て掛けてあった椅子に座らせたミツバは、その椅子に向き合うように座り直した。
「来てくれてありがとうございます、十四郎さん。」
「あぁ…」
近藤と沖田姉弟、そして土方は、小さな頃からの知り合いだった。
「だいぶ良くなってね、大晦日に一時帰宅するのを許可してもらえたの。」
「そうか…、よかったな。」

昔は皆同じ部屋で布団を並べて寝る、なんてことだってした。
ずっと変わらないと思っていた関係が、変わったのはたしか中学の卒業式。
入学以来、多くの男子生徒がミツバに憧れていたが、ミツバの周りにはいつも総悟がいて、ミツバに近付く男はすべて総悟流に排除していた。
初めの頃は果敢にミツバにアプローチをしてきていた男たちも、夏休みに入る頃には彼女の弟の姿に怯え、そういう目的で近づいてくる男は全くいなくなった。
だが、卒業式は違った。
先程も言った通り、ミツバは男子生徒に大変人気であったのだが、同じように、顔だけはいい総悟も、女子生徒からはかなりの人気があった。
卒業式、最後のチャンスに、総悟を我が物にしようと女子が必死に追いかけてくるのに恐怖をおぼえた総悟は、学校のどこかに隠れてしまっていた。

鬼のいぬ間になんとやら。
この隙を狙って、とある男子がミツバを校舎裏に呼び出したのだ。
その生徒は思いを伝え、そして何を思ったのか、ミツバの顔に自らの顔を近付けた。
その男子とミツバの唇が触れあう寸前、総悟と同じように女子から逃げていた土方はその様子を見て、反射的にミツバの腕を引き寄せた。
そして勢い余って倒れ込んできたミツバを抱えきれず、土方はミツバを抱え込んだまま地面に倒れてしまった。
なんとかミツバが下敷きになるのは防いだが、二人で地面に倒れ込んだ瞬間に総悟が現れ、何かを誤解して土方に向かって「姉上に触るな!」だの何だの叫んで、それ以来土方がミツバに近付かないようにずっと見張っていた。
だから、ミツバと土方が会話をするのは、その卒業式の前日以来、二年九ヶ月ぶりなのだ。

「クリスマスのイルミネーションは、もう終わってしまったのよね。」
「あぁ…」
「残念だわ。」
その事件以来、ミツバをただの幼なじみとして見れなくなった土方は、ミツバの顔もろくに見れず、会話も成り立たない状態なのに、ミツバは何も気にしていない様子で、ニコニコと笑い続けている。
「これ…。」
ついでに、とミツバの在籍するクラスの委員長から預かった色紙を渡し、自分たちからの見舞いの品も渡し、さっさと帰ってしまおうと、ほんの少しだけ腰かけたパイプ椅子をしまおうと立ち上がった。
「十四郎さん、もう帰ってしまうの?」
「は?」
「まだ、話していたいわ。」
土方の気持ちを知ってか知らずか、ミツバは土方の左手を、自らの小さな両手で包みこみ、上目遣いで土方を見つめる。
「………」
「もう少し一緒にいてください。」
そう言うミツバの視線に耐えられず、土方は一度しまったパイプ椅子をもう一度開き、先程の場所に置いた。
「ふふっ…やっぱり十四郎さんは優しいのね。」
そうやって笑い、土方の想いを知ってか知らずか、もう一度握り直してきた白い手を、握り返すべきなのか、どうか、土方はその後一時間ほど迷い続けるのだった。