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アズール湊
アズール湊
novelistID. 39418
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黒と白の狭間でみつけたもの (15)

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〈 第15章  若き王の出立 〉

巨大な白い王宮の中の一室。

白で統一された王座の間は、厳かな雰囲気であるが、どこかピリピリと緊張感が高まっていた。

原因は、中央の王座に座る、緑の髪の青年。

何やら考えに耽っている青年の表情は、どこか不機嫌で、頬に手をあて眉間にしわを寄せながら、黙り込んでいる。その左頬はどこかに激しくぶつけたのか赤く腫れ上がっていた。

王座に座ってから何も言わない青年の姿に、臣下は皆、困り果てていた。

気に障るようなことをした覚えは、誰にもなかった。

今回の作戦も、まずまずの成功を治めたというのに、王である青年の顔色は優れない。

左頬を腫らして帰ってきたことも、その不機嫌な理由さえも教えてくれず、城に帰ってきてからというもの王は一言も口にせず黙っていた。

何か王が気になさるようなことをしでかしたのではと、作戦に加わっていた者達は、皆気がかりでならなかった。

「N様、どうかされたのですか?」

「N様、腫れた頬を早く冷やされた方がいいのでは?」

「私、何か気分を害すようなことでもしましたでしょうか?」

「ああ、N様。なぜ一言も申されないのですか?」

口々に言い出す臣下をみても、Nの様子は変わらない。

眉間にしわを寄せたまま、どこか遠くを見て考えに耽っている。

まるで何も聞いていないかのようで、それがまた臣下の気持ちを不安にさせ、Nの機嫌を戻そうと、いっそう王にかける臣下の言葉に熱が入った。

広い室内にわんわんと響くその音をうるさがっているのは、Nの足下にいるゾロアだった。

イライラとした様子で耳を塞いでいる。

とうとう堪えきれなくなり、どうにかしろとでも言うように、吠えたゾロアの様子をみて、Nがようやく動く。

じろりと、喚く臣下を見つめた。

「少し黙っててくれないか」

ゾロアが可哀想だ。そういうつもりで言ったものだったが、臣下は凍り付いたように青ざめて、黙り込んでしまった。

しんと、静まりかえった城内に、足音が響き渡った。

紫のローブをまとって歩いてきた、ゲーチスだった。

彼はNの前まで歩み寄ると、深々と一礼した。

「N様…。いつまでもそのような態度では、皆が困ります。何をそんなに不機嫌になっておられるのですか?」

「不機嫌? ボクは別に怒っているわけじゃない」

Nにとっては真面目に言った答えだったのだろう。しかし、当人が思っているのとは別に、周りには本気でそう言っているのか、はなはだ疑問に思うくらいの強い口調にしか感じられなかった。どうして先程から、なだめられているのかも、当人はよくわかっていないのかもしれない。

「では、その眉間にしわをよせた顔をおやめ下さい」

ゲーチスに言われ、Nは額に手で触れた。いつもより膨らみが増した額にようやく気づいてか、眉間のしわは消えた。それでも、浮かない顔をして玉座に座わる。

その様子を恐々とみている臣下に落ち着かなさを感じたのか、Nはため息混じりに言った。

「すまない……、一人になりたいんだ」

Nの言葉に、ゲーチスが周囲に目を向けて、手を挙げた。

その合図をみて、王座の間に集まっていた者達が一斉に動いた。

七賢人に連れられ、青ざめていた臣下である団員達が、急ぎ足で部屋を出て行く。

不安げな表情を浮かべたまま、王を見つめ、彼らは王の前から姿を消した。

重い扉が閉められ、やがて静かになった王座の間に残ったのは、Nとゾロア。そして七賢人の統率者であるゲーチスだった。

臣下がいなくなって尚、態度の変わらないNをみて、物申す。

「N様、いつもの聡明な冷静さはどうされたのですか?あなたがそのように落ち着きがないと、統率力が乱れるのです。王として、あるまじきことです!」

「落ち着きがない? ボクはいつも通りじゃないか!ボクは一人になりたいと言った!ゲーチス、君も出ていってほしい!」

声を荒立てたNに、ゲーチスはぴしゃりと言う。

「それのどこが落ち着いているのですか?!わたくしが、どんな気持ちであなたが王になれるよう、ここまで育てたとお思いですか! 何にも動じず、ポケモン達の未来のために、改革を進められていたN様はどこへ行ってしまわれたのです!王としての振る舞いをお忘れになられたのですか?!」

ゲーチスの言葉に、苛立ちを覚えながらも、Nが黙り込んだ。

王としての振る舞いとは…。ゲーチスのお決まりの話が長々と続いた。

王座の周りを歩きながら、小さい頃から聞かされている話をゲーチスが繰り返す。

Nが王にふさわしくない行動をするたびに、彼はこの話を始める。

人間がいかに愚かであるか、残虐であるか、ポケモン達がいかに虐げられてきたか、それを救うために必要なこと。英雄として、王としてNが行っていかなければならないこと。ゲーチスの説教はいつも同じ事の繰り返しだ。

聞き慣れた説明を終えたところで、ゲーチスはNに向かい合った。

「あなたは、これから作られる王国の王として起つお方。感情的になられては困るのです。少し頭を冷やして頂きたいものです! 特に、最近のN様の動向には関心しておりません。ダークから聞いていますよ、トウコという少女と馴れ合っていると!」

「つけていたのか?」

自分の動きを監視されていたかと思うと、気持ちの良いものではなかった。不快感を見せるNに、ゲーチスが言う。

「王の身を守るのも我々の役目です。一人で出歩かれるあなたに誰も付かないとでもお思いでしたか? それにしても、わたくしはあれほど、外界の下々と関わるなと申しておりましたのに…。彼らは野蛮で、嘘つきで、信用できる者達ではないのです。王であるあなたの気質が穢れます」

「彼女はそのような者ではない!」

「情がうつりましたか? では、なぜ正体を明かしたあなたを彼女は受け入れなかったのです? ポケモン達のため、正しい改革を進めてきたあなたを、否定したのがどういうことかおわかりでしょう。彼らはポケモン達を傷つけている自覚もなければ、認めず、改めないのです。世界が変わるまで、自分たちの罪に気づくことはないでしょう。 そのために、我らは計画を立て、世界のポケモン達を救うべく取り組んできたのではないですか!」

「そんなことはわかっている!」

「ならば、もうそのような少女と馴れ合うのはお止め下さい。あなたは、この世界を変え、ポケモン達を救う救世主となるお方。本来の目的を、見失ってはいけません。わたくしは、N様に王として責任ある行動をして頂きたいのです」

じろりと、攻めるような鋭い視線でみてくるゲーチスに、Nはため息をついた。

「わかった…気をつける。心配しないでくれゲーチス、ボクは本来の目的を忘れているわけではないよ。必ずやゼクロムに認められ英雄になり、この世界を変えてみせよう。そのために、ボクはここに座っているんじゃないか…」

「おわかりならば良いのです。では、わたくしも失礼させて頂きます」

深々と一礼し、紫のローブをはためかせ、ゲーチスは王座の間を後にした。

ようやく部屋から緊張感が解かれ、ほどよい静寂が訪れた。

『オレ、やっぱりあいつ嫌いだ』

足下でうずくまっていたゾロアが言った。