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アズール湊
アズール湊
novelistID. 39418
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黒と白の狭間でみつけたもの (15)

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「そういうことは言ってはいけないよ、ゾロア」

そう言いながら、ようやく緊張感から解放され、Nもホッとしていた。

左頬に触れる。まだ腫れているようで軽い熱をもっているが、痛みはさほどない。それよりも、胸の方がズキズキと痛んでいた。彼女に叩かれた後に言われた言葉が、まだ耳に残っている。

「嫌われてしまったな」

そう思うだけで、なんだか落ち着かず、寂しく、腹立たしい。どうしてこんなにもイライラするのだろうか。彼女を泣かせてしまった自分自身に腹が立っているなんて、不思議な気分だった。まるで自分が間違っているかのような気がしてくる。

ポケモン達の心さえわかり、ポケモン達のことをあんなに思っている彼女が、どうしてあれほどにプラズマ団である僕らの思想を嫌うのかはわからない。あの街のポケモン達でさえ、受け入れてくれた答えだというのにだ。

自分がプラズマ団だと気づき、本気で怒ってきたトウコ。怒りながらも、哀れむような目でみつめてきて、まるでこちらが悪いことをしているかのような気にさせられた。

ポケモン達を解放するため、決して間違ったことをしていないはずなのに。

導き出した理論。数式。その答えが間違っているというのか?

「ゾロア、ボクは間違っているのか?」

『N……』

寂しげなNの表情を見て、ゾロアは答えに困った。

『傷ついたポケモン達を助けようとする、Nの行動は間違っていないと思うよ…。トウコ達だっていつかは…』

そう言って、黙り込んだゾロアの頭をNは優しくなでた。励まそうとしてくれているのがわかる。心配させてしまっていることに、申し訳なさを感じた。

「すまない、ゾロア。ボクがこんな事を言っていては、世界を変える事なんてできないね。もっと強くならなければ……。誰もが認めるくらいでなければ、ゼクロムはきっとボクを主だと認めてくれない」

ゼクロムに出会うまで、その計画の中でトウコにはたびたび出会うことになるだろう。少し先の未来が見えてきている。彼女との対立は恐らく避けられない。

胸がズキリと痛んだが、やるべきことはしなければいけない。

トウコに嫌われてしまったのなら、いっそのこと、こちらも嫌いになれればいいのだが、どうも心は複雑で、彼女を嫌いになることはできずにいる。いつかもう一度笑いかけてくれたらとさえ思う。もしかしたら、これからずっと恨まれる対象になるかも知れないというのに、それでも彼女への好意の気持ちは変わらない。困った心情だ。

英雄になり、王となれば、彼女も認めてくれるだろうか。

世界を変えれば、いつか彼女も、もう一度笑い返してくれるかもしれない。

「ゾロア、これからトウコと戦うことになっても、君はついてきてくれるかい?」

『当たり前だ!トウコのことは嫌いじゃないけれど、オレはいつだって、おまえの味方だ!何があっても、Nについていくから心配するな!』

Nを見上げ、ニカッと笑うゾロア。

彼はいつでも味方。そう思えるだけで、心の負担が軽くなった。Nはゾロアをそっと抱き上げた。

「ありがとう、ゾロア。これからも君の力を借りることも多いだろう、よろしく頼むよ!」

『まかせろ!』

ゾロアの笑顔を見て、Nも微笑んだ。

「ライモンシティに向かおうか。ゼクロムに出会うため、僕らは早く強くならなければ!」

そう言って、Nは他には誰もいないはずの広い王座の間に声をかけた。

「いるんだろう、ダーク?」

「はい、N様」

Nの声に、黒装束の男が姿を現し、彼を前に膝を屈した。 

ゲーチス直属の配下であり、プラズマ団の暗部部隊。ダークトリニティ。Nの動向を常に監視していた彼らのことだ。今の話も聞いていただろう。

「ボクはこれからライモンシティに向かう。しばらくここに戻るつもりはないから、ゲーチスにそう伝えておいてくれ。作戦にはちゃんと参加するから心配するなとも」

「はい。ですがもう夜も更けましたし、明日にされては…?」

「いや、僕らは今から向かう。明日、朝になってからでは、僕らが旅に出ることをあまり良く思っていない七賢人やら、女官達がうるさいだろう。何かあればライブキャスターにでも連絡をくれればいい。どうせお前達の1人がついてくるのだろうし、問題ないだろう?」

「了解いたしました」

そう言って、ダークトリニティの1人は姿を消した。

旅に出ると聞いて、ゾロアは思っていた以上にはしゃいでいた!しっぽをぶんぶんと振っている。

『やったぁ!N!! ほんとにしばらくここに戻らないのか?』

「ああ、ここにいても息がつまるだけだろう。七賢人達の用件を、毎日聞いているのにも疲れた。普段は王宮にこもり、作戦のたびに外にでる生活も煩わしい。ゼクロムに会うという目的は変わらない。なら、ボクが単独で動いたところで変わりないだろう。連絡はいつでもとれるのだから」

長い間、生活してきた自分の部屋でさえ、最近はどうも落ち着かない。居心地の良かったはずの空間だった。しかし、外の世界に出てトウコ達に出会ってからというもの、あの狭い空間にいるのが、どうも苦痛になってきていた。

『じゃあさ、ダルマッカ達も連れて行こうよ!』

「もちろんだ。支度をしたらすぐに出よう」

Nは自室に戻り、急いで支度を終えると広い王宮から抜け出した。

外はすっかり夜も更けて真っ暗だったが、その静けさが逆に心地良かった。

澄んだ空気を吸い込み、大きく息を吐いた。

後ろからダークが付いてきているのはわかっているが、いつも問いつめるように慕ってくる臣下がいないと思えば気が楽だった。

「さぁ、行こうか」

暗い夜道を歩きだし、Nはゾロア達と共に、ライモンシティへとゆっくりと向かい始めた。