待ち時間の間に
最初のひとつはともかく、残りのふたつはこれで解決できるはずだ。
……もう遅いけど。
ニタニタと笑って自分をおもちゃにしているバジルをギリッとにらみつける。
「あ? なんだよ、その目は」
許さない。絶対に許さない。許すもんか。
不愉快そうにしたバジルの一瞬の隙をついてドンッと両手でバジルの胸を勢いよく押す。
体勢が崩れたところを起き上がってさらに崩れさせてパッと立ち上がる。
床にしりもちをつくはめになった潔癖症のバジルが当然のごとく怒ってにらみつけてくる。
「アンディ、てめぇなぁ……っ」
近付かない、近付かせない、近付かない。
……でも、もう遅い。
となったら。
許さない。絶対に許さない。許すもんか。
こっちのほうが重要だ。
アンディは『こんな汚い床に座ってられるか』とばかりにさっさと立ち上がろうとするバジルの上にまたがった。
「あ?」
どさりと腰を下ろすと、ケンカ腰の視線を投げつけるバジルを見下ろし、虫歯で痛む口を開いた。
「……バジル」
名前を呼ぶと、アンディを見上げるバジルの目がいっそう鋭くなる。
「……なんだよ」
アンディはかまわずバジルのネクタイをつかんだ。
「殴ろうってのか。……ん!?」
せせら笑ったバジルの顔が驚愕に歪む。
でもアンディはそれを見ていなかった。
ぐいとバジルのネクタイを引っ張り、その仰向けの胸に倒れこむようにして、バジルの唇に自分の唇を押し当てていたからだ。
ちゅうううぅぅ~っ。
舌突っ込んで唾液をおくり込むようにして唇を合わせる。
熱心に深いキスをする。
「……んんっ……!!」
バジルが我に返って慌て出したところで、アンディはぷはっと口を離して息を吐いて、鋭く細めた目でバジルを見下ろして、平然と言った。
「……虫歯、うつるといいね」
「……ああ、てめっ……」
額に青筋立てたバジルを放って、立ち上がり、扉に向かう。
もうこんなところに一刻もいられるもんか。
プンプンッ。
後日談。
「アンディ……おまえ俺の上に乗ってキスしてきたってことは、その気があんのか?」
もう虫歯も治療して気分の良くなったアンディは、近付いてくるバジルを避けることもなく、その訊ねられた内容に首を傾げる。
なにやら垂れ眉をひそめて大きな水色の目でじっと窺うように自分を見つめてくるバジル。
上に乗ってキスをしてその気……ああ。
ようやくお訊ねの意味がわかったアンディはあっさりと返す。
「え? 別にないけど」
「……」
ハァ……とバジルが大きなため息を吐いた。
(おしまい)