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剣ノ一声

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第一章 目覚め 






今から幼少時代、俺は幼いころから「ヒーロー」に憧れるごく普通の少年だった。それから「白騎士事件」で両親を失っても、それでも、俺はヒーローを信じ続けた。それなのに・・・・

                                           *

「いいじゃんか!神社はみんなの物だろ!?」

当時六歳、篠ノ之神社を舞台に俺は友人の勝山とヒーローごっこで遊んでいたところを神主の娘である篠ノ之箒に絡まれていた。彼女が言うには「ここは神聖なる地であるから即刻立ち去
れ!」だと。

しかし、神社というものは本来公共の場であり、お参りにきたりする皆の建築物だ。確かに神聖なる場所であってもイタズラをしない限り遊んでもいいじゃないか?俺は勝山と一緒になっ

て講義を飛ばし合っていた。

「神社は遊びの場ではない!神聖なる間である。お前たちのような怪我だらけの男子などが入るなどもってのほかだ!」

傷だらけ、俺と勝山の手足には遊んで扱けたりして出来た擦り傷や何やらが所々にある。これこそいっぱい遊び込んだ証しなのだ。しかし、だからといってそれが何だっていうんだ!?

「それはあんまりだよ?別に僕たちは神社にイタズラとかしたりしないよ?ただ、この広い庭で遊びたいだけさ?何なら君も一緒に遊ぶ?」

里の中で最も優しくお人よしの勝山は出来るだけ喧嘩沙汰を避けようと箒に和解を求めている。しかし。

「私はお前たちと違って幼稚に遊んでいる暇はないんだ!邪魔だから出て行ってくれ!!」

「な、何だよ!?その態度!!」

俺は勝山の優しい声を無視して乱暴に言い返した箒に激怒を覚えた。あいつは完全に俺たちに喧嘩を売っているようだ。それなら俺も考えがある。ふと、足もとに転がっている太い枝を手

にとり、その枝先を竹刀を片手にする箒へ向けた。

「勝負だ!俺が勝ったらこの神社で遊ばせろ!」

「ほう?無謀だが受けて立とう!そのかわり、もし私が勝ったら二度とこの神社には足を踏み入れるな」

いざ、尋常に勝負!・・・・・・・・・・だが、箒は小学生の剣道県大で何度も優勝しているという凄腕剣士。ヒーローごっこでしか剣を見立てた棒を振らない俺たちとは格が違いすぎ

たのだった。

「ぐはぁ!」

案の定、惨敗だ。俺は地面に倒れ、頭中がコブだらかになっていた。

「い、一斉大丈夫か!?」

慌てて清二が駆け寄り、俺を抱え起こしてくれた。しかし、俺の状態は彼の想像以上のやられ様だった。これなら泣いてもおかしくはなかった。

「わかったならさっさと立ち去れ。そして、二度とこの神社には足を踏み入れるな!」

「・・・・ちくしょう!」

ヒーロー気取りで清二の前でこんな情けない姿を見せてしまった。俺は苦汁をなめ、悔し涙で自宅へ帰宅した。帰宅途中、清二は俺のことを思って何も言わないでくれた。言うにしても

明日は何処そこで遊ぼうとかそういった打ち合わせを持ち合わせてきただけ。俺のプライドに気を使って何も言わないでくれているんだ。

「ごめん、清二。負けちまって・・・・・・・・・」

玄関先で俺は深々と彼に詫び入れた。元はと言えば俺の勝手な果たし合いで神社で遊べなくなったのだ。しかし、そんな俺に清二はにこやかに笑って気にしないでくれた。

「気にするなよ?箒は一斉以外の男子でも敵わない存在さ?太った俺なら一頃でノックアウトだろうな?その分一斉はよく耐えたよ」

「・・・・・・・・ごめん」

「いいって?じゃあ、明日は小川で集合な?」

そう気楽に手を振り続けて清二は自宅へ帰宅していった。俺は情けない気持ちを抱えたまま自宅へと入った。ちなみに俺の家庭は両親があの「白騎士事件」で死んだことによって今では

姉貴と二人で暮らしている。姉貴はまるで母さんのように優しく接し、寒い夜の時期には俺を抱きしめて寝てくれる。俺にとって欠かせない大切で自慢の姉であり、母でもある。

「ただいま・・・・・・・・・」

傷を見せつけるように俺は台所で夕食の支度を行っている姉、鶴来雪芽へと歩み寄った。姉貴は俺の身形を見るなりまた道端で転んだのだろうと思い込んで普通に「おかえり」と言った。

夕食をとるとき、姉貴は勢いよく飯を頬張る俺へ今回で来た傷の原因を尋ねた。

「ところで、今日は清二君と何処へ行ったの?」

「・・・・・・・ええとぉ?」

ここで箒と喧嘩して返り討ちに合ったと話したら心配するしそれに男として情けない。ここはひとまず、うまく誤魔化そう。

「・・・・・一緒に駄菓子屋へ行ったんだ」

「駄菓子屋さん?でも、お小遣いなんてあげたかしら?」

「え、いや・・・・・その?」

しまった!今日は小遣いをねだらずに清二との約束の場所へ駈け出して行ったんだった。俺はとっさに口元を塞いだ。それをみて姉貴は俺の態度をあやしく見つめる。

「ははーん?何か隠してるな?」

「ち、違うよ!・・・・・・・・・ちょっと神社の石段から転んだ」

「石段?それなら今度から気をつけてね?角っこでも当たったら大事だからね?」

「あ、うん・・・・・・・」

あせりながらもどうにか誤魔化したかに見えた。しかし、今回は今までと違ってやけに傷の箇所が多いことに気づいた。おそらく姉貴もその姿を目に心配したんだろう。

「ふぅ・・・・」

夕飯を食べ終えたところで今日はひとまず隠し通したと一息をつく俺だが、俺の背後で食器を洗う姉は。

「今度からあまり喧嘩はしないでね?」

・・・・・・・・結局はばれていたのか。



その夜、俺はとある夢にうなされていた。真夜中の土手を歩み、篠ノ之神社へと辿り着いた。その神社の際具典には一刀の軍刀が御札を貼られ、荒縄で縛りつけられていた。まるで何か

を封印しているかのように。そして、その場に居合わせた俺に謎の声がこだましてくる。

(選ばれし日本男児よ・・・・・・・今こそ、この歪んだ世界に革命をもたらせ。何れ来るべき時に再びこの場へ訪れよ・・・・・・・・・・・)

「・・・・・・・・・・・?」

(人の子よ・・・・・鶴来一斉、そなたが思いを寄せる強き善の道へいざ導かん・・・・・・・・・・!)

                                         *

それから数年後、今でもあの夜の夢は忘れられず俺の記憶に深く刻み込んでいる。気づけば俺はすでに十六となり田舎高校へ入学して農業のバイトを清二と共に営んでいた。正直、この「女尊

男卑」の世界なため、今時男を雇ってくれる業者は極端に少ないのだ。それどころか、俺の町でも徐々に女尊男卑の風習が迫り寄ってきていた。ここまで進行する差別社会を目に俺は日々

この世界を嫌っていった。勿論、姉貴も。

姉貴はあの事件当時、目の前で死んだ両親の遺体を目にISに関連する物とは一切耳に入れず、両親の仇として俺と共に敵視している。そして、今日も嫌な一日が始まる。

「一斉?起きなさい」

「ああ、今起きたよ・・・・・・・」

甲高くなる目覚ましのアラームを止めて自室から居間へと移った。卓袱台には姉貴が焼き魚をセットにした豪勢な朝食を並べておいてくれる。朝から食欲の湧く献立である。
作品名:剣ノ一声 作家名:伊波鷹元