剣ノ一声
第九章 良治怒る
ガシッ……
「……!?」
しかし、その突如。そこには良治の持つ軍刀の握り手を掴む千冬がいたのだ。
「貴様、何をしている?」
「……何や?先生か……」
良治は舌打ちを返すと、一斉達の下へ戻っていった。幸いな事とに凰には気付かれていなかったのだ。とんだ邪魔が入ったと軍刀の紫電も苛立ってしまうものの、
「何の真似だ?」
「いや、ちょっと真剣の手入れってな……」
そうごまかすと良治は大人しく軍刀を鞘へ収めて、その場を離れた。
「それにしても、あの担任の女……名を千冬といったな?」
そう一筋縄で成功する事は出来ないだろう。あの見破りと目つきは並大抵の目つきじゃない。すこし侮っていたようだと良治はつい舌打ちをした。
「お、おい!何やってんだよ!良治」
席へ戻ったところを一斉達に捕まり、しつこく注意を受けた。何せ軍刀を抜いて凰を殺そうとしたんだ。もし下手して失敗でもなれば国際問題になる。
「スンマセンな?これがウチのやり方やさかい」
「無茶するな!それに、相手はムカつく中国の代表候補生って言っても……」
「一斉はん?任務はどんな手を使ってでも遂行しなけりゃあ、あきまへんのやで?酷いように見えようけど任務のためには多少の殺生は仕方がないんや?」
(そうそう、だって気持ちいじゃないか?気に食わない奴を殺すって言うのはさ?)
と、紫電が割り込んできた。そんな彼の毒乱に竜蔵と紗江が激怒した。
(貴様!まだそのような外道を抜かすか!?)
(最低!あんた妖魔と同類なんじゃないの!?)
このことから見て二人の英霊がこの紫電とやらを嫌っているのがわかった気がする。
「とにかく、死人が出ない方法で頼むよ?俺達は人殺しをしているんじゃないんだから……」
「まぁ、そうやけどな?」
「気をつけてくれよ?失敗でもしたら退学になるんだから」
「大丈夫!仮にそうなってもイスルギがどうこうしてくれるけん。あ、わてちょっとトイレ……」
すると、良治はトイレと見せかけて一回の屋上へと抜け出していった。次の時間は彼の嫌いな数学であり、適当に理由でも言ってずるけるつもりなのだ。どうせ自分には関わりの無い学
園のため成績などは一切関係ない。そして屋上にて大の字になって大空を見上げていた。透き通った青空を目に良治は過去の回想に浸った。
「おとん、おかん……今頃二人は天国でなにしとるんやろうな?四六時中夫婦喧嘩でもしてシャカ公を困らせてないとええけどな?」
今、こんな世界を見たら両親や武家だった自分の先祖達はどう思うだろうか?こんなみっともない世界は妖魔に滅ぼされてしまったほうが世のためなのだろうか?それともまだ世界には
チャンスがあるというのか?この年になって善悪の判断がつきにくくなった。どうせ、この世界には正義なんてありはしないだろうな?
「はぁ〜……」
そう深くため息をついたときだった。昼寝にでもありつこうとしたところを誰かのすすり泣きで睡眠を逸らしたのである。
「……ん?」
一旦起き上がって声のするフェンス側へ歩み寄ってみると、そこには一人の生徒が泣きながら金網をよじ登っているではないか?彼女は上りながらブツブツと呟きながら泣きじゃくって
いる。良治はあの行為を目に急いで飛び出した。
「ま、まてぇい!!」
「……!?」
生徒が振り向いた頃には自分の片足を良治に捕まれ、フェンスから引き下ろされてしまった。彼女は自殺しようとしていたのだ。
「お願い!死なせて!?」
「ドアホ!親より先に行く子がどこに居るんや!?」
両脇を鷲掴んで生徒の動きを止め、どうにか彼女を落ち着かせる事が出来た。良治はため息と共に未だに涙が止まらない彼女と向かい合って座ると自殺しようとした事情を聞きだした。
どうせ男に振られたか、周囲からのプレッシャーとかいうベタな理由かと思ったのだが、その内容は良治でさえも怒り狂わせる内容ともなった。
「クラス代表?」
「はい……私、一生懸命がんばってようやくISの操縦も上達して代表生になったっていうのに、突然転向してきた中国の代表候補生に代表の差を横取りされちゃったんです」
「な、なんやって!?」
「私は認めたくないので否定しました。けど、私より専用機持ちの候補生のほうが状況的に有利だと言われて、クラスメイト達は大賛成し、私は代表から降ろされました」
「それで、自殺を……?」
「一生懸命ISの操縦をつんできたのに……努力って簡単には実らないものなんですね?」
「……」
すると、良治の心の中にはとある怒りと闘士が湧き出てきた。先ほどまで気軽な心で通ってきたものの、今はっきりと決心がついた。どんな手段を使ってでもあの中国候補を学園から引き
ずりだしてやると。
「本気でわてを怒らせたな?中国……!」
拳を震わせると、良治は中国代表候補生の凰鈴音の完全除外を決意した。どんな手を使ってでも代表候補の座から引きずり出して二度とISに乗せないようにしてやる!と……
(良治、またリストに載ったな?)
軍刀から紫電の残忍な口調か良治の脳心から届いた。
「ああ、けど野放しにはできへん!殺さずに心身共に痛めつけちゃる!」
*
それから昼休憩、生徒一同は食堂に集まりそれぞれの食券を購入しては友人達と会話しながら席で料理が出来上がるのを待ち続けている。勿論俺達もその中の一人として販売機の列に並
んでいたのだが……
「おい、早く行けって?」
さっきから五分も販売機の前で立ち尽くしている小柄な凰に苛立っていた。早く食券を出しに厨房の方へ行けってんだ!
「あ、あのさ?後かつかえているから……いいかな?」
俺と違って清二は温厚に問いかけるのだが、こいつが優しくしてもこの凰っていうツインテールチビは振り向きもしないで誰かを待っているそうだ。俺はついに腹が立って彼女の方を掴
んだ。掴んだはずだったのだが……?
「なっ……?」
いつの間にか俺は床に倒れていた。素早い身のこなしで俺はこいつの会得している中国拳法に引っ掛ったようだ。これは度素人かと思い油断してしまった。
「静かにしてくれない?あたしは今人を待っているんだけど!?」
「こ、こいつ……!」
俺は腕を震わせて必死で殴り返そうとするのを押さえた。だが、白目になりつつある俺の変わりにアイツが、良治が前に出た。
ドンッ……
まるで良治が凰に全く気付かないかのように彼女を身体で突き飛ばし食券を買った。それどころか俺達の分の食券も買ってくれたのだ。
「ほら、一斉、清二、弥生ちゃん!今日はわてのおごりや!」
「お!気前がいいな?どうしたの?」
食い意地のある清二は大喜び、弥生は突き飛ばさてしりもちをつく凰に心配の視線を、そして俺は弥生と並んでこのチビを見下すかのように見下だすかのような視線を。
「ちょっと!なにすんのよ!?」
「あん?」
鈍く反応して良治は振り返ったが、わざとだろうか?凰には全く築かない様子。
「おっかしいな?声だけは聞こえるはずやけど……」
「ここよ!ここ!!」