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伝説のヤンキー

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あんた、大屋さんや乙女会、マリーキャプテンに対して劣等感を抱いてて復讐することで欲望を満たしていたんだよ。真正面から勝てない相手をやっつけた爽快感と宇集院をヒーローとしてシンボライズ化するという欲望を同時に叶えていたね」

 忍は冷静だった。

「ちがう! あいつらは調子に乗りすぎていたんだ! だからやったんだ」
「あんただって十分お調子者じゃないの!?」
 あいが嘲るように笑った。

「〝伝説のヤンキー〟ぶって正義の味方を気取っていたんですもの。は、実態は女子の実力を怖がる気の小さい脅迫神経症男じゃないの」

 あいの毒舌は留まることがなかった。うらみは相当に深いようだ。

「……どうでもいいことだけど、大屋さんのまわしってどうやって細工したの? 男子であるあんたが、長いこと部室に入るなんて危険すぎただろう?」

 重い話題に耐え切れなくなった竜子は意図的に方向を変えた。


「ふっ、そんなの簡単さ。あらかじめ細工をしたまわしと交換すれば時間なんてとらない。部室なんて入るまでもないね。相撲部のマネージャーは、個人名を書いた袋にまわしを入れて持ち歩いていたから擦りかえるなんて簡単だった」

 それだけ聞くと誰も口を開くものはなくなってしまった。後は郷剛太郎をどうするか、ということだけだった。


「頼みがある……おれは学校を辞める。その後で警察に突き出してくれてもいい。だからサッカー部にだけは迷惑をかけないでくれ! 頼む!今回の件はおれひとりがやったことなんだ。宇集院キャプテンも他の部員も全く関係ないんだ! おれのことはオマエらの気がすみまで好きにしたっていいから!」


 マジックでラクガキされたぶっとい眉毛顔の剛太郎の姿は真剣になるほど滑稽だった。 もう十分しんのすけたちの好きにされていた。


「学校は辞めさせないわよ」

 その時マリーが部室の戸口に現れた。そして……みさえ、ますみに促されて宇集院が登場した。

 部室にいた皆は驚いた。

「マリーちゃん!」「キャプテン!」
 剛太郎は真っ青になって震えだした。

「剛太郎、話は師走くんから聞いたよ」
「すまない……すまない!すまない!」

 震える剛太郎は、宇集院の前の床に頭をすりつけた。

「おまえがニセモノヤンキーだって聞いてビックリしたよ。……けどなぁ、おまえちょっと無茶しすぎだぞ。今日はその足でボールを蹴り続けたんだってぇ? 師走くんに向けて。ボロボロの靭帯を誰かを傷つける代償にするなんて、サッカーしてきた足に対して失礼すぎるんじゃないか? おれは幼馴染として許せない……一緒にフィールドを駆け回ってきたおまえの足に代わって怒る」

 その言葉を聞いた瞬間、剛太郎は大声で泣きだした。


「これからもサッカー部員としてがんばれ。地道に靭帯の治療を続けながらボールを蹴れない状況は、とてもツライだろう。けど、サッカーから逃げるな、自分から逃げるな。それが傷つけた人たちに対するおまえのつぐないだ」

 宇集院は剛太郎の手を持って、顔をあげさせた。

「顔をあげろ剛太郎。おまえは郷剛太郎なんだ。宇集院魔朱麿じゃない。傷ついてボロボロになって、誰からも相手にされなくたっていいじゃないか。そんなことより、自分に対して誇りがもてないようなことをするな。人が何をしようと、そんなことがおまえには関係ないんだ。完璧に見える人間だって悩んでるんだ。自分だけが不幸だなんて思うな」

「ま、魔朱麿ぉ……」
 剛太郎は泣きながら何度もうなずいた。

「ふ、ふ、ぶははははは!!!」
 剛太郎の顔をじっと見ていた宇集院はこらえきれずに笑い出した。

「剛太郎! その格好、すっげー似合ってるぞ。今からこの部室の片付けをその格好のまましろ。おれも手伝うから。皆! すまない、ここはおれたちできちんと片付けるから!……それで許してくれないか? こんなことで償えると思えないけど……キャプテンとして、おれもあやまる、すまない」
宇集院が頭を下げた。

「いいよ。郷くんは学園にいたほうが大変そうだからね。宇集院キャプテンにまかせる。よーし、掃除は皆でやろう。その方が早く出来る」

「おお、やろう、やろう」
マリーの言葉に新聞部&フットボール部員たちも動きだした。

 少し離れた廊下で、大空先生がその様子を見ていた。
 マリーは親指を立てて、そっと合図を送った。




「キャ、キャプテンすまない、今日は練習に行けそうにない!」
 竜子が腰をおりながらマリーに訴えてきた。

「なによー おなかでも痛いの?」
「じ、じつは……そうなんだ…… うっ、また!」

 ゴロゴロという鼓腸がしたかと思うと、竜子はトイレへ走っていった。

 その後数日は、ななことしんのすけ以外の部員は次々とおなかを壊してダウンした。もちろん、サッカー部にいる郷剛太郎も例外ではなかった。

(完結)
作品名:伝説のヤンキー 作家名:尾崎チホ