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伝説のヤンキー

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ぶりぶりざえもんの足跡



ぐるぐると縄跳びのなわで縛られた郷剛太郎(ごうごうたろう)は、めちゃくちゃになった新聞部&フットボール部の部室で部員たちに囲まれていた。

「許せませんわ!あたしにあんな恥をかかせるなんて!」
 酢乙女あい、は剛太郎に今にもとびかかりそうだった。

「郷剛太郎! これを見ろ!オマエのせいで部室がめちゃくちゃだ。オラは絶対に許さないゾ! 明日のパーティにはチョコビも出る予定だったんだ。それをこんなにめちゃくちゃにしたら、パーティが出来ないじゃないか! 

もし明日チョコビを食べられなかったら、オマエを地獄ぶりぶりざえもんの刑にしてやるからなっ!」

「しん様!あたしのカタキをうって! 」
 あいだけがエキサイトしている。

「しんのすけ~その地獄ぶりぶりざえもんって刑、今したら?」

 トオルはあきれていた。結局、剛太郎をメインで捕まえたのは忍や竜子たちだった。しんのすけは、がんばれー、やれやれ!と応援するだけで何もしていない。


「……仕方がない、そうまで風間くんにおねだりされてわ。ん、もうワガママなんだからぁ。では、今から地獄ぶりぶりざえもんの刑を実施する! 覚悟はいいかっ!?」
 
 当然、剛太郎が返事をするハズもない。ボロボロになった制服のまま、しんのすけを睨みつけるだけだった。ただ、地獄ぶりぶりざえもんという刑に不安を覚えているのは確実だった。

 しんのすけは不意にマラカスした。
 みんながごくりとつばを飲んだ。 

「うーーーーー マンボ!」

 軽快にマラカスを振ると体をくねくねと踊りはじめた。

 しんのすけは踊りながら、剛太郎にブタ鼻をブチュとくっつけた。そして、あばれる剛太郎の手にブタのひづめをはめ、制服を脱がすとアラビアンナイト風のバルーンパンツを穿かせた。顔にぶっとい眉毛をマジックで書き、最後に刀の形をした千歳飴を腰に差した。

「おーーーー ぶりぶりざえもん!!! 」

 わははははは

 おかしなコスプレをみて、皆は剛太郎を囲んで大笑いをした。剛太郎は怒りで顔を真っ赤にさせている。

「こんなもんじゃないゾ! これは、ぶりぶりざえもんの格好であって、地獄ぶりぶりざえもんはこんなものじゃないんだ!」

「どうするのさ?」
 トオルたちも気になった。

「おそろしー、おそろしー、きゃ~、口にするのもおそろしい……けど、仕方ない! オラは地獄ぶりぶりざえもんを実行しなければならない! それが正義の味方の宿命だからだ!」

 皆が再度つばを飲み込んだ。それは単なる興味からだった。

「じゃぁ、いくぞっ!」

 しんのすけは、先ほどより激しくマラカス・ダンスを始めた。左右のマラカスを投げて交換したり、尻だけダンスを組み入れたりして長く踊った。

「ふぅ~ 疲れた~」
 しんのすけはトオルの前に腰を下ろした。

「なんだよ! それ!」
「なんだっけ?」

「地獄ぶりぶりざえもんの刑だろっ!」
「おおおおっ! そーだっ! おい、まいったか! このダンスを見たものは1週間以内にひどいお下痢をするんだ!わははははは」

「ええええええっ!」
 周りにいた部員たちがいっせいに驚いた。当然、皆も見ていたからだ。


「なんで、それを早く言わないんだよ!おれたちも見ちゃったじゃないかー」
 トオルがしんのすけに詰め寄った。

「ほーほー、仕方ありませんなぁ」
「しんちゃん……」
 涙を浮かべたななこに、しんのすけはハッと気がついた。

「おお!ななこちゃん! 大丈夫です。ななこちゃんには、この地獄ぶりぶりざえもん解毒剤をプレゼントいたします」
 クッキー状になった菓子をななこに手渡した。

「おれたちにも分けろよ!」
「じゃ、ひとつ一億万円でお分けします」

「アホかー!」
 ぶりぶりざえもんのお金に汚い性格がしんのすけにも乗り移っていた。一億万円・請求書、と書いた紙を剛太郎の胸に貼り付けた。


「どうして師走マリーさんを狙ったんだ!?」

 ぶりぶりざえもんの刑で屈辱を味わっている剛太郎に、トオルがイライラと質問をした。なんだかどっちが被害者だか分からない気持ちだった。剛太郎は答えようとしない。

「そんなんじゃ、ダメだよ、風間。あたいにまかせな!」
 竜子が剛太郎の前に立ちはだかる。下から見上げたスケバン姿の竜子は迫力があった。

「あんたさぁ、このまま黙ってて何とかなると思ってるわけ? あんたがサッカー部の人間って事忘れてるんじゃない? あたいたちはね、この事件をきっかけにサッカー部を廃部にすることだって出来るんだよ。これは明らかに悪質な傷害事件だからね」

 剛太郎の顔色が変わった。

「ほほほ、もちろん今日の事はばっちり赤外線カメラにおさめてありますわ」
「だ、だましたんだな!」
 酢乙女あいの言葉に剛太郎は吠えた。

「人聞きが悪いねぇ……あんたの事はさ、もう見当がついてたんだよ。あやしまれずにキャプテンの机に数学の問題用紙を入れるなんざクラスの人間にしか出来ないんだよ。クラスメートでサッカー部員のうち、問題を手にいれられる立場の人間っていったら……数学の郷先生の弟であるあんたしかいないんだよ」

 神田鳥忍のおさえた低い声は、穏やかなだけ説得力があった。剛太郎も観念した表情になってきていた。


「まずったねぇ。乙女会や女子相撲部くらいにしときゃアシがつかなかったのに……宇集院が一番の容疑者だったのにね」

「それじゃ、困るんだ……」

 はじめて郷剛太郎は口を開いた。
 皆は真剣な顔をして剛太郎を見つめた。

「宇集院キャプテンには一点の曇りもあってはならない。常に完璧で男のなかの男として一線に立っていなければならないんだ。……大屋主代ときたら、なんだアイツは? 男女のクセにキャプテンをひどく困らせて、サッカー部の部費を削減しないといけないように追い込んだ! サッカー部だって全国大会準決勝まで進んだチームだったのに!……この屈辱が分かるか!?」

 激しく激昂する剛太郎に忍は尋ねた。


「あんたがそこまで宇集院にこだわる理由って何だい? まさか恋愛感情じゃないだろ」

「キャプテンはおれの夢だ。……おれはまだサッカー部員としてレギュラーに入っているけど、本当はもうプレーは出来ない……両足の靭帯がボロボロなんだ。 そんなおれが夢を託したのが宇集院魔朱麿。

 小学生の頃からずっと一緒にサッカーをやってきた、あいつなんだ! あいつだったらおれの夢を叶えてくれる……Jリーガーにだって、日本代表にだってなれる! だから、あいつの邪魔をするヤツは排除しないきゃいけないんだ」

 自己投影。

 そんな言葉が皆の胸によぎった。
 サッカーに青春をささげてきた若者の挫折感は、前途洋々の宇集院への一体化にむかってしまったのだ。

「でも結果的にあんたが起こした事件のせいで宇集院は疑われてしまったんだよ。自分の欲望を、宇集院を奉ることで隠れ蓑にするのはちっとおかしくないかい?
作品名:伝説のヤンキー 作家名:尾崎チホ