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魔法少女リリカルウィッチーズvol.4

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10th MISSION


ネウロイによるはやての洗脳という一大事。この報せを受け、聖王教会では管理局幹部の人間による緊急会議が行われていた。
「よもや司令官を直接狙ってくるとは…」
「それで、いかがいたしますかな?」
「決まっておろう。こうなってしまっては…」
「しかし、それは…!」
クロノがたまらず口を挟む。
「ハラオウン執務官。貴官は同席しても良いというだけ。発言の権限は与えていないはずだが?」
「っ…!」
この会議は実に一方的に進んでいた。異世界からの来訪者の活躍を良しとしない者達が中心になって会議を進めていた。クロノは先程言われた通り、同席を仕方なく許されたに過ぎなかった。
『今、世界を救おうと頑張っているのは統合戦闘航空団と彼女らに賛同する者達だ。こいつらは前線に出もせず、のうのうと己の保身を考えているような腐った連中だ。こいつらに任せていてはマトモな会議なんて出来やしない』
クロノは思い、拳を握りしめる。
「さて、八神の処分だが…」
「いっそ、統合戦闘航空団に撃墜させてはどうか?それならば仮に八神が死んだとしても我々が被る被害は少なくて済む」
「しかしそれでは我々が非難されるのではないか?」
「そんなもの、後でセイバーズが出した命令だと言っておけばよい。証拠は無いのだ」
「……」
『本当に馬鹿ばかりだ…』
クロノはこの会議が始まってから密かにボイスレコーダーのスイッチを入れていた。万一、何かあったとき証拠とするためだ。
「ふむ…。まぁ、それならよい。だが…」
その老人はクロノの方を見る。
「!」
表情には出さなかったがクロノは内心、録音がバレたのではないかと焦った。だが、その老人は少しクロノを見つめた後に目を逸らした
「では、そのように命令を下します」

「八神…!」
半分は冗談であって欲しいと願ってはいたものの、そんな希望的観測はいともたやすく目の前に現れた本人によって打ち砕かれた。今度こそ部隊内にどよめく声が上がる。
「八神二佐、応答してください。八神二佐!」
ミーナがはやてに通信を入れる。が、一切応じる様子はない。
「ダメね…。全く応えないわ」
「やはり操られているのか?」
バルクホルンがミーナに訊く。
「そのようね」
「くそっ、ネウロイめ…!」
それを聞いて歯噛みするバルクホルン。そこへ通信が入る。
「こちらヴィルケです。…!……了解」
通信を終えたミーナは暗い表情を浮かべた。
「ミーナ、よくない報せがあるようだな?」
「ええ。……たった今、八神二佐に撃墜命令が下ったわ。ストライクウィッチーズは直ちに八神二佐を撃墜、身柄を確保しろとのことよ」
「来たか…」
シャーロットが苦々しく呟く。
「シャーリー…?」
「ルッキーニは下がってな。お前や宮藤、リーネ達には任せられる仕事じゃない」
「う、うん…」
不安げにシャーロットを見つめるルッキーニ。
「大丈夫だよ。ルッキーニが不安に思うようなことは絶対ないさ」
シャーロットはそう言ってルッキーニの頭を撫でてやる。しかし内心では最悪の事態ー人を殺すということーを想定してもいた。恐らくルッキーニや他の隊員達も同じ考えを持っているだろう。
「八神二佐を撃つ…?私達が…ですの?」
「ペリーヌさん…」
「八神を撃つ。つまりそれは、人を撃ち、最悪殺す…と、そういうことだ」
「少佐がやるとおっしゃるのでしたら、私も…!」
「いや…ペリーヌ、リーネ、お前達は無理をする必要はない」
そういい放つ美緒も、辛そうだった。

「…エーリカ、お前はどうするんだ?」
バルクホルンが訊く。
「やるよ。でも絶対、八神を失うようなことはしない」
「ふっ、お前らしいな」
「だけどさー、上もひどい命令を下してきたよね」
「ああ、全くだ」

「人を撃つなんて、私には…」
「サーニャ、無理しなくていいんだ。私が行ってくる」
震えるサーニャをエイラがそっと抱き締めて囁く。
「ダメよ、エイラ。人を撃つなんて、そんなの…!」
「私だってやりたくなんかない。でもやらないと私達がやられちゃうんだぞ。な、だから行ってくる」
「…うん」

そして、時は訪れた。
「……ストライクウィッチーズ、これより命令に従い行動する。なお、この命令に関しては任意参加とし、強制はしない。また、この命令における隊員の全ての行動の責任は私が負うものとする。全機、攻撃を…」
「「待ってください!」」
ミーナが攻撃命令を下そうとしたその瞬間、芳佳とスバルが同時に叫ぶ。
「宮藤…」
「スバルさん…」
美緒とミーナが二人をみやる。
「こんなのおかしいです!」
「スバルさんの言う通りです。味方同士で撃ち合うなんて…そんなの間違ってます!」
「宮藤、ナカジマ…お前たちの言うことは最もだ」
「なら…!」
スバルが言おうとするのを遮るように美緒が続ける。
「しかし、だ。やらなければこちらがやられてしまう。私たちがやられてしまっては、誰がこの世界をネウロイから救い出す?」
彼女の言っていることは皆が分かっていることであり、スバルも返す言葉が見つからず黙ってしまう。
「私たちにはそんな使命と責任がある。故にここで剣を納める訳にはいかない。たとえ味方が敵になっていようとも、だ」
そう言って美緒は烈風丸を引き抜く。
「坂本さん…!」
「だが安心しろ、峰打ちで仕留める。絶対に八神を失うようなことはしない」
美緒はそう言って皆に弾幕を張って突入の援護をするように指示する。
「まさか、お一人で突っ込む気ですか!?」
その指示を聞いたエリオがたまらず美緒に訊く。
「無論、最初からそのつもりだったが?」
「ダメだ少佐、危険過ぎる!」
「バルクホルン大尉の仰る通りです。八神部隊長相手にロングレンジで真正面から突っ込んでいくなんて自殺行為です!」
バルクホルンとティアナが止めようと口を出す。確かにティアナの言う通り、ロングレンジにいるはやて相手に何の対策も無しで正面から突撃するなど死に等しい行為であった。
「だが私以外で八神に直接ダメージを与えて殺さずにダウンさせられる者が他にいるか?」
答えはなかった。近接戦闘ならばエリオやスバル、ギンガにも可能だが、エリオのデバイスでは峰打ちはほぼ不可能、スバルやギンガは元々陸戦型のため空中戦にはあまり向かない。ウィングロードはあるものの、どうしても直線的軌道になるため読まれてしまう可能性があった。
そうなると機動性と速度、さらに魔力を上乗せした峰打ちという打撃攻撃が可能である美緒以外にこの場で適任はいなかった。ヴィータやシグナムがいれば、また状況は変わったのかも知れないが。
「ということだ。いいな?」
皆を見て言うと、美緒は再びはやての方を向く。
「ならせめて、私たちが囮になります。ギン姉も、いい?」
「もちろん」
スバルがそう、美緒に進言する。
「僕とフリードも撹乱くらいは出来ると思います」
スバルに合わせてエリオもそう進言する。「ああ、頼む」
美緒の言葉を聞いて、三人は美緒の周りに並び立つ。スバル、ギンガ両名は当然のことながらウィングロードを展開している。
「他の者は援護を。くれぐれも味方や八神に当たらないように細心の注意を払え。では…行くぞ!」