りんごのさきに
りんごのさきに。
※注意 獣の奏者4巻ネタバレ含みます。
冷たい夜。
それは、星が、包んでくれるような、淡い闇の中。
母に向かって、空に向かって、世界中のものに向けて、泣いていた。
どうしてだろうか。
ああ、今だ。と分かってしまった。
冷たかった手から、更に温度が消えていく。残ったのは、おれと、父のぬくもりだけ。
分かっていた。
覚悟はしていた。
うそだ。
覚悟なんてしていなかった。
慟哭。
おれだけじゃない。隣に居た父も。
失ってしまったものすべてを埋めるかのように、泣いた。
涙を流した。
涙以上の何かも、一緒に。
考えろ。考えろ。
母は、無駄にならずにすんだと。むくわれたと。
これからは王獣も闘蛇も争いに使われることはない。絶対、と言い切れないとしても、可能性は限りなく低くなった。
隠されてきたことが、全て明かされて。
これからの未来、俺たちは知識を得て、考えることが出来るようになって。
それは母の悲願だった。
おれが来たことが、それを叶える最後の一手となった。
生きていれば、きっとリランが死んだことに、一生悔やんでも悔やみきれない想いを抱えて長い道を歩いていくことになっただろう。
まだ奏者ノ技は知識として持っていたから、墓に入るまで兵がつくような生活が続いたかもしれない。
ようやく、母が抱いていた不安や苦悩が解き放たれたと言えるのかもしれない。
悩み、迷った末の母の最期が、手の中のこれだったとしても。
これだけ必死に道を探し続けた結果が、手の中のこれだったとしても。
真実を暴くための研究をし続け、決して悔いのないの生き方だったと、手の中のこれに言えたとしても。
それでも、生きて欲しかった。
これぐらいの、わがままは、ゆるしてください。
いいや、わがままなんかではない。これは心からの願いで。
ああ、どれだけ考えても、納得なんて出来やしない。
俺がしあわせに生きれるための、なんて言い訳なんて要らなかった。
おれに、父に、王獣に、国に、世界に、いろんなものを渡してくれたとしても。
それでも、みんなと一緒に、生きて欲しかった!