りんごのさきに
2
「王獣たちも、こんな気持ちだったのかしら?」
その目はとってもきらきらと輝いていた。
自分がこの人を好きだ、と気づいて。
そして相手も同じ気持ちであると気づいて。
そんな話をお互いにしていると、エリンは突然王獣のことについて語りだした。
王獣は本当に相手を思いやっていることがその動きで分かるのだとか、発情すると毛の色が変わるのだとか、それはそれは止まることなく言葉が飛び出してくる。
そして自分も同じような想いを抱くに至ったのだと、感慨深げにしていた。
そんな彼女の様子を眺めていて、俺は思わず小さく笑った。
「あなたはやはり、王獣が大好きなのですね」
するとエリンは少し、むっと頬を膨らませて。
「それでも、私があなたを思う気持ち、全く変わりはありません」
「ええ、分かっています」
そしてその手を、そっと伸ばして両手で包み込んだ。
***
父はぽつりぽつりと、降り始めの雨のように少しずつ思い出話をしてくれた。
ようやく闘蛇衆とセザンとの繋がりも後の者に任せられるようになり、父は指物師の仕事を再開した。しかも、わたしの家でだ。
話せる時間が、増えた。わたし自身、教導師なので自由な時間は少ないが、それでも父と共に居る時間が増えたことは純粋に喜ばしいことだった。
お互いの話をして、そして次に出てくるのは母の話。
あまり闊達な方ではない父だが、それでも話すときはほんとうにやさしそうな顔で語ってくれた。
わたしもきっと、同じ顔をしているのだろう。