朔日と静寂
二十三時五十八分、静まっていた部屋の中に、微かな水音が響いて染みる。
言葉を紡がない唇ふたつ、そっと重ね合わせて、その奧まで欲しがって。
「……っ、ん──」
言葉にならない声が震える。偽りに変じようのない、ただ甘い──熱い──溜息。
体を寄せ合って、腕を絡めて、唇を合わせて。もっと、もっとと貪りあう。
唇が触れ合う感触。舌を差しのばして絡みつく濡れた熱さ。
溶ける、潤む、溢れる──全部が、快い。
「久藤……くん──」
浮かされたような潤み声。余韻を拾うように、隣の部屋の柱時計が鳴った。
二十四時──零時。朔日が過ぎる。
嘘の許される日が終わり、他愛ない言葉を嘘かと猜疑する日が終わる。
唇の奧、そのどこにも嘘偽りが隠れてなどいないことを確かめるように、深く深く重ねていた口接けを、准は名残惜しくそっと解いた。
「先生……」
そうして、昨日一日仕舞っておいた、大切な言葉を唇に上せる。
「先生──好きです」
決して嘘にはならない言葉。
「好きです……」
いつだって、この人に告げたくて告げたくて仕方のない言葉。
「好き──」
「……はい──」
やがて繰り返す恋の言葉は、再びの口接けのなかへと紛れて溶けて。
──零時三分、ふたりきりの臥所の中は、衣擦れと、水音と、そうして尽きせぬ睦言に満ちる。